医学界新聞

寄稿

2013.06.10

【特集】

山中流,「いいね!」のカンファレンス

◆臨床症例から実際のプロセスに触れる
(藤田保健衛生大学救急総合内科教授・山中克郎氏に聞く


 病歴と身体所見から可能性のある疾患を絞り込み,必要最小限の検査で診断に結び付けていく診断推論。藤田保衛大救急総合内科の「心月輪しんがちりんカンファレンス」では,有志の学生や研修医が参加し,臨床症例を通して診断推論のプロセスを体験することで,診断に必要な“キーワード”と“攻める問診”の技法を学ぶという。本紙では,同カンファレンスの主宰者である山中克郎氏に話を聞いた。


診断にたどり着けることを実感させるカンファレンス

――本日のカンファレンスのテーマは「腹痛」。進行担当の学生が提示した,患者の性別・年齢・主訴を基に,まずは想定される疾患名が参加者から挙げられました。こうした症例検討のカンファレンスにおける“ねらい”はなんでしょうか。

山中 一番のねらいは,学生に実際の臨床現場と同じプロセスを体験してもらうことと,それと同時に,診断につながる“キーワード”を覚えて帰ってもらうことです。例えば「悪寒戦慄」は,敗血症のキーワードになりますし,「波がある腹痛」は内臓痛のキーワードとして,診断への大切な手掛かりとなるのです。

 こうした“キーワード”を患者さんの主訴から得られれば,内科の膨大なバックグラウンドからいくつかの疾患名を想定することができます。これら複数の鑑別診断を絞り込むために,次に必要となるのが“問診する力”です。

――カンファレンスでは,疾患名を挙げると同時に,「患者さんにどのような質問をしたいか」について考えていたのが,印象的でした。

山中 「診断の8割は問診で決まる」という言葉があるように,患者さんに何をどう尋ねるかは,診断推論の過程では非常に重要な技術なのです。現在の医療現場では,検査が重視されている傾向にありますが,本当は患者さんの訴えから情報を集められれば,不要な検査を行わずに鑑別を絞り込むことができます。

 例えば,腹痛を訴える患者であれば,「どこが痛いのですか」「痛みに波がありますか」「それともズーと痛いのですか」「何を食べましたか」「最近海外には行きましたか」などと聞けば,確定診断に近づく新たな“キーワード”を得られる可能性が高まります。このように,必要な情報を患者さんに積極的に“聞きまくる”問診技法を,私は「攻める問診」と呼んでいます。患者さんが不必要だと思って自主的には話さない情報に重要なヒントがあることも少なくありませんから,医師が積極的に患者さんから聞き出さなければならないのです。

――カンファレンスで学生が患者さんへの質問事項を挙げていたのは,問診する力を身につけるための練習だったわけですね。

山中 そうです。これも診断推論を身につけるための重要なプロセスの一つです。患者さんの話から“キーワード”を確実に拾い,問診する技術を身につければ,無数にある疾患群から適切な診断にたどり着けることを,カンファレンスを通して実感してもらいたいと思っています。

症例を扱うことが,学生の成長を促進する

――診断推論を学ぶ際に,重要なことは何でしょう。

「心月輪カンファレンス」のもよう
 この日は,医学部3年生3人,4年生6人の計9人がカンファレンスに参加した。進行を担当した医学部4年の鵜山保典さんは,「カンファレンスの進行は初めてでとても緊張したが,これまでの勉強会で得た知識を基に,3年生が臨床推論の流れを身につけられるよう工夫でき,勉強になった」と感想を述べた。
山中 一番大切なのは,実際の臨床現場で起こった症例を扱うこと。本当にあった症例に触れると,実践に即した緊張感が生じるため,学生たちは鑑別診断の技術をどんどん吸収していきます。回を重ねるごとに成長していく学生の姿を見ていると,彼らのポテンシャルは無限大だと,いつも実感させられますね。

――自主的に行う場合は,どのような症例を用意すればよいでしょうか。

山中 一般的な疾患を扱った症例がいいでしょう。カンファレンスでは,「どのようなアプローチで患者さんの診断にたどり着くか」を考えることも大切です。めったに遭遇しない難しい疾患だと,アプローチの仕方が特殊だったりして「へぇー」という感想で終わってしまいますし,疾患名を覚えることにもあまり意味はありませんから,学生にも指導医にも勉強となる普遍的で教育的な症例が好ましいですね。

――「心月輪カンファレンス」では,どのように症例を探していますか。

山中 以前は,私が実際に経験したケースから教育的な症例をピックアップしていたのですが,今はNEJM誌に掲載されている“Case Records of the Massachusetts General Hospital”から,学生が選んで準備してきます。学生主導のカンファレンスは,準備・進行を担当する上級生はもちろん,下級生にとっても年次が近い先輩の活躍を目にして目標とすることができるので,双方に良い影響が生じているように感じています。

良い発言は褒める!楽しく学べる雰囲気作りを

――カンファレンスで必ず下級生から順に当てていたのには,何か理由があるのでしょうか。

山中 以前,失敗したことがあるんです。勉強会で私が問題を出したときに,先に当てた二年目の研修医は答えられなかったのですが,次に当てた一年目の研修医がちゃんと正解してしまって……みんなの前で恥をかかせてしまったのです。結局その二年目の研修医は次から勉強会に参加しなくなってしまいました。学ぼうとしている若い人のモチベーションを,指導医が下げてはいけませんよね。それ以降,年次の低い人から答えていき,絶対に後戻りしないことを,このカンファレンスの原則にしているのです。

――モチベーションを上げるという点では,山中先生はカンファレンス中,学生の発言によく「いいねー!」と声を掛けていました。

山中 誰だってみんな,褒められるとうれしいじゃないですか。ベテランの医師からすれば大したことじゃなくても,学生にとっては素晴らしい発言がいっぱいあります。その一つひとつに,「すごいねー!」とか「その着眼点はいいねー!」と褒めてあげることが大切だと思うんですよね。反対に,的外れな発言を決して責めないことも大事です。

 カンファレンスを主宰するのに必要なのは,こうした雰囲気作りだと思います。楽しくやるのが一番。お菓子やお茶を用意して,リラックスした雰囲気を作るのも,手段の一つです。参加者のやる気を増幅できれば,より学習効果の高いカンファレンスが実現できるのではないでしょうか。

(了)


やまなか・かつお氏
1985年名大医学部卒。米国シアトルでの免疫学基礎研究,国立名古屋病院血液内科/HIV診療,UCSF(カリフォルニア大サンフランシスコ校)一般内科研修,名古屋医療センター総合内科診療を経て,2010年より現職。

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