医学界新聞

2013.07.15

第87回日本感染症学会・第61回日本化学療法学会が合同開催


 第87回日本感染症学会・第61回日本化学療法学会の合同学術集会が6月5-6日,岩本愛吉会長(東大医科研)・戸塚恭一会長(女子医大)のもと,「共に感染症と化学療法の未来を考えよう」をテーマにパシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。

◆さらなる予防接種の充実を

 昨今,MRワクチンやHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが報道等で取り上げられ,社会的にも予防接種に対する関心が高まっている。シンポジウム「予防接種――世界標準を目指して」(座長=慶大・岩田敏氏,川崎医大・尾内一信氏)では,4人のシンポジストが対象年齢・用途別に日本の予防接種の現況を考察し,より良い予防接種の在り方を探った。

シンポジウムのもよう
 初めに登壇した細矢光亮氏(福島医大)は,接種可能なワクチンの種類が増えたことで,日本の乳幼児期の予防接種はほぼ世界標準にあるとしながらも,「本来なら"定期接種化すべき"と考えられる任意接種ワクチンが多いことは課題」と主張。水痘,おたふくかぜ,B型肝炎のワクチンの早急な定期接種化を求めた。また,まれに重症化がみられるロタウイルスについても,ワクチン接種の有効性と副反応の分析,費用対効果の検証を進め,定期接種の対象と成り得るかの検討が必要だと訴えた。

 学童期・思春期の予防接種について考察したのは,岡田賢司氏(福岡歯大)。年数経過によって百日咳の予防接種の効果が減弱した学童期・思春期層や成人期層の患者が,近年,増加しているという。氏は,百日咳の予防強化のために,米国で使用されている思春期児童から成人を対象とした三種混合ワクチン(Tdap)の導入や,11-12歳児への三種混合ワクチン(DTaP)接種を推奨スケジュールに導入する案を提言した。また,氏は副反応が報告されているHPVワクチンについて言及し,ワクチン接種と副反応である複合性局所疼痛症候群(CRPS)発症との因果関係について,現時点では証明されていないことを提示した。

 米国では,成人に対する予防接種推奨スケジュールが規定されており,毎年更新が進められている。本スケジュールの概要を紹介した中野貴司氏(川崎医大)は,日本には成人に対する接種推奨の規定がないことを指摘。成人・高齢者の疾病負担の大きさ,年数経過による免疫の減衰,接種漏れ者対策のキャッチアップ等の面から,成人に対する接種推奨のスケジュールの提示が望まれるとの見解を示した。さらに,氏は医療関係者への予防接種についても言及し,「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」(日本環境感染学会編)を紹介。B型肝炎,麻疹,風疹,水疱,ムンプス,インフルエンザ等のワクチン接種の判断基準や予防効果を解説し,予防接種がより良い医療の提供や,医療者の健康を守ることにつながると語った。

 近年,日本人の海外長期滞在者数は増加傾向にある。渡航先での感染症罹患を予防するためにはワクチン接種が有効な策となるが,濱田篤郎氏(東医大病院)は「日本人渡航者の予防接種は,世界標準からかなり遅れている」と明かした。こうした原因として,(1)医療施設における出国前の健康指導の不足,(2)トラベルクリニック等,ワクチン接種ができる施設の不足,(3)腸チフス,髄膜炎菌,経口コレラ等,海外渡航者に予防接種が推奨されるワクチンには日本で未承認の製剤が多く,使用するには個人輸入で対応せざるを得ない現状があることを列挙。氏は,トラベルワクチンに関する研修会やトラベルクリニック開設のためのサポート事業等,日本渡航医学会の活動を紹介し,渡航者のワクチン接種率向上の必要性を呼びかけた。

 総合討論では,患者に対する予防接種の啓発の方法や,成人を対象とした予防接種スケジュールの作成をめぐって議論が交わされた。

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