医学界新聞

寄稿

2013.08.05

【寄稿】

基幹病院専門内科ローテートと地域密着型病院を組み合わせた新たな後期研修――幅広く対応できる医師をめざして

杉岡 隆(佐賀大学医学部地域医療支援学講座 教授)


 今,「幅広く対応できる医師」のニーズがとても高まっています。私たちのように地域をフィールドとして仕事をしていると,特にそれを実感します。

 ちなみに以前は「幅広く対応できる」ということは,そこまで重要視されていませんでした。それがなぜ今変わってきたのか。考えられる要因としては,高齢患者の増加によって一人ひとりの持つプロブレムが多様化していることが挙げられます。複数の疾患を有していたり,急性期治療だけでなく慢性期ケアのアプローチを要する症例が増えており,こういったニーズに対応できる医師が必要とされているのです。

 最近,大きな病院でも「総合内科」がどんどん新設されているようです。それもまさに,「幅広く対応できる医師」に来てもらいたいというニーズの表れとも言えるでしょう。

「幅広く対応できる」と面白い

 プロブレムが一つしかなければ患者さんへのアプローチも比較的楽ですし,自分の専門分野を活かすことでやりがいも出てきます。しかし,今後は多くのプロブレムを抱えた患者さんがさらに増えていくことは明らかで,どの専門分野に進もうと,そういった患者さんに対応せざるを得なくなることは間違いありません。他の病気は診られないとか,複雑な問題のある人は診たくない,といったことは言えなくなります。

 その際に,「幅広く対応できる」スキルを持っている医師とそうでない医師とでは,患者さんへのアプローチが大きく異なってきます。「幅広く対応できる」スキルを持っていれば,そういった患者さんへの対応でもストレスが少なく,むしろ前向きに行うことができます。自分のスキルを活かすことができますし,一歩進めばそういった分野の研究にも興味が出てくるでしょう。「幅広く対応できる」ということは,日々の診療を面白くすることにもつながるわけです。将来何科を専門とするかにかかわらず,「幅広く対応できる」スキルを身につけておくことは,大変お得と言えるでしょう。

 「幅広く対応できる」医師を育成するため,佐賀大学医学部地域医療支援学講座では2010年度から「総合内科医育成プログラム」という地域立脚型の後期研修プログラムを提供しており,現在7人が本プログラムでの研修を受けています。本稿ではこの概要を紹介します。

基幹病院専門内科のローテート研修(フェーズ1)

 このプログラムは,基幹病院内科ローテート研修(フェーズ1)と地域密着型病院での実践研修(フェーズ2)の2つから構成されています()。

 佐賀大学「総合内科医育成プログラム」の流れ

 フェーズ1では,佐賀県内4つの基幹病院(佐賀大学医学部附属病院,佐賀県医療センター好生館,嬉野医療センター,唐津赤十字病院)の各専門内科をローテートして,(1)内科各科を幅広く研修すること,(2)各科の専門的知識や検査手技を一定レベルまで深く習得すること,(3)内科の土台となる診断学・臨床疫学を習得すること,を3本柱として教育を行っています。フェーズ1はおおむね3年間で,この間に日本内科学会の内科認定医資格を取得するようにします。

◆講座教員による直接指導,大学での研修・研究日の確保
 ローテートとはいっても決して「お客さん状態」にはならないように,最低半年から1年間ずつ各科の専門医とまったく同じレベルの研修を受けます。科ごとに目標とする症例数や手技の数を設定しますが,症例については総合内科的アプローチを要するような患者さんを優先的に担当できるように配慮しています。こうした研修内容のリクエストが可能となる背景には,佐賀大学助教の身分・給与で研修(最低1年間)を行っていることが挙げられます。

 週に1回は当講座の教員が現場の医療機関に赴いて直接指導(visit teaching)を行います。普段は研修先の専門各科指導医から指導を受けますが,その日は「総合内科的視点から患者さんを診る」という目的で,その患者さんの有する他の疾患やプロブレムを含めて総合的に検討します。診断学・臨床疫学の研修もこの日に重点的に行うようにしています。

 また,それとは別に,大学での研究・研修日を週1日確保しており,検査や治療手技に関する研修を集中して行ったり,文献に当たって症例を深く考察したり,あるいは研究にかかわって論文を書く等,個々人の希望に応じて内容を決めています。

◆基幹病院と研修医のwin-winの関係をつくる
 フェーズ1では,各基幹病院の中で研修環境の充実した分野を,自分の希望と照らし合わせて選択できるようになっています。各病院とも幅広く対応できる医師を求めていることもあって,本育成プログラムの運営に対して全面的に協力していただいています。また各病院にとって若い医師が来てくれることは,戦力としても活性化の上でも大変ありがたいことですし,研修する側もwelcomeな環境の中で,しかも自分の希望する研修をさまざまな形で確保できるということで,互いにwin-winの関係を構築できています。

地域密着型病院実践研修(フェーズ2)

 フェーズ1を修了した後は地域密着型病院での実践研修(フェーズ2)に移ります。本プログラム後期研修第1期生の2人が今年度からフェーズ2に入りました。フェーズ2ではフェーズ1で学んださまざまな知識や手技をもとに,総合内科を実践しながらそのスキルを深めていく研修になります。

 総合内科を実践しながら習得していく場所としては,基幹病院よりも地域密着型の中小規模の病院が適しています。基幹病院では各科の急性期・重症患者を主に診療しますが,地域密着型病院では亜急性期から慢性期の入院患者や一般外来の患者を数多く診療することになります。また在宅医療や介護,リハビリ,福祉や医療連携にもかかわります。

 実践研修なので,直接手とり足とり指導を受けることはなく,自分で判断しながら実践し,必要に応じて教員に相談するシステムを整えています。佐賀大学ではフェーズ2のための研修施設として,2012年度に山間地域にある小規模病院の中に佐賀大学地域総合診療センターを開設しました。ここでも週に3-4回のペースで大学教員によるvisit teachingを行います。また大学病院との連携促進のため,大学病院の電子カルテを見ることができるICT連携システムも構築されています。

 フェーズ2はおおむね2年間で,最終的に日本内科学会総合内科専門医の資格取得をめざします。その後は,各医療機関で総合内科医として勤務したり,あるいは大学で研究を行って医学博士号の取得をめざしたり,さまざまなキャリアパスを想定しています。

 私自身,まだまだ勉強することが多く,若い先生たちと一緒に勉強していくことが実に楽しいです。各部署と連携を取りながら「幅広く対応できる医師」を育成し,佐賀県の地域医療を,そしてひいては全国の地域医療を盛り上げていくべく,これからも日々奮闘していくつもりです。

参考URL
 佐賀大学医学部地域医療支援学講座ホームページFacebookページ


杉岡隆氏
1990年自治医大卒。出身地である山口県で初期・後期研修,病院内科勤務を経て,山間部の新規診療所の第1号所長として赴任,義務年限後も合わせて15年間地域医療に従事した。2005年京大大学院医学研究科医療疫学分野(福原俊一教授)に入学し,当時開講された「臨床研究者養成(MCR)コース」第1期生として研鑽を積み学位取得(医学博士号)。10年より現職。総合内科医育成と地域医療教育のため,佐賀県内の医療機関を日々駆け回っている。

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