医学界新聞

2013.09.30

Medical Library 書評・新刊案内


統合失調症

日本統合失調症学会 監修
福田 正人,糸川 昌成,村井 俊哉,笠井 清登 編

《評 者》山内 俊雄(埼玉医大名誉学長/埼玉医大かわごえクリニック)

統合失調症には精神医学のすべてが凝縮されている

 統合失調症には,精神医学の基本のすべてが含まれている。統合失調症の症状を上手に把握できれば,すべての精神疾患の症状把握が可能になる。患者さんの心に寄り添って,なぞることができれば,他の精神疾患でも通用する。治療にしても家族支援にしても,しかり。統合失調症には,精神医学のすべてが凝縮されているといえよう。

 だからこそ,これまでにも数えきれないほどの教科書が出版されてきた。例えば1960年代に出された『精神分裂病』1)では病因論や研究の進展の現状が語られており,オーソドックスな教科書の体裁をとっている。「統合失調症」と呼称が変わってから発刊された『統合失調症の診療学』2)では,医師だけでなく,コメディカルスタッフも視野に入れたものになっている。このように,統合失調症の教科書には,その時代の精神疾患に対する考え方が反映されている。

 それでは,このたび発刊された『統合失調症』にはどんなコンセプトが盛り込まれているのであろうか?

 この本の姿勢は,「序論」「当事者・家族から見た統合失調症」という章に明示されている。そこには,“統合失調症患者から”“統合失調者の母親をもって”“統合失調症になってもだいじょうぶな社会を願って”“統合失調症の保健・医療・福祉のあるべき姿”“統合失調症治療の在り方について考える”などのタイトルでそれぞれ当事者や家族の立場から書かれている。本の最初の章にこのような患者・当事者の立場からの文章が置かれることは,これまでの「医学書」にはなかったことである。しかもその内容が,統合失調症を考えるにあたっての新たな視点をわれわれに突き付けているという意味でも,インパクトが強い。

 そこには編集者の深い意図があることが「序」を読むとわかる。“教科書は,その内容が統合失調症の当事者や支援者に向けたサービスに役立つことを,最終的な目標としています”“専門家向けの教科書としては異例かもしれませんが,今後こうした構成が常識になっていくだろうと考えています”と述べている。

 この序文を読んで,これこそまさに編集者の卓見であると感動を覚えたのである。と同時に,すべての精神科医や精神医療に携わる人に,ここに書かれた患者・当事者の文章と,それに続く,編集者によって作られた「統合失調症の基礎知識-診断と治療についての説明資料」を併せて読み,これらの重い問いかけを受け止めてほしいと思う。

 もちろん教科書であるから,「統合失調症の概念」「基礎と研究」「診断と評価」「治療」「法と精神医学」といった項目立てのもと75にも上る章に,最新のデータや考え方,具体的な技法などが記述されている。しかも,それぞれの章が程よい長さにまとめられており,小見出しが簡潔なキーワードとなっているので,一つのキーワードを選び,知識を確かめ,新しい知見を得,そして診療や研究・教育の場に生かす,そんな読み方のできる,斬新なアイデアのもとに編集された新しい教科書である。

文献
1)猪瀬正,臺弘,島崎敏樹(編).精神分裂病.医学書院;1966.
2)松下正明(総編集),岡崎祐士(担当編集).統合失調症の診療学.中山書店;2002.

B5・頁768 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01733-6


《精神科臨床エキスパート》
不安障害診療のすべて

塩入 俊樹,松永 寿人 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集

《評 者》上島 国利(国際医療福祉大教授・精神医学)

個々の類型できめ細かく説明された良書

 1980年に発表されたDSM-IIIでは,neuroticという用語は残ったが,“神経症”という概念はなくなった。DSM-IIIをまとめたSpitzerによれば理論が先行する精神分析の思想を避け,記述的な言葉だけで表現したためという。一方当時から,神経症の発症には脳内の神経化学的変化が関与するという生物学的な考え方が台頭し,神経症という概念から離れて個々の症状をとらえて分類したほうがその治療も適切に行えるという方向へ向かった。

