第109回日本精神神経学会開催
2013.06.17
第109回日本精神神経学会開催
第109回日本精神神経学会(会長=九大・神庭重信氏)が,5月23-25日,福岡国際会議場(福岡市),他で開催された。6000人以上の学会員が参加した今大会では,本年5月に米国精神医学会より発表された,精神医学の国際的な診断分類体系であるDSM-5の改訂内容に関する演題が多く取り扱われ,関心の高さがうかがえた。また,大会テーマ「世界に誇れる精神医学・医療を築こう――5疾病に位置づけられて」にもあるとおり,精神疾患が厚労省の指定する5疾病の一つに定められたことを受けて,他診療科の医師からみた精神科の課題を共有し,国民の期待に応える精神医療への改善を提起したシンポジウムが行われた。
神庭重信会長 |
他科の医師に聞く精神科医療の問題点とは
まず,家庭医の立場から登壇した竹村洋典氏(三重大大学院)は,来院した患者に精神疾患が疑われても,簡単には精神科医につなげがたい現状を紹介した。例えば,身体疾患の可能性を除外しきれない場合や,精神疾患だと診断しても患者や家族が精神科の受診を拒否する場合,精神科への紹介が遅れてしまうという。患者に丁寧な説明を繰り返してようやく紹介できても,精神科医から「もっと早く紹介してほしかった」と言われてしまうことも。氏はこうした事例から,家庭医と精神科医が互いの状況をもっと理解し合えれば,円滑な連携体制による患者への効果的なケアが可能になるとの考えを示した。
心療内科を専門とする村松芳幸氏(新潟大)は,同大内科同窓会に所属する県外の内科医を対象に実施した「精神科との連携に関するアンケート」の結果を提示した。回答した内科医135人中,97%は患者を精神科に紹介した経験があり,そのうち紹介時の連携に「問題がなかった」と回答したのは約40%であった。連携に「問題がある」「どちらともいえない」と回答した医師に,どのような問題があるかを尋ねたところ,一番多かったのは「予約待ちなどで精神科受診までに時間がかかった」,次に「患者や家族が精神科受診を拒んだ」だったという。さらに,うまく連携するための方策を尋ねたところ,「個人的に相談できる精神科医の存在」が重視され,特に連携に「問題がある」と回答した医師からは「地域連携パスの作成」も強く求められたことが報告された。
三次救急施設である北里大救命救急センターでは,搬送される患者の12%前後が自殺企図患者,そのうち半数が過量服薬患者だという。過量服薬は何度も繰り返す患者が多い。中には退院時に,注意すべき薬剤などを記載した診療情報提供書をかかりつけの精神科クリニック宛てに持たせても,当該医からは返事すら来ず,後日同じ患者が同じ処方による過量服薬を起こして搬送されるケースもある。同センターの上條吉人氏は,処方される薬剤の量や種類によっては精神科医療自体が自殺を誘発しかねない点を指摘した。夜間や休日に救急搬送される患者の情報収集のために,精神科クリニック等からも診療時間外に患者の情報提供を行える制度の整備を求めた。
精神科病院の内科医である志水祥介氏(駒木野病院)は,精神科病院における身体合併症への対応が必ずしも迅速ではなく,身体症状に対する処置体制も十分整っていない問題を提起。精神科医も身体疾患に関する標準・基本的な知識を備え,身体疾患予防や重篤化の防止など,精神科病院内の身体管理の向上に努める必要性があると訴えた。さらに,院内の精神科医と内科医が協働できる環境を築けば,それが総合病院と連携した身体合併症医療システムの構築にもつながるはずだとし,精神科患者に対する包括的な医療の実現に期待を寄せた。
患者中心の視点に立った地域連携の推進を
最後に精神科医の立場から登壇した大石智氏(北里大)は,医療の過程が客観的に評価されにくく,標準化が難しい精神科医療の閉鎖性を指摘。地域連携パスは,医療の可視化を図る有効な手段だが,連携を阻害している要因は,先の四氏が挙げた「精神科医療の問題点」に通じるという。同大東病院が行っているうつ病患者への地域連携事例から,連携がうまくいかない要因を検討したところ,スタッフ間における患者への説明内容の不一致や,治療目標の共有が困難な点,援助過程に客観的評価が欠けがちな点などが挙げられた。これらの課題は,認知症や摂食障害など他の疾患にも当てはまるという。氏は,課題をクリアして連携を推進することで精神医療の質は高まるとしながらも,連携ありきになるのではなく,患者中心の視点を欠かさず持つことが最も重要と締めくくった。
シンポジウム後,企画者である宮岡氏は,本紙取材に対し「精神科医にとって耳の痛い話も多かったが,精神科医が積極的に他科の医師やスタッフから意見を聞き,自らを変えていくことが不可欠。今後も意見交換の場を持ちたい」と答えた。
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