医学界新聞

2013.12.09

Medical Library 書評・新刊案内


解剖を実践に生かす
図解 前立腺全摘術

影山 幸雄 執筆
吉岡 邦彦,近藤 幸尋,蜂矢 隆彦 執筆協力

《評 者》武中 篤(鳥取大教授・腎泌尿器学)

小切開・腹腔鏡・ロボット支援の各手術のコツをエキスパートが披露
真の前立腺外科解剖が示された一冊

 著者・影山幸雄先生は,これまで数々の講演で見事なオリジナルスライドを用いて前立腺全摘,特に小切開手術の詳細な術式を解説されてきた。いつか書物として刊行されれば,前立腺全摘を行う多くの泌尿器科医にとって有用な手術書となるのに,と考えていたのは,私だけではないだろう。

 著者も述べておられるように,手術はよく自動車の運転に例えられる。快適かつ安全な運転のためには「ロードマップの更新」と「ドライビングテクニック」,この双方が必要である。「ロードマップ」とは,現在では「カーナビゲーション」と言ってもよいかもしれないが,これはとりもなおさず「外科解剖」に相当すると考える。「カーナビゲーション」は2年も経つと現状にそぐわなくなり更新が必要となるが,外科解剖においても術式の進歩に伴った「更新」の必要性は高いと考えている。特に,ロボット支援手術の登場により,「ドライビングテクニック」の多くは手術用ロボットが補完できるようになり,「ロードマップ」の重要性はますます高まっている。

 本書は,タイムリーにも,サブタイトル「解剖を実践に生かす」のごとく,外科解剖に大きな焦点が当てられている。そして,小切開手術,腹腔鏡手術,ロボット支援手術,それぞれに必要な外科解剖を詳細に提示している。第1章では各術式に共通する外科解剖が示され,そして各術式を解説した第2-4章には個別の解剖学的所見がちりばめられている。まさに「ロードマップの更新」を実感できる手術書である。しかし,これだけ詳細な外科解剖を目の前にすると,著者の真意は別のものではなかったと勘繰りたくなる。すなわち,著者は各種術式の完成度を向上させていく中で,真の前立腺外科解剖を明らかにすることをむしろ最終目的としていたのではないだろうか。

 国内で,前立腺全摘に関し,小切開手術,腹腔鏡手術,ロボット支援手術の3術式すべてに精通している泌尿器科医はおそらく存在しない。ある術式に精通している術者は,逆に他の術式に懐疑的なコメントを述べることも多い。その中で,本書の特徴は3術式すべてを肯定的に掲載している点である。各術式のエキスパートが惜しげもなくそのコツを披露し,執筆に協力されている。著者のお人柄に加え,「3術式を通し前立腺外科解剖を明らかにしたい」という強い思いに,各エキスパートが心を動かされたからに違いない。

A4・頁320 定価14,700円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01752-7


《眼科臨床エキスパート》
所見から考えるぶどう膜炎

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
園田 康平,後藤 浩 編

《評 者》宇多 重員(二本松眼科病院長)

最善かつ最新の眼科医療を提供するために手元に置いておきたい一冊

 眼免疫に詳しい園田康平教授,眼病理に詳しい後藤浩教授の編集の下,第一線で活躍するエキスパートの先生方のご執筆でまとめられた本書は「専門外であっても最新の知識のアップデートを容易にし,明日からすぐ診療に役立つ内容を」との目的で発刊された。

 眼科の強みは「見てわかる」ことである。しかしぶどう膜炎患者においては,それぞれの所見が原因疾患の同定に直接結び付くわけではないのが難しいところである。疾病背景には自己免疫疾患,感染症,血液疾患,悪性腫瘍など,全身異常が関与していることが多いが,初診時に全身検査を行うことは臨床の現場では難しいのが実情である。それゆえ,診断が難しい。また軽症と思って加療していたら突然悪化することも少なくなく,放置すれば中途失明する疾患も数多い。さらに再発の可能性が高い慢性病でもあることから,ぶどう膜炎は眼科医泣かせの疾患といえる。

 本書ではこうした悩みを解決すべく,写真素材を多く取り入れてわかりやすくまとめられている。画像写真をふんだんに盛り込み,実際に目に見えるぶどう膜炎の眼所見の特徴や特性を解説。そこから導き出せる可能性と診療に対する考え方をロジカルに示してくれている。

 本書は総説,総論,各論の3部からなる。瑠璃色にカラー化された目次は目にやさしく,引き込まれる雰囲気だ。総説,総論ではぶどう膜炎の基礎知識を解説。各論では疾患を細かく分類し,丁寧に説明するとともに診療のポイントが効率よく整理されている。疾患の特徴,眼所見の特徴,続発症・合併症,画像検査,眼外症状,診断と鑑別診断,予後など,臨床の第一線で活躍されている先生方によって執筆されたその内容は最前線のものだ。診療の実践ですぐに役立てる知識が凝縮され,専門医にとってはブラッシュアップに活用することもできるだろう。検査器具,手術器具,薬剤,各種レーザー治療など医療を取り巻く環境は日々目覚ましい進歩を遂げている。患者に最善かつ最新の眼科医療を提供するために,診療時に手元に置いておきたい一冊である。

