医学界新聞

寄稿

2013.10.07

【寄稿】

若手緩和ケア医のつながりを生む2日間
第1回医学生・若手医師のための緩和ケア夏季セミナーに参加して

上元 洵子(聖隷浜松病院緩和医療科)


 日本緩和医療学会主催の「第1回医学生・若手医師のための緩和ケア夏季セミナー」(以下,緩和ケアセミナー)に2013年8月24-25日の2日間参加しました。緩和ケア医としての心得やキャリアパスについて大いに刺激を受けた2日間となりました。本稿では,その内容について報告します。

緩和ケア専門医としての心得

 プログラムは大きく分けて1日目の講演と,2日目の分科会という構成でした()。基調講演「緩和ケアの歩み」は日本緩和医療学会副理事長の木澤義之先生(神戸大)より,また,全体セッション「緩和ケアの現場」では,現在さまざまな分野を舞台に第一線で活躍する7人の講師からお話を聞きました。世界と日本における緩和ケアの歴史に関する話題では,現在の緩和医療専門医が社会に求められる姿勢についてあらためて考えさせられました。「専門医は,より高度な知識と技術を必要とする緩和ケア領域の複雑な諸問題に対応することが多いため,緩和ケアに関する知識や理解はもちろんのこと,内科的マネジメント力や粘り強く卓越したコミュニケーションスキルなども必要である」との言葉に,緩和ケアに携わる多職種の役割と機能を理解しながらそれぞれ専門性を生かした連携を図る重要性を感じました。

 緩和ケアセミナー2日間のプログラム

 2日目の分科会の一つ,「緩和ケアの研究」では,日本における緩和ケア研究の第一人者である森田達也先生(聖隷三方原病院)が,研究によって患者へのケアが向上することを示されました。薬物療法・新規治療開発は,緩和ケア研究における今後の課題であり,他国とも連携しながら,また自国でもオリジナルで介入研究を進めていく必要があると述べられました。私自身,「緩和ケアの研究をしてみたい」と思っていても,その対象や方法が多様でハードルが高く感じていました。臨床的疑問に向き合うべく研究を行う際には,自施設でコホート研究などに取り組むか,大規模多施設試験に参加するか,そのテーマによって使い分けていく考え方も大切だと実感しました。

写真 左:全体セッション前の講師紹介での一コマ 右:セミナーの参加者全員で

自ら一歩踏み出すことで広がるキャリアプラン

 「私のキャリアパス」では,3人の先生がご自身の経験から緩和ケア医を志したきっかけについてお話しされました。現在医師17年目の新城拓也先生は,昨年3月に開業し,神戸で在宅診療を行っています。脳外科医・内科医として漁村や農村で働くなかで,根治不能の患者さんと出会い,緩和ケアがご自身の医師人生のテーマになったそうです。

 医師9年目で消化器内科・血液内科がご専門の白土明美先生は,治療期における化学療法中止のコミュニケーションや,終末期の見極め・ケアへの悩みから「緩和を学びたい」という思いに至ったそうです。医師7年目の沼田綾先生も血液内科で,在宅移行,移植を含めた血液腫瘍診療における緩和ケアへの困難感を抱いていたところ,神谷浩平先生(山形県立中央病院)との出会いもあり,つくばでの緩和ケア研修を始めることになりました。それぞれの先生方が日常診療の中で悩みながら,何らかの転機をいくつか迎えつつ,緩和ケアの世界に足を踏み入れ,歩んでいるのだと知りました。自ら戸を叩くことも大切だし,何かのきっかけでその扉が開かれることもある,そのタイミングを見失わずに日々歩んでいくことが重要であると感じました。

 また,「全国研修施設紹介」では,北は札幌から南は福岡まで全国13か所の緩和科の医師が,自施設の特色を紹介してくださいました。学会企画で一施設の研修内容が紹介されることは非常にめずらしく,画期的な取り組みであったと思います。

