日本看護サミット(井部俊子)
連載
2013.12.16
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
第18回日本看護サミットが,2013年10月30-31日に名古屋国際会議場で開催された。日本看護協会の協会ニュース(2013年11月15日付,Vol.556)によると,両日の参加者数は延べ5498人であり,うち看護学生も延べ1350人含まれていた。
看護の新たな価値の創出
サミット(summit)とは「頂上」である。広辞苑によると,「1975年フランスの提唱に始まる主要先進国首脳会議」のことで,「参加国は当初,米・英・仏・独・伊・日本の6か国で,のち,カナダ・EU(欧州委員会委員長)・ロシアが加わって年1回開催され,経済・政治問題が広く討議される」とある。サミットのもうひとつの意味は,「各方面の首脳会談,トップ会談」とも説明される。
看護サミットは,1996年より厚生労働省が後援し,各都道府県の行政と看護協会が主体となって開催されてきたものである。日本看護サミットは,「全国の看護分野における教育・実践・行政を担う方々および関係団体等が一堂に会し,これからの看護の役割や将来の展望について提言や意見交換を行い,看護の質の向上と看護職の確保・定着を図ること」を目的としている。第1回の看護サミットは岐阜県で開催された。以後,石川,神奈川,滋賀,三重,千葉,沖縄,熊本,静岡,岩手,広島,大阪,東京,北海道,香川,福岡,青森,愛知と引き継がれ,各都道府県の看護協会長が看護サミット実行委員会の委員長となり企画・運営を担ってきた。そして毎年,閉会時に「日本看護サミット宣言」を発表する。
「第18回日本看護サミット愛知'13」は,愛知県看護協会長(中井加代子氏)が実行委員長となり,メインテーマは「看護の新たな価値の創出」とされた。プログラムは,基調講演に続いて4つの分科会が準備された。それらは看護の深まり・高まり・拡がり・継がりと命名された。看護の深まりは「看護の質評価の推進」,看護の高まりは「看護学の発展と魅力ある看護教育」,看護の拡がりは「地域に向けた役割拡大・業務拡大」,看護の継がりは「看護の継続性と業務改善」というテーマであった。
分科会に先立つ基調講演は,18回の看護サミットのうち12回に座長もしくは演者として出席したという栄誉(?)により,私が「看護の新たな価値の創出に向けて」と題して講演を行った。分科会後の2日目には,「これからの看護職の未来を語る」というテーマで,鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト),有賀徹氏(昭和大学病院長),坂本すが氏(日本看護協会長)による鼎談が行われた。
今回の「日本看護サミット愛知宣言」は実行委員長によって以下のように宣せられた。
*国民のニーズに応えられるよう看護の質を評価し,さらなる看護の質向上を追究します。
*看護実践活動と連動した研究により,さらなる看護学の発展に寄与するとともに,魅力ある看護教育を行い,将来を担う質の高い看護職の育成に努めます。
*医療施設や在宅などのあらゆる場でチーム医療を推進するため,保健・医療・福祉をつなぐキーパーソンとして役割の拡大を積極的に図り,看護職への期待に応えます。
*看護職がいきいきと働き続けられる環境づくりに組織的に取り組み,看護職の定着促進に努めます。
看護サミットの続き
看護サミット会議1日目の夜は交流会が開かれた。その席上,ほろ酔い加減の友人が私のテーブルにやってきて「コレエダさんに伝えてくださいよ」と言う。このたび,第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した映画「そして父になる」は,息子を取り違えられたふたつの家族の物語である。映画のなかで,故意に取り違えた犯人が病院の看護師であったことを残念に思っているというのである。映画の中では福山雅治と尾野真千子が演じる野々宮家の幸せな家族が妬ましかったので「わざとやりました」と元看護師が法廷で告白する。「そして父になる」は,日本でも昭和40年代までは頻繁にあった「取り違え事件」を丹念にリサーチした上で是枝裕和監督がオリジナルの脚本を書き上げたとされる。
看護師がどう描かれるのかは看護師にとって重大な問題であり,今回の基調講演でも「看護の語られ方」に私は言及した。ただ,「そして父になる」での看護師の告白は,映画の1シーンに過ぎないのだと私は考えることにした。余談だが,福山が育ての子に,「慶多,もうミッションは終わりだ」というシーンに私は涙した。
*
18年続いた看護サミットは今回で終了する。ただし,開催継続を希望する現場の声を受けとめて,日本看護協会が引き継ぎ,2015年に再開することにしたと,坂本すが氏が宣言した。
ところで,歴代のサミット宣言はどこがフォローしているのであろうか。
(つづく)
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