B5・頁308 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01738-1


がん患者心理療法ハンドブック

内富 庸介,大西 秀樹,藤澤 大介 監訳

《評 者》鈴木 伸一(早稲田大人間科学学術院教授・臨床心理学)

さまざまな軸からがん患者の心のケアをとらえた実践書

 2012年にがん対策推進基本計画が刷新され,がん患者の精神的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアのさらなる充実に向けた取り組みが始まっている。がん対策基本法の制定以降,がん診療を行う各地域の主要な医療機関に緩和ケアチームなどが置かれ,がん患者の疼痛管理やせん妄およびうつ症状などへの対応が積極的に行われるようになり,がん患者の心のケアの基盤は整いつつある。しかし,がん患者が医療者に望んでいる心のケアの範囲と内容は,もっと多岐にわたっていると思われる。がん診療を行う医療者も,患者が「がん」という病を抱えながら生きていくがゆえに抱えるさまざまな生活上の不安や葛藤をいかに理解し,ケアしていくかが今後のがん診療の中核的な課題であることは理解しつつも,「誰が」「どこで」「どのように」ケアしていくかという点においては,スタッフの専門性や方法論,さらには状況的な制約などから,具体的な取り組みを実行できないジレンマを感じているのではないだろうか。

 このたび刊行された『がん患者心理療法ハンドブック』は,がん患者の心のケアの充実に向けた新たな取り組みへの「道しるべ」になるような,大変優れた解説書である。国際サイコオンコロジー学会(IPOS)公認テキストブックにも指定されており,その内容はがん患者への心理療法の全体像を理解しつつ,かつ各論の重要ポイントをしっかり学ぶことができる構成となっている。

 4部構成からなり,第1部では「治療の個人モデル」として,主要な心理療法(支持的精神療法,認知行動療法,認知分析療法,マインドフルネス心理療法,リラクセーション療法,動機づけカウンセリング,ナラティブ・セラピー,ティグニティセラピー,筆記による感情開示)が章立てされており,各章では当該の心理療法の背景理論,適応となる患者像,治療の流れと技法,事例提示,エビデンスなどが網羅的に解説されている。特に,第1章は「すべてのセラピーに不可欠な要素」という副題が付けられ,がん患者が抱える心理社会的問題や苦悩と,それに向き合う医療者の基本的な心構えや資質などについて詳細に解説されている。

 第2部は,「治療のグループモデル」として,感情表出,心理教育,意味の探求,配偶者との関係性などをテーマとして章立てされており,各グループ療法の展開が解説されている。いずれも,病棟や外来で導入可能な患者支援プログラムとしてのアイデアを提供してくれる。

 第3部は,「カップルおよび家族療法」として,進行がん患者の夫婦,性機能障害,ターミナルおよび死別の家族ケアがテーマとして章立てされており,がん患者のみならず,配偶者や患者の子どもなど,患者と患者を取り巻く家族の苦悩をどのように支えていくかについて詳細に解説されている。

 第4部は,「ライフサイクルに応じた治療」として,遺伝腫瘍,小児がん,がん患者とその子どもの支援,高齢がん患者,死別がテーマとして章立てされており,ライフサイクルのさまざまな局面で「がん」という病を抱えることの苦悩とそれによって生じる生活上の困難の緩和に,心理療法をどのように活用していけばよいかが具体的かつ詳細に解説されている。

 以上のように,本書はがん患者への心理療法の展開を,心理療法の方法論にとどまらず,がん診療の現場でどのような対象や文脈(初発,再発,ターミナル,遺伝,小児,高齢者,死別,子育て)に,どのようなセッティングで展開するか(個人,グループ,本人,家族)といった複数の異なる軸からがん患者の心のケアをとらえ,その具体的な実践を紹介している点が,これまでの書籍にはなかった特に優れた点であることを強調しておきたい。本書が,がん診療に携わる多くの医療者に活用され,わが国のがん患者の心のケアがさらに充実していくことを期待したい。

A5・頁456 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01780-0


《神経心理学コレクション》
音楽の神経心理学

緑川 晶 著
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集

《評 者》岩田 誠(女子医大名誉教授・神経内科学/メディカルクリニック柿の木坂院長)

脳科学を理解するための研究の新たな方向性を示す良書

 以前から,いつかはこのタイトルで書かれるであろうことを期待していた著者の書物ということで,大きな期待を持って読み始めた途端,著者の語り口に引き込まれてしまった。私自身,音楽を愛する者の一人として常日ごろ思っていること,すなわち音楽とは多数の人々が同時に交流するコミュニケーションの最良の方法であるということを,この本の著者は,「はじめに」と題された冒頭の章で,実に鮮やかに示してくれたからである。これを読んだ私は,とっさに橘曙覧の歌「たのしみは そぞろ読みゆく書の中に われとひとしきひとをみしとき」を思い出した。

