医学界新聞

寄稿

2013.07.15

【寄稿】

チーム医療における信念対立を
思考ツールを用いて解明する試み

清水 広久(埼玉成恵会病院外科・救急科)


真のチーム医療とは

 「チーム医療」が声高に叫ばれて久しいですが,皆さんの施設では,多職種間で本当の対話ができていますか? 共通言語・アルゴリズムという名の下,コメディカルが独自の視点を活かせていないのではないでしょうか?

 例外はあるものの,現状の「チーム医療」の大半は,医師がチームリーダーとなり,他職種はリーダーの考え(医学寄りの信念)の下,サポートに徹しているのが実際ではないでしょうか。コメディカル(この言葉自体が医師の中心性を示していますが)は医師の指示のままに動くだけで,多職種が集まる強みが活かされていないことが多く見られます。

 今までのチーム医療は,クラシックのオーケストラに例えられるような「同質性を前提としたチームワーク」,いわゆるMultidisciplinary Teamでした。このようなチーム形態は,心肺蘇生が行われるような超急性期医療においては効果的です。しかし,多種多様な臨床現場が存在する中,果たしてこのようなチーム形態だけで十分に役割を果たせるのでしょうか。

 めざすべきは,多職種がそれぞれの特性を活かしつつ,相乗的に協働してミッションを達成するチーム医療。それぞれのパートを活かして共通コードの上で臨機応変に対応していく,まるでJazz Sessionのような「異質性を前提としたチームビルディング」なのです。

信念対立の存在と,その解明のための考え方

 しかし,理想と現実の間にはギャップが存在します。それが職種間の「信念対立」という壁です。本来,多職種連携の強みであるはずの「視点の違い」が,時として障壁となり得るという経験は,皆さんにもありませんか?

 チーム医療においてよく見られる「信念対立」には,(1)治療方針をめぐる対立(患者の意向を尊重すべきか,専門医に一任すべきか),(2)チームリーダーをめぐる対立(医師であるべきか,看護師であるべきか,その他の職種あるいは患者か),(3)コミュニケーションの価値をめぐる対立(逐一報告か,個々の判断で報告か)などがあります。

 この対立を解消するために,しばしば会議の場が設けられます。ただ,声が大きい者(階層が上の者・議論に長けている者)が己の持論を展開し,相手を打ち負かし,結果的に現場は変わらないことが多々あります。

 しかし,それでは問題は解決しません。「話がまとまる」とは,決してそのような状態を指すのではなく,「望ましい未来を創造する」ことなのです。

 そのためには,論理的に物事を考えること,つまり"ロジカル・シンキング"が求められます。ただし,論理的に物事を解き明かしただけでは解決にはなりません。現場を動かしていくには,人間の心理・組織の力学にまで踏み込んでいく必要があります。

 重要なのは,「方法論」でなく「目的」から入り,それを共有すること。「望ましい未来を創造する」には,まず到達点(目的)を決め,出発点(現状)を見極め,そして最後に到達点までの経路(方法)を決めます。実際の現場では「きっかけは何?」「状況は?」「何のために?」「目的は?」といった問いかけをチーム内で絶えず繰り返すことで,共通の目的・現在の状況を共有し,そこから(確実な実践は存在しないため)"さしあたって"有効なやり方を探っていくことになります。

思考ツールを用いた問題解決

 筆者は,この思考過程への理解を深めるため,京極真氏(吉備国際大)の提唱する「信念対立解明アプローチ」を参考に,さまざまな思考ツールを組み合わせたワークショップを設計・開催しています。基本的な構成は以下のとおりです。

1)多職種の視点の違いを明らかにする
 Mind Map®を用いて多職種の「異質性」を明らかにします。Mind Map®は同時進行する複雑な思考・行動を表すのに適していると言えます。また,右脳も活用することから,行動に表れない水面下のスキルや思考経路を表現でき,本人たちも気付かない職種ごとの思考経路・視点の違いなどを表出するのに適しています(写真1)。

