医学界新聞

2013.04.15

臨床現場の倫理的問題に向き合う

臨床倫理(第3回白浜記念)ワークショップ2013開催


 日本医学教育学会の倫理プロフェッショナリズム委員会(委員長=横浜市立大・後藤英司氏)によるワークショップが3月16-17日,東大本郷キャンパス(東京都文京区)にて開催された。本ワークショップは臨床現場の倫理的問題を多様な視点から検討し,医療者への効果的な臨床倫理教育を考察することを目的としている。各セッションでは副委員長の浅井篤氏(熊本大)が中心となって翻訳した『ユネスコ・ケースブック』の事例や,昨今社会的に注目されている無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)が取り上げられ,55人の参加者によるグループディスカッションと全体討論が行われた。

◆多様な倫理的価値観を尊重することが大切

グループディスカッションのようす
 NIPTに関するセッションでは,板井孝壱郎氏(宮崎大)がNIPTと既存の母体血清マーカー検査の違いや日本産婦人科学会の指針を解説。NIPTによる新しい倫理的問題とは何か,適切な支援体制はどうあるべきかを問題提起した。各グループからは「妊娠早期に診断できるため,結果を受け止め,考える時間を確保できる」「原理的には他の遺伝因子にも応用できるので線引きが必要」といった意見や,そもそも日本では中絶について十分な議論がされてきていないという指摘のほか,小児科医や育児経験者による染色体異常児の出生後に関する情報発信や継続的なサポートが提案された。

 また,「透析の導入・中止をめぐる倫理的問題」のセッションでは,三浦靖彦氏(慈生会野村病院)が『ユネスコ・ケースブック』からアフリカの事例を紹介。医療資源の不足と貧困から透析治療を受けられない患者に対し,国家が医療を提供する責務はあるのか,あるいは限られた医療資源において救えない患者は存在せざるを得ないのか,といった社会保障の在り方をも問う内容について活発な議論がなされた。

 そのほかにも「ともに考えるインフォームド・コンセント」(国立病院機構東京医療センター・尾藤誠司氏),「がん医療におけるアドバンス・ケア・プランニング」(博愛会相良病院・江口恵子氏),「臨床倫理と法」(井上法律事務所・山崎祥光氏)といったセッションが行われ,閉会の挨拶では,副委員長の大生定義氏(立教大)が臨床倫理教育に大きく貢献した故・白浜雅司氏(元佐賀大)の言葉を紹介。臨床現場において多様な倫理的価値観を尊重し,皆で考えていく大切さがあらためて示唆された。

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