 音楽家であると同時に,神経心理学という神経科学分野の研究者でもある著者が本書において語るところには,音楽する者としての心情的な共感を感じるとともに,神経心理学に興味を抱き続けてきた者としての納得できる明快さを感じる。神経心理学の分野における音楽能力と脳機能との関係についての研究は,言語機能と脳の相関を探る研究,すなわち失語症の研究と同じくらいの歴史的背景を有している。一般に,失語症の研究は,ブローカによる失語症患者タン氏の臨床病理対応研究に始まるとされているが,それ以前にも,またそれ以後にも,今日流に言えば失語症であったと思われる患者の記載中に,言語機能は失われていながら音楽能力は保たれていたと記載されている記録が残っている。これらの記載を残した人々は,これを不思議なことだと思ったのに違いない。それがゆえにわざわざ記載したのであろう。それほど長い研究史があるにもかかわらず,言語能力の神経機構が次第に解明されてきているのに対し,音楽能力を実現している脳内神経機構に関しては,いまだに解明されたとは言い難い状態である。特に,音楽を実現する能力を大脳機能局在論で解明しようとする試みは,未だにはっきりした結論にたどりついていない。

 そのような現状に対し,本書の著者は,現代のいわゆる"脳科学者"たちのような独断的な理論を振りかざすことなく,いまだわからないところをいまだわからないこととして,素直に示してくれている。そして,このわからない部分,すなわち今日の神経心理学的枠組みだけでは解明できない部分を,本書の著者は,ネオジャクソニズム(neojacksonism)的思考でとらえ直している。著者がいみじくも本書の冒頭に示したごとく,元来,多くの人々が等しく参加する社会的コミュニケーション・システムであったはずの音楽活動が,今日のような演奏家と聴衆という二極化の下で営まれるようになったことは,明らかにジャクソン流の階層化が進んだことを示している。音楽能力の大脳局在を明らかにし得ないのは,このような階層化のためであろうと主張する著者の考えに,私は全面的に賛成する。

 この書物は,単に音楽というヒトに固有の表現行動の脳機構を論じたものではなく,ヒトの精神活動,そしてそこから生じる社会的行動の脳科学を理解するための研究の新たな方向性を示しているという点において,脳科学に興味を抱くすべての人々に読んでいただきたい良書であると思う。

A5・頁168 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01527-1


ウィリアムズ血液学マニュアル 第2版

奈良 信雄 監訳

《評 者》岡田 定(聖路加国際病院・血液内科部長)

「血液学の知識の棚卸」に最適

 Williams Hematologyは,Wintrobe's Clinical Hematologyと並ぶ血液学の世界的成書である。私は血液内科を専門にしているが,WilliamsもWintrobeも残念ながら通読したことがない。あまりに大著で近寄り難いからである。部分的に少しかじるだけで,気がつくともう新しい版が出ている。「せっかく購入したのに,また古くなってしまった!」と悔やむことになる。

 あなたの場合はどうだろう。もし私と同様なら朗報がある。Williamsの"一番美味しいところ"をまとめた『ウィリアムズ血液学マニュアル 第2版』が出版されたからである。

 Williams Hematologyが「雪を頂いた高い山」なら,本診療マニュアルは「陽当たりのよい小高い丘」のようである。高い山に登ることは困難でも,小高い丘ならピクニック気分で歩き回れる。

 本書をパラパラとめくってみる。フルカラーで美しい。「前版よりはずっと洗練されている!」少し読んでみる。箇条書きで簡潔な記載である。翻訳本特有の違和感がない。ひとまとまりの知識が頭にすんなり入ってくる。

 全体をひと通り斜め読みしてみた。まず自分がよく知っているはずのコモンな疾患。臨床の場で必要にして十分な知識が詰まっている。総論ではなく具体的である。「あ,そうだったの」と何度もうなずいては,マーカーを何本も引くことになった。日本の教科書にはなじみの薄い疾患もきちんとまとめてある。この本は日本標準ではなく世界標準である。

 「鑑別診断」と「治療」がとりわけ光っている。「鑑別診断」はさらりとした記述だが,さながらクリニカルパール集である。「治療」はあくまでエビデンス重視。「当然の治療」と思っていても,「……がよく用いられるが,標準的な治療より有効か否かは,ランダム化臨床試験が必要である」とくぎが刺してある。

 かのウィリアム・オスラーは,年に1度,「医学知識の棚卸」をしていたそうである。現在の血液学の研究,臨床の進歩は著しい。血液学の知識をブラッシュアップするには,できるだけ効率的であることが要求される。質が保証されていて包括的でアップデートされた情報源が望まれる。インターネットで得られる知識は玉石混交である。論文や雑誌からの知識は部分的である。臨床家には豊富な知識よりも日々の診療に真に役立つ知識がほしい。このような知識の情報源として,本書ほど最適なものはないのではないだろうか。

 あなたも『ウィリアムズ血液学マニュアル 第2版』で,「血液学の知識の棚卸」をされたらどうだろうか。

A5変型・頁768 定価8,820円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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