 神経症圏の疾患は,「不安障害」「身体表現性障害」「解離性障害」にそれぞれ分類されたのである。その後約30年が経過したが,この間の変遷を1967年に医学書院から出版された単行本『神経症』(井村恒郎,ほか)と本書,すなわち『不安障害診療のすべて』を比較することにより,この領域の学問の進歩と現代の到達点,課題を明らかにすることができる。

 『神経症』は歴史的展望,成因(社会的背景,身体因,遺伝,心因・性格因の総論)が詳細に記載されているが,本書では総論の部分は比較的簡潔であり,個々の類型できめ細かく説明されている。しかし,従来神経症で重視されたある体験(心因)により発症し心理的に固定した心身の機能的な障害といった観点での記載ではない。

 『神経症』の類型には,不安神経症,心気症,ヒステリー,恐怖反応,強迫反応があげられている。一方,本書の疾患各論では強迫性障害,PTSD,パニック障害,GAD(全般性不安障害),SAD(社交不安障害),特定の恐怖症に分類されている。純粋に不安が前景を占めまたその成因に生物学的過程が関与している疾患について議論を展開している。

 なお強迫性障害は,2013年5月に発表されたDSM-5では他の不安障害から分類され,強迫スペクトラム障害(OCSD)とされた。

 不安障害の治療については,薬物療法が主体となり,特にSSRIがそれぞれの疾患に効果的であり保険適用にもなっている。その発効機序に関しては,まだ解明されていない部分があるためか,紹介が比較的控え目である。一方,認知行動療法は昨今さまざまな精神疾患に対する効果が評価され施行される機会が増しているが,本書では,実際に臨床現場で行えるような解説がなされている。各不安障害に有効なことはエビデンスをもって示されており,さらなる発展が期待されている。

 本書は編集の塩入俊樹,松永寿人両教授をはじめ各分担執筆者も新進気鋭の研究者および臨床家であるので,最近の話題の提供から,問題点および今後の課題についてまで的確な指摘がなされている。普遍的だが病的に変質して多彩にして複雑な様相を呈する不安の根源は何か,現代人は何に悩むのか,不安障害を通じての臨床実践から何が示唆されるのか,それらの回答を得るために格好の良書である。

B5・頁308 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01798-5


行って見て聞いた
精神科病院の保護室

三宅 薫 著

《評 者》中山 茂樹(千葉大大学院工学研究科教授/建築・都市科学)

保護室の実態と役割

 保護室は,精神科治療プロセスにおける重要な環境として位置付けられている。厚労省の「医療観察法下の行動制限等に関する告示」は,患者の隔離についての基本的な考え方を「患者の症状からみて,本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く,(中略)その危険を最小限に減らし,患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるもの」だと示している。しかしこれまで,この空間への施設性能として求められてきたものは,自殺防止への配慮や,耐破壊性能が中心であり,治療的環境を達成しようとする議論には至っていなかったように見える。また,たたずみ・就寝・休息・食事・排せつの行為空間が一体となっていること,室内の空間性状条件,外部空間との関係や,窓からの景観などに対する具体的設計指針が医療側から示されていなかったことなど,治癒的環境を建築計画としてどのように創造するべきなのか明らかではなかった。

 著者は「保護室を治療・看護に積極的に生かす」とし,保護室は治療・看護のための空間であることを主張しておられる。また,巻末にある中井久夫神戸大学名誉教授のコメントにも「精神病院は最大の治療用具である」というエスキロールの言葉が引用されており,医療・看護の領域から,建築空間を単なる器ではなく,治療に直結するものであることをご指摘いただき,建築に身を置くものとして,その重みを深く受け止めた。

 冒頭に「突然大学から膨大な質問用紙が送られてきて,記入させられるような調査」ではなく,「自分の足や目や耳を使って,現場の情報を集めていきたい」と思ったという,著者の姿勢が示されている。35病院40病棟の平面図と保護室鳥瞰図,それに細部の写真が見開きで紹介されている。具体的な各病院のアメニティの使い方は詳細なコメントとして記録されている。また後ろに「保護室における生活援助とは」がまとめられており,看護のさまざまな工夫が列挙されており,建築への注文も多数記載されている。

