医学界新聞

2013.05.13

臨床研修制度,10年目を迎えて

第31回臨床研修研究会開催される


幕内雅敏氏
 第31回臨床研修研究会が4月20日,TKPガーデンシティ品川(東京都港区)にて開催された。日本赤十字医療センター(幕内雅敏院長)が幹事病院を務めた今回は,「新臨床研修制度10年目を迎えて」をテーマに,新医師臨床研修制度発足当初の理念を振り返り,現状と課題を明らかにし,今後への提言を示すシンポジウムが企画された。本紙ではシンポジウム「新医師臨床制度発足時の理念と現状認識,及び今後の方向性」(座長=幕内氏,国立国際医療研究センター・木村壮介氏)のもようを報告する。

「研修プログラムの弾力化」,今後の方向性は

 社会の要請を背景に2004年にスタートした新医師臨床研修制度が10年目の節目を迎える。制度設計の中心的役割を果たした矢崎義雄氏(国際医療福祉大)は,「基本的な診療能力を身につける」という基本理念に基づき,「自分の専門領域の勉強は一生行うが,他科の勉強は本制度の2年間しかできない。また,専門家になったときの実力差は専門知識の量と技術力はもちろん,他科との境界領域の知識量にも表れてくる」とし,「専門家になるのを急ぐ必要はない。本制度の2年間はしっかりと“generalist mind”を育む期間である」と位置づけを語った。

 「新臨床研修制度発足時の理念は堅持すべき」。伊藤雅治氏(社団法人全国社会保険協会連合会)は厚労省在籍時代,2000年の医師法・医療法改正に携わった立場から,95年の「医療関係者審議会臨床研修部会臨床研修検討小委員会報告」から衆参国会審議を経て,02年「新臨床研修制度の基本設計」が取りまとめられるまでの経緯を検証した。氏は,初期研修の2年間を「プライマリ・ケアにおける基本的な診療能力を習得する期間」とした「基本設計」の理念に対して,今後も高齢化が急速に進む社会において「重要性はさらに高まる」と強調した。また,09年に見直され,翌10年度から実施された「研修プログラムの弾力化」は,プライマリ・ケア能力の向上をめざした2年間を実質短縮するため,発足当初の理念からは遠ざかるとして反対の意見を述べた。

 では,「研修プログラムの弾力化」以降の本制度はどうなっているのだろうか。3人目に登壇した福井次矢氏(聖路加国際病院)は,見直し以前のプログラムを「継続プログラム」,以後を「弾力化プログラム」と分類し,2年次研修医を対象とした02-08年度の経時的変化と,11年度の横断的評価のデータを比較して考察。(1)基本的臨床知識・技術・態度の評価,(2)経験症例数が1例以上の項目のいずれにおいても,「継続プログラム」のほうが望ましい結果が出ていると解説した。さらに,「弾力化プログラム」では修了要件のひとつである到達目標を満たしていない研修医がいる可能性も指摘。こうした実態を踏まえ,04-09年度に行われた制度見直し以前のプログラムに戻し,到達目標の達成度についても厳密な第三者評価を行うことを提言した。

 その後の総合討論では,臨床研修病院と大学病院それぞれの研修における強みと弱点が議論されたほか,医学生に対する病院側からのより積極的な情報発信や医学教育への「リベラルアーツ」の充実を求める声があがった。

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