写真1 Mind Map®
ある症例について職種(医師・看護師・薬剤師・栄養士・検査技師など)ごとにMapを記入。医師が臨床推論に基づく疾患の診断に関心が向くのに対し,看護師は「重症度と緊急度」を軸に思考を組み立てる傾向が見えてくることも。

2)問題の本質をとらえる
 対立の本質をとらえ,解決へ導くアプローチも学びます。既成概念にとらわれた方法論に終始するのではなく,例題を通して「問題を抱えているのは誰か?」「問題の本質は何か?」と問いを突き詰め,解決につなげていきます。思考法によってさまざまな解決の仕方がありますが,ここでは端的に例題で説明します。

例題)板チョコ5枚を,チョコが大好きな子ども4人に喧嘩しないように配るには,どうしたらよいでしょうか?
⇒ロジカル・シンキング:板チョコを1+1/4枚ずつ配る。
⇒ラテラル・シンキング:板チョコ5枚を湯煎で溶かし,4等分する。
⇒クリティカル・シンキング:板チョコを1枚ずつ,子どもたちに渡し,残り1枚は黙って自分が食べる。(問題の本質を「子どもたちがけんかしないこと」ととらえた回答)

3)信念対立解明のレバレッジポイントを見つける
 「共感マップ」(写真2)という「デザイン思考」(試行錯誤型アプローチで,問題解決のためのプロトタイプを作って即実施し,フィードバックにて改善していく手法)で使われるツールを用います。

写真2 共感マップ
あるワークショップにて,NSTを推進する上での対立相手とされたのは,いつも「忙しい」が口癖の40代の消化器内科医。彼の趣味/趣向を明らかにし,「忙しい」の真の意味を探っていく。彼は内視鏡専門医だが,病院が小規模であるため,専門外の患者を診察しなければならず,サポートしてくれる同僚もいない。「忙しい」は単純に「仕事が多い」のではなく,組織内で他者と連携がとれない苛立ちや不安の表れだった。それがわかると彼への見方も変わり「サポート体制の改善」から始めようという意見が上がった。

 ワークショップでは,問題のステークスホルダー(チーム医療を推進する上で対立する相手で,上司,同僚,他職種など多様)を設定。彼/彼女が「何を見て」「何を聴き」「何を考え・感じ」「何を言っている」かを事実・想像の両面から抽出します。また「痛み(苦手・苦痛)となるもの」「望んでいるもの」なども描出していきます。こうして掘り下げていくことで「共通・共感する想い」などを見いだし,解明につなげます。

 現場の対立を解明していく作業は,個々のスキルアップだけでは限界があり,施設全体の"文化"を変えていく必要があります。受講者からは「今までの自分の考えがいかに固定観念にしばられていたかわかった」「多職種によるチーム医療の見方が変わった」「臨床現場での問題解明に役立つ」などの感想が寄せられており,こうした取り組みが,"草木を育てる"だけでなく,いずれは"土壌(Social Field)から耕す"教育につながればと考えています。

参考書籍
・奥出直人.デザイン思考の道具箱――イノベーションを生む会社のつくり方.早川書房,2007.
・京極真.医療関係者のための信念対立解明アプローチ: コミュニケーション・スキル入門.誠信書房,2011.
・酒井穣.これからの思考の教科書――論理・直感・統合 現場に必要な3つの考え方.ビジネス社,2010.
・ゼックミスタ EB,他.クリティカル・シンキング(入門編).北大路書房,1996.同(実践篇).北大路書房,1997.
・吉澤準特.ビジネス思考法使いこなしブック.日本能率協会マネジメントセンター,2012.


清水広久氏
1996年東京医大卒。2006年より現職。「U理論」アドバンスチェンジオリジネーター,オープンスペーステクノロジーファシリテーター,「学習する組織」リーダーシップ研修修了。

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