「認定看護師」はジェネラリストで(井部俊子)
連載
2013.07.22
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
私が看護師として看護界で仕事を始めて40数年がたつ。最初のころはもっぱら看護師の仕事をすることで精いっぱいであったが,徐々にものを書く機会が増えた。そういえば,ヴァージニア・ヘンダーソンが,専門職業人としてのキャリアは,前半は多くを吸収し蓄え,中盤は少しずつペーパーを輩出し,後半は静かに少し語るといったライフスタイルがよいと,「Professional Writing」1)で述べていたことを思い出す。
スペシャリストとして位置付けられた認定看護師
私が“輩出したペーパー”の中で改訂をしたいと思っているものがある。私は2006年9月から2007年3月まで「日本看護協会における看護職に関する呼称等の定義プロジェクト」の委員長として,『看護にかかわる主要な用語の解説 概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈』(日本看護協会,2007年)2)をまとめた。この用語解説は,「日本看護協会が看護職能団体として政策提言や意見表明,指針類の作成を行なってきたが,使用する看護の提供者や対象者に関する呼称等がその時々に応じてさまざまであったので,共通認識を図るために呼称等の標準化の必要性に迫られた」ものであった。
このプロジェクトでは,過去10年間に日本看護協会が指針等で使用してきた呼称等を整理した後,看護にかかわる用語としての位置付けを考え,定義の必要な用語を特定し,それぞれの用語の関連図(図)を作成した。さらに,特定した用語の関連図をもとに,それぞれの用語に定義が必要になった経緯やその用語の持つ豊かさが伝わるようにするため,各用語に〈概念的定義〉〈歴史的変遷〉〈社会的文脈〉〈類義語〉を示した。共通見解の得られた用語には,必要に応じて,〈本会における用語の使用方法〉を提示した。
図 看護にかかわる主要な用語とその関連 |
今回,私が再考したいと考えているのは「スペシャリスト」の項である。まず,2007年の解説をみてみよう。〈概念的定義〉はこうである。「スペシャリストとは,一般的に,ある学問分野や知識体系に精通している看護職をいう。特定の専門あるいは看護分野で卓越した実践能力を有し,継続的に研鑚を積み重ね,その職務を果たし,その影響が患者個人に留まらず,他の看護職や医療従事者にも及ぶ存在であり,期待される役割の中で特定分野における専門性を発揮し,成果を出している者である」としている(いささか冗長であることを反省)。〈社会的文脈〉においては,「本会では,資格認定を行っている立場から,専門看護師と認定看護師をスペシャリストと位置付けている」(下線は筆者)と規定される。
また,専門看護師と認定看護師は次のように定義されている。
専門看護師は,専門看護師認定試験に合格し,ある特定の専門看護分野において卓越した看護実践能力を有することが認められた者である。専門看護師の教育は,看護系大学大学院修士課程で行われる。専門看護師の役割は,実践,教育,相談,調整,倫理調整,研究の6つである。
一方,認定看護師は,認定看護師認定審査に合格し,ある特定の看護分野において,熟練した看護技術と知識を有することが認められた者である。認定看護師の教育は,熟練した看護技術および知識を必要とする看護分野の系統的な学習と実習を含む研修を一定期間(6か月600時間)習得する。認定看護師は,実践,指導,相談の3つの役割を持つ。特定の看護分野の熟練した看護技術と知識を用いて,水準の高い看護実践と看護現場における看護ケアの拡大と質の向上が期待されている。
認定看護師を現場スタッフの一員として人員配置計画に反映を
2013年7月1日現在,専門看護師は,11分野で合計1044人である。認定看護師は,21分野で合計1万803人と,10倍の開きがある。認定看護師の特定看護分野は以下である。「救急看護」「皮膚・排泄ケア」「集中ケア」「緩和ケア」「がん化学療法看護」「がん性疼痛看護」「訪問看護」「感染管理」「糖尿病看護」「不妊症看護」「新生児集中ケア」「透析看護」「手術看護」「乳がん看護」「摂食・嚥下障害看護」「小児救急看護」「認知症看護」「脳卒中リハビリテーション看護」「がん放射線療法看護」「慢性呼吸器疾患看護」「慢性心不全看護」。つまり,これらの「熟練した看護技術および知識を必要とする」分野特定は臨床志向であり,各名称の下に,病棟や科をつけると,そのまま現場に採用することが可能である。
認定看護師は現場に密着して,現場のスタッフの一員として(上級スタッフとして),「水準の高い看護実践と看護現場における看護ケアの拡大と質の向上」に貢献すべきである。例えば,集中ケア部門には,集中ケア認定看護師が5割以上,緩和ケア病棟には,緩和ケア認定看護師が6割以上,訪問看護科や訪問看護ステーションには,訪問看護認定看護師が7割以上などといった人材配置を計画すべきである。
このように考えると,専門看護師と違って,認定看護師はライン組織の一員であり,あえていうとジェネラリストとして位置付けられる。そのためには,6か月600時間という研修期間は短縮して1か月100時間くらいにし(もっと短くてもよい),実習は毎日の仕事を通して行うことにするとよい。
このように考えて,私は,認定看護師をスペシャリストからジェネラリストのカテゴリーに移行させた「用語の解説」を改訂版としたいのである。
(つづく)
参考文献/URL
1)小玉香津子訳.ヴァージニア・ヘンダーソン論文集 増補版.邦題「専門職業人として"書く"ことについて」.日本看護協会出版会,1989年,19-25頁.
2)http://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/2007/yougokaisetu.pdf
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