医学界新聞

寄稿

2013.06.10

■カンファレンスも"国際標準"をめざす

(東京ベイ・浦安市川医療センター 内科・救急科後期研修)


内科の多職種カンファレンスのもよう。後期研修医(右手前)が司会進行を担う(東京ベイ・浦安市川医療センターにて)

 朝7時半,東京ベイ・浦安市川医療センターのカンファレンスルーム。これから始まる内科のモーニングリポート(MR)のため,続々と医師たちが集まってくる。

 プレゼンテーションを行うのは後期研修医。担当症例の現病歴・既往歴・家族歴や身体所見,画像所見を丁寧に示した上で,複数の鑑別診断を挙げる。適時,指導医や先輩医師から「浸潤影が末梢優位のとき,どんな疾患を考えるべき?」「過去数か月の抗菌薬の既往は?」と質問が飛ぶ。

 総合内科部長の平岡栄治氏によれば「患者の9割以上が救急経由であるため,このカンファレンスで,呼吸器・感染症など各領域の専門医による再チェックを行う」とのこと。それに加え,プレゼンテーションに慣れ,"どんな内容をどう伝えればよいか"を学ぶことも目的であり,声のトーンや話すスピード等も含めた評価とフィードバックを行っているという。

 「覚えるためには,繰り返すことが大事」と平岡氏が語るように,ベーシックな医学的知識や臨床のTIPSなどは意識的に何度も教え,知識の定着を図る。"クリニカル・パール"が紹介されると,一斉にメモを取る研修医たちの姿が印象的だった。

研修は米国ACGMEに準拠

 同院では2012年より,地域医療振興協会と野口医学研究所との共同プロジェクトであるJADECOM-NKPプログラムにて,米国ACGME(卒後医学教育認定評議会)方式に準拠した後期研修を行っている。

 管理者(CEO)の神山潤氏は「地域医療をシステムで支えるため,国際標準の研修を整備し,自立できる医師を育てる」と,研修の展望を語る。その具現化のため,同院ではACGMEが示す6つのコア・コンピテンシー(表1)を各科共通のアウトカムとして掲げ,目標達成に必要な手技や経験すべき疾患について明示1)。さらに,内・外・救急・集中治療・循環器の各科に米国の専門医資格を持つ医師が所属し,研修医への指導を行うことも特徴だ。

 カンファレンスも,このコンピテンシーの達成を念頭において構成されている。表2に示したのは,内科のスケジュール。平岡氏は「教える側だけでなく,教えられる側も,どのコンピテンシーを学ぶカンファレンスなのか,理解した上で参加することが重要」と話す。

表1 ACGMEのコア・コンピテンシー
1)Medical knowledge(医学知識の習得・応用ができる)
2)Patient care(適切な患者ケアができる)
3)Interpersonal and communication skills(患者や医療者と良好な対人関係を築ける)
4)Practice-based learning and improvement(自己学習と改善ができる)
5)Professionalism(プロフェッショナリズムに基づいた行動ができる)
6)System-based practice(医療システムを理解し,それに基づいた実践ができる)

表2 内科のカンファレンススケジュール(例)
火曜夕の「コアレクチャー」では,市中肺炎などコモンディジーズを研修医がプレゼンテーション。レクチャーの手順や情報へのアクセス方法を学び,論理的・科学的コミュニケーションを身につけるのが主目的。水曜昼の「ジャーナルクラブ」では情報の批判的吟味の仕方を学ぶ。月1回の救急・外科とのカンファ,不定期で"大リーガー医"による1-2週間の集中カンファも実施。

"共通認識"が作れる合同カンファレンス

 平日,MRカンファレンスの後に開かれるのが,循環器内科との合同カンファレンス。内科が心不全,急性心筋梗塞などの緊急入院患者を一手に引き受けるなか,循環器教育をより充実させ,二科間に診断・治療の"共通認識"を作ろうと始まったものだ。循環器に苦手意識を持つ内科研修医も多いため,週1回の教育カンファレンスも加えたこの協同体制が非常に好評だという。

 一方で循環器内科にとっても,得るものは多いようだ。「内科的なEBMの視点を学べ,内科系疾患との合併が多い高齢者などを診る際に役立つ。内科が循環器疾患をある程度診られるようになることで,専門的手技に専念できる」とは,循環器内科部長の小船井光太郎氏の弁。

 専門科間の垣根をできるだけ低くし,オープンな連携体制を整えることは「"断らない救急"を入り口に,ジェネラルな内科が受け皿となり,専門科がコンサルトする」というセンター長の藤谷茂樹氏の構想にも合致する。