セミナーに参加したからこそわかるネットワークの重要性

 セミナーの醍醐味は何といっても参加者同士の親睦です。講演の合間の時間や,懇親会,グループワークでさまざまな交流ができました。各地から集まったメンバーが世代を超えて互いの日常診療の考え方,日ごろの悩みについて話し始めるとあっという間に盛り上がり,活発なディスカッションが繰り広げられる連鎖が生まれていきました。

 学生や研修医時代は,緩和ケアを志す同職種の方になかなか出会えず,進路に悩んでいました。そんな時期を振り返ると,このような時間が夢のように(!?)うれしくありがたく感じました。刺激や学びに満ち,また今後の緩和ケアを担う世代の熱気やつながりを感じる有意義な時間でした。

 全体を通じて個人的に印象に残ったこと,考えさせられたことは,大きく2つあります。1つ目は,緩和ケアに今後携わる上でネットワークを形成することの重要性,2つ目は緩和ケア専門医を志す上での自分自身の在り方です。自己研鑽も緩和ケアの普及もチーム医療も,己の力のみでは限界があります。そんなときに助けられるのが先輩後輩・同級生・他職種を含めた同志のつながりであり,つながりがあってこそ学び合い,サポートし合い,さらに充実したより良いものを築いていけるように思います。セミナーで得られたご縁を柔軟かつ強固なものにしていきながら,自分自身がどのように学び成長していくか,そして緩和ケアの提供と普及にどのようにかかわっていくか,今後も悩みつつ歩んでいきたいと思います。

■第1回「医学生・若手医師のための緩和ケア夏季セミナー」を企画して

 緩和ケアはまだ新しい分野です。緩和ケア医を志す若手医師は,同じ道をめざす仲間も少ないなかで,自分のキャリアに対する不安を常に抱えていました。こうした状況から,十数名の有志とともに,「緩和ケア医を志す若手の交流の場が必要!」と訴えてから2年,思いがようやく形になりました。

 今回の夏季セミナーでは,これまで3月に行われていた日帰りでの「医学生・若手医師のための緩和ケアセミナー」を発展させ,1泊2日の合宿形式としました。緩和ケア医をめざす同世代,そして指導医の先生方とより長い時間を過ごすことで,お互いを知り,歩んできた道を振り返り,そしてめざすべき未来を語り合えるような場を設けることが目標でした。

 ファシリテーターにとっては初めての合宿形式。半年以上前から準備を始め,忙しい合間の会議,何百通にもおよぶメールのやり取りがありました。時には議論が煮詰まりながらも,本気で取り組んでいたからこそ「少しでもいいものを」と,皆で意見を出し合えました。事務局の的確なサポートもあり,何とか最高の形で当日を迎えることができました。

 それでも私は不安でした。「ここまで大々的に企画して,皆さんに『良かった』と思ってもらえなかったらどうしよう……」。

 結果はどうだったか? 参加者の皆さんの笑顔が,全てを物語っていたと思います。それが,企画した私たちの何よりの喜びです。ご協力いただいた先生方,事務局,学会,そして参加者の皆さん,全ての方々に感謝申し上げます。

 ただし,100点満点の内容だったかというと,そうでもないのではないでしょうか。改善すべき点はたくさんあります。今年の笑顔を,これからもつないでいけるように,そして願わくはもっと大きく,もっと大勢の方に。もう私たちは来年に向けて走り出しています。

(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター 西智弘)


上元洵子氏
2007年島根大医学部卒。同年より自治医大病院にて初期研修。09年同大にて内科系後期研修(1年間)。10年より栃木県立がんセンターにて腫瘍内科レジデントとして研修(2年間)。2年目の後半からは,緩和ケア科専属での研修を行う。12年,岡山済生会総合病院緩和ケア科にてチーフレジデントとして勤務(公益財団法人笹川記念保健協力財団のホスピス緩和ケアドクター研修として)。13年4月より現職。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook