MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.04.08
Medical Library 書評・新刊案内
岡田 定,堀之内 秀仁,藤井 健夫 編
《評 者》早野 恵子(済生会熊本病院救急総合診療センター)
若手医師ばかりでなく,熟年世代の医師にも薦めたい一冊
この本は,聖路加国際病院出身の50名の医師たちが書いた本ですが,誰のために書かれたのでしょうか? さっと全体に目を通せば,これからキャリアを築いていく研修医・専門研修医や医学生が読むのに最適な本であることがわかります。なぜなら,若手医師の最大の関心事である進路の選択やキャリア形成を経験した先輩の文章が掲載されていて,ロールモデルや後輩へのアドバイスを見出すことができるからです。
さらに読み進めると,聖路加国際病院でさらなる研修を続けた医師,あえて国内の病院へ異動して研鑽を続けた医師,リサーチのための留学や海外での臨床研修やフェローシップの機会を得た医師,あるいは他の病院で研修後(海外も含めて)スタッフとして迎えられた医師など,その多様さに驚くと同時に,「みんなちがって,みんないい」(金子みすゞの詩より)というフレーズを思い起こします。
鈴木翔二先生が書かれたように,本や文献を読む時間さえ潤沢ではない「ハードな研修生活」の中で患者さんや指導医から実地に体感しつつ学ぶことにより,「初期研修で医師としての振る舞いや思考回路」が形成されていき,比良野圭太先生の文のように「知的好奇心を継続すること」は,その後の生涯にわたる学びの動機付けとなると思います。
市中病院に長い間勤務した臨床医は,大生定義先生のように自分自身で「サバティカル(研究休暇)」を創造した生き方に共感することでしょう。願わくは,長年勤務した医師が希望すればサバティカルと職場への復帰が保証される制度が日本にもあればと思います。
出雲博子先生が経験された,米国での数々の有益な研修の途上で,家庭の事情による方向転換をしなやかに受け入れ,生涯学習を継続する生き方は,ぜひお手本としたいものです。私も沖縄県立中部病院での研修後,諸般の事情による職場の異動や,腎臓専門医から総合診療医への転換を経験しましたが,子育てや両親の看取りの経験は決してハンディとはならず,人として臨床医としてかけがえのない経験や糧となっています。星哲哉先生が書かれたように予定外のことも寛容に受け入れ,そのときに与えられた役割を懸命に果たせば,地位や名誉とは質の異なる“パッチワークのように調和のとれた作品”を手にすることができるかもしれません。
五十嵐正男先生の「いつまでも専門医でいることはできない」という文は,多くの医師が壮年や晩年を迎えるときに実感していることであり,日野原重明先生の「臨床経験が,医師を『本当の医師』にする」という言葉はもはや説明の必要はなく,しみじみとした共感を覚えます。この本の序文を読むと,さまざまな年代の医師に対して,寄稿者である医師たちを紹介せずにはいられないという編集者の想いや意図が自然に伝わってきます。
最後に,この本は若手医師ばかりでなく熟年世代の医師にもぜひ読んでほしいと思います。その理由は,第一にこの本の中で発展途上の若手医師に出会うことができ,底知れぬパワーやエールを受け取ることができるからです。第二に,この本とともに研修医時代やこれまでの歩みを振り返ると,行く手に人生との調和のとれたライフステージが見えてくるかもしれないからです。指導医が周囲の研修医たちにぜひ読むように薦めるだけでなく,逆にこの本の中の若手医師の中にロールモデルを見つけたり,啓発されたりすることさえあるかもしれないと期待しています。
A5・頁240 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01620-9
誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた
重篤な疾患を見極める!
岸田 直樹 著
《評 者》大曲 貴夫(国立国際医療研究センター・国際感染症センター長)
「風邪」の診かたは,医師にとっての一般教養
研修医たちと接していると感じるのは,彼らが急性上気道炎(以下,本書に倣い「風邪」と表記する)の診かたを知らないということである。市中肺炎や腎盂腎炎,髄膜炎の診療は知っているのに,である。何とも不思議な状況であるが,無理もない。かわいそうなことに,医学教育の流れの中で,風邪を系統的に教わることはまずないのだ。こんなにありふれた疾患であるにもかかわらず,だ。
おそらく多くの医師は,風邪自体を「そんなことは当たり前」として,そもそも医療上の問題としてとらえていないと思われる。いわば医療化されることのない,体調不良の一種としてとらえていることがほとんどである。しかし当事者である患者が風邪による症状に対して,民間療法では対処不能として医療を求めはじめたとき,結果として施される診療の中身は,顔をしかめてしまうものが多い。
問題の中身を挙げておこう。第一には,患者の問題は本来抗菌薬の必要のない風邪であるのに,別の診断を付けてしまうことである。発熱・咽頭痛・鼻汁で来院した患者に「A群β溶連菌咽頭炎の可能性あり」として抗菌薬を処方する,などがその例である。患者が抗菌薬アレルギーによる全身発疹を発症したらどうするのだろうか。第二の問題は,患者が発熱を訴えて来院した場合に,本来は重篤なほかの疾患によるものであるのに,「風邪」と診断してしまってこれらの重篤な疾患を見落とし,後手に回ってしまうということである。当初「風邪」と診断され,結果的に深頸部感染症から縦隔炎・肺膿瘍となり亡くなった若者の事例などが報告されている。
本書は,これらの問題に切り込むため,風邪様症状へのアプローチとして「風邪を風邪と診断する」「風邪に紛れた風邪以外を診断する」ことの重要性を指摘し,その実際を説いている。「風邪を風邪と診断する」には,さまざまな臨床像を取り得る「風邪」を豊かなイメージとともに知っておくことが必要である。それは疾患の発症から完成そして改善までの一連の流れを,みずみずしい像として知っておくことにほかならない。本書はこの点を豊かに描いている。そして「風邪」のイメージを自分の中で作り上げることができれば,そこに当てはまらない臨床像の患者に遭遇した場合に,何やらおかしいと感じとることができる,と指摘する。そうすれば後は「風邪に紛れた風邪以外を診断する」ために,風邪以外の疾患の臨床像を,やはりみずみずしいイメージとしてたたき込んでいけばよい。
本書は,その過程を導いてくれる良書である。この本を読んだら,まずは自分自身が風邪をひいたときや,家族や同僚が風邪をひいたときに,ぜひ本書の内容を適用していただきたい。そうやって繰り返し症例に当たり,検証することで風邪診療は身についていく。
A5・頁192 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01717-6
ソーリー・ワークス!
医療紛争をなくすための共感の表明・情報開示・謝罪プログラム
ダグ・ヴォイチェサック,ジェームズ・W・サクストン,マギー・M・フィンケルスティーン 著
前田 正一 監訳
児玉 聡,高島 響子 翻訳
《評 者》田中 まゆみ(北野病院総合内科部長)
不毛な医療訴訟を防ぎたいすべての関係者へ
2012年10月に日本脳炎予防接種後の急死例が大々的に報道された。このケースでもそうだが,医療事故には複雑な要因がからんでおり,過誤の有無,過誤が悪い結果(死亡・後遺症など)の唯一の原因であったのかなど,すぐには結論が出ないことが多い。しかし,被害者にとっては「予期しない悪い結果」の原因は人為をまず疑うのは当然であろう。もし初期対応が不適切であると,「加害者vs.被害者」の対立構図が生じ,訴訟に至ってしまう。
しかし,医療訴訟に勝者はいない。信頼を裏切られた患者家族だけでなく,疑われた上,「訴訟中は何もしゃべるな」と厳命される医療者もまた苦しむ。司法解剖がされたとしてもその結果は遺族にも医療者にも知らされることはないので,再発防止にも役立たない。最終的には医学的に医療過誤とはいえないという結論で終わることも多いが,それを「医療とはもともと不確実で未熟なものであり,司法でそれを裁くには限界がある」というふうにではなく,「医療訴訟では患者側が勝つことは難しい」というように受け止められてしまう。
医療訴訟では被害者も加害者も救われないというのなら,それに代わる医療事故の良い解決方法はないのだろうか。本書は,医療者がすぐにも実行できるいくつかの重要な提案をしている。
まず,医療行為が悪い結果に終わった場合は,何をおいても,医療者側は共感のこもった遺憾の念を心から表明すべきだということ。とにかく「残念な結果に終わった」事実を認め,無念さを遺族と共有する場を持つ。次に,真実の解明のためにすべての情報を公開すること。
真っ先に「ソーリー(本書での和訳は『すみません』)」と言うのは,遺族と医療者が共に死者を悼んでおり,対立しているのではないことを示すのに非常に有効だ,と著者は言う。積極的で完全な情報公開も,医療者側も同じように原因究明・再発防止を願っていることの確認になる。対立する必要は全くないのである。
もちろん,いくつかの留意点がある。ここでの「ソーリー」は日本語に訳すと「こんな結果に終わって残念です(共感の表明)」という意味であり,「ごめんなさい(謝罪)」ではない点が第一。第二に,「責任」と「お金」については病院全体が調査してからしか対応できないので,「私の一存では決められません」と即答を避けること。第三に,もしも十分な調査でも医療者側に不適切な点が見つからない(医療水準を満たした治療であった)場合は,決して和解してはならない(訴訟になったら,「毅然と受けて立つ」しかない)こと。第四に,医療者側に不適切な点があったなら,その情報をすべて示してから,きちんと場を設定して心から謝罪すべきであること(とにかく謝るのではなく,原因調査報告を提示して謝ることが大切)。そして最後に,賠償金を支払うことになった場合は,以後の請求権を放棄する旨を書面に署名してもらうなど,条件を明確にして後顧の憂いを断つこと。
「『ソーリー』と言うな,言ったら非を認めたことになり訴訟で不利になる」と言い続けてきた張本人の米国人が何を今さら,と多くの日本人は反発するかもしれない。だが,情に流されて法的に穴だらけの対処をしてしまう(福島県立大野病院事件で,医療事故保険金を遺族に払うために安易に非を認めた調査報告書を書いてしまい,それが刑事告発に利用されたことはまだ記憶に新しい),日本の文化の甘さを思い知らされる「留意事項」の数々こそが,実は本書の真骨頂であろう。「弁護士に頼むのはお金の話になってから」というのも,本書が米国で喝采を浴びたゆえんであろう(弁護士は,そもそも,患者と医療者が対立していなければ出る幕はない)。
訳者は,文化も法律も異なる中での翻訳に苦労されたと思う。しかし,以上のようなメッセージは明快に伝わってくる。契約社会・訴訟社会での「成熟した」態度を日本の医療界も身につけねばならない。本書が,「不幸な医療事故が不毛な医療訴訟になる」ことを防ぎたいすべての関係者(医療・司法・行政・報道)の大きな助けになることを確信する。
A5・頁216 定価2,730円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01493-9
馬場 忠雄,山城 雄一郎 編
雨海 照祥,佐々木 雅也,宮田 剛,島田 和典 編集協力
《評 者》小越 章平(高知医大名誉教授)
長年のライバルによる画期的な医家臨床栄養学テキストの今日的大改訂
このたび医学書院より,『新臨床栄養学』が6年ぶりに改訂になり刊行された。本書は馬場忠雄先生ならびに山城雄一郎先生が中心となり,それに若手というより現在,旬のベテラン4人が編集協力者として加わって全面改訂が行われ,第2版として刊行に至ったことに,まずはご同慶の至りと心よりお祝い申し上げる。
初版は紹介するまでもなく,故・岡田正先生の孤軍奮闘の力作であり,当時は少なかった医家向けのスタンダードをめざしたテキストで,かなり画期的といえるものであった。栄養学にとってのこの30年は,高カロリー輸液,そして経腸栄養は成分栄養法を中心として方法論はもとより,その臨床効果は「抗生物質に並ぶ20世紀最高の治療手段」といわれ,重症患者の管理には不可欠のものとなった時代である。今から振り返ると,当初臨床栄養学の全般を網羅するこのような教科書を完成させたのは,全く岡田先生の情熱のほかの何ものでもないと感心させられる。
私事であるが,図らずも岡田先生と評者は年齢も近く,同じ時期に米国留学(岡田先生はミネソタ大,評者はペンシルベニア大)を経て,帰国後の研究も同じ「外科栄養」の仕事であった。やはりお互い意識せざるを得なかったであろう(その辺りの事情は,以前,岡田先生の追悼文集にまとめて書いたので参照していただきたい。[小越章平.静脈・経腸栄養の発展を思い出すままに.ジェフコーポレーション;2011.])。
岡田先生と評者はよく対比され,「西の岡田,東の小越」「静脈栄養の岡田,経腸栄養の小越」「外科代謝の岡田,JSPENの小越」などと,時代の流れとともにそう呼ばれたようである。先生が本書の第1版を企画されたころは,まだ当時のそうしたライバル意識が残っていたためか,評者の「エレメンタル・ダイエット」関係,「栄養アセスメント」関係の仕事についての文献引用もわずかにとどまっていた。しかしその後はお互いの仕事をよく理解するに至り,学会での無二のライバルであり,親友となった。
私事の話が多くなったが,今回の第2版の改訂は岡田先生が当時から,30余年後の今日のこの領域の発展を見越していたかのような,さらなる内容の充実を図り臨床栄養の理論と実践を学生,一般医家にも良く理解できるように,すべてを漏れなく取り上げている。
改訂を受け持たれた馬場先生,山城先生はじめ,また編集協力者の先生たちのご努力に敬意と謝意を表したい。理論だけでなく日々変化する実践的栄養管理テクニックのテキストとして,間違いなく多くの医師,学生,NSTに興味を持つコメディカルの方々に薦められる。そして日進月歩の変化に即した今後のきめの細かい改訂を希望するものである。
B5・頁792 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01615-5
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