患者さんの退院後や,看取りまで考える

 そのほか特徴的なのが,終末期/倫理カンファレンス。前者では,例えば慢性閉塞性肺疾患や重症心不全患者の予後推定や緩和ケアの方法など"必要十分な終末期医療"のためのノウハウを学び,後者では「緩和ケアか延命措置か決定が困難」「家族と医療者が対立」など,"答えのない"事例について考える。

 これらのカンファレンスで身に付けた知識は,「末期の認知症患者をどこで看取るか」「退院する患者の内服薬をどう管理するか」など,即断が難しいケースを多く扱う多職種カンファレンスで生きてくる。医師,看護師,PT,OT,そして栄養士やソーシャルワーカーが一堂に会して行われるこのカンファレンスについて,平岡氏は「入院時から退院後まで,患者さんの生活をスムーズに継続させるために,リハビリや介護・福祉制度など,他職種からの情報を得られる貴重な場」と話す。

 研修プログラムでは,1年あたり約3か月,地域医療振興協会の関連病院で地域医療研修に従事する期間も設けられている。「ここで学んだことを生かし,地域の病院で,カンファレンスをリードできるような存在になってほしい」と,平岡氏は結んだ。

写真 (1)平岡栄治氏/(2)循環器内科のカンファレンスルームの入り口にある掲示。診療科や職種の垣根を越え,気軽にコンサルトできる環境をめざしている/(3)小船井光太郎氏
(4)内科と循環器内科の合同カンファレンスのもよう

"失敗を今後に生かす"M&Mカンファレンス

 一方,救急科ではこの日,M&Mカンファレンスが行われていた。先月1か月間の救急外来受診患者のうち,後日連絡した患者の読影所見,72時間以内の再受診例,患者からのコメントもしくは他科から何らかのフィードバックがあった例などを振り返っていく。

 ここでの原則は「責めない」こと。うまくいかなかった原因はシステムの不備なのか,個人の認知エラーなのかを分析し,再発防止と,システム改善を通じて今後の医療安全・医学教育に生かすことを目標とする。

 カンファレンス中,率先して自験例を紹介し,エラーの原因を説明していたのは,救急科部長の志賀隆氏。「研修医もオープンに振り返りをしやすい雰囲気づくりを心掛けている」と話す。申し送りの形式や,患者・家族への"今後起こりうること"の説明方法などに関し,今後の改善策が次々とあげられていた。

積極的に学びの機会を作る

 その後行われたのは,産科の教育カンファレンス。ALSOプロバイダーコース()開催に備え,BLSOコースのデモが実施された。

 頻度は多くないが,"墜落分娩"など,救急においても分娩の知識が必要となる機会は確実にある。看護師,救急救命士も交えて,分娩介助や産後大出血の処置についてシミュレーターを活用しながら実践的に学んでいく。

 「"必須だが,現場ではまれな疾患"も,シミュレーションで経験しておけば焦らず対処できる」と話す志賀氏。ただ疾患を"知っている"のではなく,"実際に対応できる"レベルにまでより早く到達するために,シミュレーションが有効なのだ。今後も,このほど近隣に開設されたSamurai Jadecom Simulation Center2)も活用し,シミュレーション教育をより積極的に取り入れていく方向という。

 シフト制のため,全員がそろうことが難しい救急科だが,毎週シフトを調整してカンファレンスの時間を4-5時間確保し,2年間で約100に上るトピックを学んでいる。志賀氏は「face to faceの場で,双方向で情報を共有することが大切」とカンファレンスの意義を語った。

写真 左・志賀隆氏/右・BLSOコースのもよう。講師は伊藤雄二氏(西吾妻福祉病院長)

 後期研修医からは「グローバルな視点で,最新のエビデンスに基づいた学びが得られる」「組織全体が若く,指導医だけでなく,いろいろな先生から重層的かつオープンに教えてもらえる」といった声を聞くことができた。"国際標準"の医師を育てるという統一された目標の下,システマティックに研修やカンファレンスを作っていく同院の試みは,学ぶ側の研修医たちにも望ましい環境を作り出しているようだ。

(了)



ALSO(Advanced Life Support in Obstetrics)プロバイダーコース:医師をはじめとする医療プロバイダーが,周産期救急に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための2日間の教育コース。考案された米国では,ほとんどの分娩施設で受講が義務付けられている。BLSOはALSOの基礎コース。

参考URL
1)http://www.noguchi-net.com/img/topics/JADECOM-NKP/JADECOM-NKP.pdf
2)https://www.facebook.com/SamuraiJadecomSimulationCenter

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