 困ったこととして指摘されている「換気や明るさ,騒音などについての客観的な基準がない」や,「壁の硬さも,やや硬いとか,柔らかいとか,ふかふかとか,手触りを表現する基準がわからない」のは,使う人々へのデリカシーが建築には欠如していると指摘されているようで耳が痛い。本書にヒントとして隠されている重要視点を,建築の言葉に変え,図面化し,具体的な空間にするのは建築家の仕事である。

 精神科医療者の方にはもちろん,病院管理・設備などに携わる人にも,建築設計者にも読んでほしい。

A4・頁152 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01743-5


《精神科臨床エキスパート》
誤診症例から学ぶ
認知症とその他の疾患の鑑別

朝田 隆 編
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集

《評 者》門司 晃(佐賀大教授・精神医学)

必要性が増す認知症診療に適切に対処するために

 まず『誤診症例から学ぶ』というタイトルが刺激的かつ魅力的である。編者の序文にも紹介されているが,北海道大学名誉教授である山下格先生の『誤診のおこるとき――早まった了解を中心として』という名著も過去にあり,評者は多くをこの著作から学ばせていただいた。やはり,「とくに失敗からこそ,人は多くを学ぶものである」というのが素直な現場感覚と思われる。

 本書の内容を紹介すると,まずは編者が執筆した第1部「総論」では誤診の原因とその分類が取り上げられている。臨床診断を誤る6パターンとして,未知による失敗,無知による失敗,不注意による失敗,手順の不遵守による失敗,誤判断による失敗,調査・検討の不足による失敗が挙げられ,おのおのに対応する具体的な誤診パターンが紹介されている。続いて,ベッドサイドでもすぐに役に立つ認知症診察のポイントが簡潔かつ明瞭に述べられている。最後に「診断で失敗しないための習慣作り」という項が設けられている。具体的内容は本書をぜひご覧になっていただきたいが,まさに編者の臨床家としての深い知恵が開陳されている。

 第2部「各論」ではうつ病,遅発性パラフレニー・双極性障害・統合失調症,心気症・不安障害,てんかんなどの各疾患と認知症との関係について9章にわけて複数の誤診例を取り上げている。各論のそれぞれの章は第一線の専門臨床医によって書かれている。各論全体では46の誤診例が紹介され,症例報告とその解説,そのあとに正しい診断にいたるための勘所,関連する重要事項の提示というスタイルをとっている。目次にもおのおのの症例に関しての簡潔な紹介文が記されているので,読者はそれに基づいて,興味を引く頁を開くことができるようになっている。この点は日頃多忙な臨床医にとって極めて親切な配慮と思われる。なぜ誤診が起きたのかのポイントは青字で所々に強調されているが,「疾患を一元的にみるか,二元的にみるかは,診断学では重要な点である」「医師は,診断をするうえで決定的と思えるほどに重要な病歴や検査結果があると,他の診断の可能性について無意識のうちに排除しようとする傾向がないとはいえない」といったすべての臨床家にとっての金言が紹介されている。総論・各論を通じて,随所に参考文献が提示されている。いくつかの項の紹介文献を実際にあたってみたが,読者がさらに知見を深める上で有用と思われる重要な文献が新旧を問わず選ばれていた。

 評者は前任の大学病院および現在勤務の大学病院において,認知症疾患医療センターの設立に加わった経験を持つが,どちらの大学でも神経内科と精神科が連携して,認知症を診る形式をとっている。この形式は認知症のような神経内科学と精神医学のいわば「ニッチ」に存在する疾患診療には極めて理想的と考えるが,どこでもこのような形式が存在するわけではない。これからますます必要性が増大する認知症診療に精神科医が適切に対処するために,ぜひ本書を精読されることをお薦めしたい。

B5・頁200 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01793-0


大人の発達障害ってそういうことだったのか

宮岡 等,内山 登紀夫 著

《評 者》広沢 正孝(順大大学院教授・精神保健学)

