医学界新聞

2013.08.26

第15回日本褥瘡学会開催


 第15回日本褥瘡学会(会長=山口県立大・田中マキ子氏)が7月19-20日,神戸国際展示場(神戸市),他で開催された。「褥瘡ケアの深化を目指して」をテーマに掲げた今回,約5500人の参加者を集めた。本紙では,褥瘡ケアの現場で現在注目を集めている,体位変換の在り方と,治療の際に用いられる医療機器によって生じる創傷について議論した2つのシンポジウムのもようを報告する。


「2時間おきの体位変換」に代わる方法を探って

田中マキ子会長
 昨年行われた第14回学術集会において,明確な根拠に乏しいことから疑義が呈された「2時間おきの体位変換」。それ以来,体位変換の在り方そのものを見直す機運が高まっている。シンポジウム「体位変換間隔への革新」(司会=京大大学院・宮地良樹氏,淑徳大・田中秀子氏)では,体位変換の必要性とその効果についてあらためて議論がなされ,褥瘡を持つ患者にとってより安全で安楽な体位変換の方法が模索された。

 人の手による体位変換を「両刃の剣」と表現したのは,大浦武彦氏(褥瘡・創傷治癒研究所)。人為的な体位変換は,体圧を受ける部位の移動と分散という"静的外力"を排除する効果がある一方で,圧やずれという"動的外力"を創面に生じさせ,治癒に影響を与えると指摘。創面の段差,外力介在性ポケット,溝や陥凹の出現,裂隙,肉芽塊の形成等,褥瘡特有の症状や創の変化に関与しているケースが多いことから,褥瘡への負担の少ない体位変換方法に切り替える必要性を主張した。具体例としては,人の手による体位変換の場合にはスライディングシーツやポジショニンググローブを用い,創と周辺組織を一塊にし,引き寄せるように移動させる方法を提案。また,人的な体位変換そのものを見直す場合には,自動体位変換機能付きマットレスのオスカー(㈱モルテン)や褥瘡予防用ピローのウエルピー(㈱タイカ)の導入が有効と語った。

 褥瘡を有する患者に体位変換を実施する場合,褥瘡の状態や発症部位など,個々のケースに合わせた対応が求められる。磯貝善蔵氏(国立長寿医療研究センター)は,これに応えるために,医師・薬剤師・看護師が連携し,「患者の全体像と創を関連づけることが大切」と強調。褥瘡を発症させるまでに至らしめた原疾患,褥瘡が存在する/発症リスクのある部位や,骨と創周囲組織の状態に影響を受ける創の物性に関する情報を,医療チーム内で共有する必要性を訴えた。

 根本哲也氏(国立長寿医療研究センター)は,皮膚に表れる"しわ""つっぱり",衣服や寝ているマットレスに生じる"しわ"等を例示し,皮膚にかかる「外力」とそれに応じて発生する「内力」や「変形」の関係性を工学的見地から解説した。また,皮膚に働く力を測定する際の注意点についても言及。マットレスと衣服の間にセンサーを介在させて測定を行う場合,センサーの材質が皮膚やマットレスの変形を阻害する恐れがある等,測定装置や方法によっては実際と異なる環境を生む恐れがあると注意喚起した。

 最後に登壇した田中マキ子氏は,良肢位保持と仰臥位保持とで対象者の生理学的データと主観的自覚症状を比較した研究と,各種の人為的な体位変換や自動体位変換マットレスを用いた体位変換等の方法の違いによって生じる生理学的データと主観的自覚症状を比較した研究を紹介。これらの研究から,良肢位保持は筋緊張を生じにくく,同一体位に耐え得る体位であることや,人の寝返りまで考慮した自動体位変換機能付きマットレスは体位変換の方法として有効であることが示唆されたと明かした。

 また,氏は,北欧等で体圧管理のために用いられるスモール・チェンジ法として,小枕を利用し,身体の一部を挙上する方法を紹介。小枕の挿入位置を移動させ,適宜挙上する部位を変えていくことで,「仰臥位から側臥位」といった大きな体位変換を行わずとも,体圧の再分配が図られると解説した。小枕を用いたスモール・チェンジ法は,患者の身体にかかる負担を減らすだけでなく,看護師にとっても身体的な負担や疲労感を軽減することができる点で有効と語った。

 総合討論では,自動体位変換機能付きマットレスによる体位変換の限界についても議論され,患者の体型や体つき等の違いには対応できないことから,「個々の状況に合わせてポジショニングを考慮するアセスメント力は欠かせない」との意見が挙がった。

「医療関連機器圧迫創傷」の治療指針策定をめざす

 近年,その存在が認知され,介入の必要性を指摘されている「Medical device related pressure ulcer」。NPPVフェイスマスク,酸素マスク切開チューブ,医療用弾性ストッキング等の医療機器の装着部位に生じる創傷を指し,臨床現場において多く見られているという。日本褥瘡学会では,こうした治療時に用いられる医療機器や物品によって生じる創傷対策にも取り組むこととし,治療指針の策定をアクションプランとして掲げ,検討を進めてきた。

 今学会で企画されたシンポジウム「Medical device related pressure ulcer」(司会=東大大学院・真田弘美氏,京大大学院・宮地良樹氏)では,学術委員会から同学会評議員を対象に行ったアンケート調査の結果報告および「Medical device related pressure ulcer」に対する見解が提案され,参加者を交えた討議を実施。その結果,(1)「Medical device related pressure ulcer」の日本語表記を「医療関連機器圧迫創傷」とし,「褥瘡」とは区分すること,(2)薬事法に規定される「医療機器」以外の機器や物品が創傷の原因となるケースもあるため,「Medical device」は薬事法に基づく「医療機器」には準拠しないこと,(3)今後の実態調査における有病率や推定発生率の算出式等について,学術委員会や学会員,参加者間のコンセンサスが得られた。今後,ガイドラインへの掲載をめざし,さらに実態調査を進めるという。

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