精神科医が持つ発達障害の疑問にダイレクトに答える書

 近年,成人の精神科医療の現場では,発達障害を持つ患者に出会う機会が多い。そればかりではない。大学のキャンパスや職場においても,発達障害者と思われる人たちへの対応に苦慮しているスタッフの声をよく聞く。主に成人を対象としてきた一般の精神科医も,もはや発達障害の概念なしに診療を行うことが困難になってきているのであろう。本書の著者の一人である宮岡等氏は,この状況を幕末の「黒船来航」に例えている。それほどまでに,(成人の)精神科医にとって発達障害は忽然と現れ,対応を迫られても,その具体的なイメージが浮かびにくい対象なのかもしれない。

 本書は,発達障害に戸惑いを覚えている精神科医や医療関係者の立たされた状況をくんで編集されたものである。どうしても発達障害に対して不安や苦手意識をぬぐいきれない精神科医(医療関係者)には,どのように「黒船」に対する自身の臨床のスタンスを構築し直せばよいのかといった,そもそもの視点を教えてくれる。この点が,既存の「大人の発達障害」をめぐる書籍や雑誌との大きな相違であるといえよう。

 本書は,宮岡氏が,成人の精神科医,および若き臨床医を育成する教育者の視点から,成人の発達障害者に出会ったときの戸惑いを,児童精神科医である内山登紀夫氏にぶつけながら,発達障害[主に自閉症スペクトラム障害(ASD)]に関する「頭の整理」をしていく形で,展開されている。第1章の「なぜ大人の発達障害なのか」に続く第2章「知っておきたい発達障害の基礎知識」では,ASDの診療に臨む際にわれわれがおさえておきたいポイントが,わかりやすく示されている。とくに成人の精神科外来の中にも,相当数のASD者が含まれている可能性があるという指摘は,日常臨床場面で「発達障害をみる眼」を持つことの重要性を喚起してくれる。

 第3章の「診断の話」では,ASDの診断に当たってのポイントが具体的に示されている。まずは,常にわれわれが「社会性,コミュニケーション,イマジネーションの障害」というASDの三つ組みの症状に加え,感覚過敏に注意を払って患者に向かう姿勢を持つこと,さらには統合失調症にしろ気分障害にしろ,典型的な症状,状態像,経過でなければASDを疑う目を持つこと,そのためにも操作的診断を超えた臨床力を身につけておくこと(特に若い医師の場合)が強調されている。その上でこの章では,統合失調症,うつ病,双極性障害,境界性パーソナリティ障害,強迫性障害,身体表現性障害との具体的な異同が述べられ,ASDを疑う際の具体的なポイントがわかりやすく語られている。なお,この章で興味深い著者らの議論は,精神科診断に当たって,外因,内因,心因に加え発達障害因という第4の軸を持つ必要性の指摘であろう。また発達障害においては,たとえ似た症状であっても,従来の症状論をそのまま用いることが必ずしも適切とはいえないという見解は,さらなる議論が期待される精神医学の課題ともいえよう。

 第4章の「治療とケア――どう捉え,どうするべきか」では,ASD者が呈する症状の心理学的な意味を探るよりも,第一に環境調整を考え,たとえ心理的な意味を考えるにしても,ASD者の視点に立った実践的な意味を捉えることが,治療とケアに重要であると述べられている。本文では,その具体的な例も織り交ぜられ,例えば同じうつでも,発達障害の人たちの呈するうつの場合,「休みましょう」は彼らの混乱を招きかねず,具体的な期間などを明確に示す必要があることなどが示されている。

 第5章「ADHDと学習障害」では,ここまでASDで触れてきた事柄が,ADHDと学習障害に関連しても討論されている。

 繰り返しになるが,本書では成人の精神科医が確かめたかった疑問が,宮岡氏からダイレクトに発せられ,それを児童精神科医である内山氏がわかりやすく解説してくれている。何よりもそのやりとり自体に,これまで抱いてきた発達障害に取り組む際の不安を払拭する契機をつかめる読者もいるのではないかと思う。その意味で本書の構成スタイルには,発達障害に戸惑っている精神医療の専門家に対する「優しい眼差し」が感じられる。

A5・頁272 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01810-4

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook