「緩和ケア訪問看護師教育プログラム」始まる
2013.03.25
自宅で最期を過ごしてもらうために
「緩和ケア訪問看護師教育プログラム」始まる
超高齢社会の到来とともに在宅医療が推進されているが,終末期の患者を自宅で看取るケースは,いまだ少ない。この現状を打破するためには,訪問看護師が中心となった在宅医療チームを築き,終末期の患者とその家族を支えながら緩和ケア医療を推進することが欠かせない。そうした要請を受けて2012年度より始動した「緩和ケア訪問看護師教育プログラム」。本紙では2月に実施された本プログラムの講義および実習のもようを取材した。
写真 実習を行った訪問看護ステーションパリアン(東京都墨田区)でのカンファレンスのようす。患者の経過報告を行う受講生に,医師やベテランの訪問看護師らが意見やアドバイスを述べた。 |
根拠に基づいた教育プログラム
このたび,緩和ケア訪問看護ステーション連絡会が,聖路加看護大と共に開発した在宅緩和ケアの教育プログラムが「緩和ケア訪問看護師教育プログラム」だ(註)。学術的に根拠のあるプログラムを構築するために,評価指標など,効率的な教育プログラムの設計に必要な情報を,200本近い文献から収集。また,実践に即したプログラムとなることもめざし,在宅緩和ケアにかかわる12人の専門医療者へのインタビューを行い,プログラムに取り入れる教育内容を選定した。
こうして設計されたプログラムは,2日間の講義と5日間の実習で構成される。講義には,90人の応募者から選ばれた60人が参加。訪問看護ステーションからだけでなく,半数は病院等の施設からも参加しており,在宅緩和ケアへの関心の高さが伺える。受講生は現場で遭遇する倫理的問題のシミュレーションや,患者家族・遺族へのケアなどを在宅緩和ケアの理念から学び,現場でのケアを振り返ることによって,理論に基づいた臨床を行えるよう知識を再確認した(表)。
表 緩和ケア訪問看護師教育プログラムの講義スケジュール | |
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在宅緩和ケアの"実践力"を養成する
講義を受講した看護師のうち15人は,5日間の実習にも参加。実習先となった6か所の緩和ケア訪問看護ステーション(ホームケアクリニック札幌,ケアタウン小平,訪問看護パリアン,坂の上ファミリークリニック,ひばりクリニック,訪問看護ステーションベテル)は,いずれも在宅療養支援診療所と一体型の訪問看護活動を行っている。実習では,各ステーションの訪問看護活動に同行し,実際の在宅医療の現場を体験してもらう。講義で学んだことを,単なる知識にとどめるのではなく,実習で得られる経験と併せることで"実践力"を養成することがねらいだ。6か所のステーションにはそれぞれ地域性や担当患者の容態など異なる部分もあるが,実習要綱や指導の手引き等を作成し,プログラムとして一定基準の共有をはかることで,在宅緩和ケアを学ぶ上で重要な点をおさえたという。
緩和ケア訪問看護ステーション連絡会会長の渡邉美也子氏は,「終末期の在宅医療のニーズが高まるなか,患者さんを最後まで24時間いつでも支えられる在宅緩和ケアが全国で求められている。一人でも多くの看護師に在宅緩和ケアを知ってもらい,実際にかかわってもらいたい」と期待を寄せた。
本プログラムは2013年度も開講される予定。今回のプログラムで得られた受講生の意見や到達度をフィードバックし,継続可能な教育プログラムの構築をめざす。
◆プログラム受講者の感想
――受講の動機について
「在宅診療医とのコミュニケーションの取り方や患者さんが退院する際の病院や地域との連携について学び,今後の看護に活用したい」(訪問看護ステーション勤務)
「病院では退院調整支援をしている。帰宅を希望する患者さんに,在宅での緩和ケアについてきちんと説明できるよう,プログラムを通じて訪問看護の実情を知りたい」(病院勤務)
――プログラムを終えて
「病院では帰宅の希望がかなわず,安らかな時間を持てないまま亡くなる患者さんをみてきたが,在宅医療を経験して,どんな状態でも患者さんが望めば自宅へ帰れることがわかった。今後は病院でも,本人の希望に沿った最後を迎える準備ができるようかかわりたい」(病院勤務)
「自宅では患者さんとご家族とのコミュニケーションがとても自然だったことが印象的で,在宅療養の大切さを実感した。患者さんの残された時間をできるだけ良いものにするためには,もっと病院と連携を取る必要があると感じた」(大学院生,病院勤務経験あり)
「死ぬことに対する考え方が変わった。これまでは死を"負け"ととらえていたが,実習で訪問した先の患者さんやご家族は死と向き合っており,訪問看護師も死を隠すことなく患者さんと接していた。それがとても自然な流れに思えて,気持ちが楽になった」(デイケア勤務,病院勤務経験あり)
註:本プログラムは,平成24年度厚生労働科学研究費補助金地域医療基盤開発推進研究事業(研究代表者:堀田知光)を主として,一部は笹川記念保健協力財団からの助成によって実施されている。
【interview】患者主体のケアを行うプロの訪問看護師の養成を川越 博美氏(医療法人社団パリアン 看護部長/写真右)
――緩和ケア訪問看護師には,どのような専門性が求められているのでしょうか。 林 基本的な知識や技術は在宅でも施設でも大きく変わりませんが,在宅では特に応用力が求められます。施設のように医療設備が整っていない環境で,患者さんの生活する視点に立って療養環境の調整をしたり,ときには医療機器ではないものもうまく活用したりと,医療の分野に限らない知識を幅広く応用する上級の力が必要です。 川越 私は,看護師が何から何まで医師の指示を待つのではなく,学んで得た知識と経験から,患者さんのスピリチュアルケアも含めた症状マネジメントを自主的に行うことが重要だと考えます。 それから,医師も含めた緩和ケアチームを作り,チームを育てていく力も必要でしょう。患者さん主体のケアを継続していくために,どのようなサービスを利用すれば良いか,チームはどうあるべきかを,患者さんの一番そばにいる看護師が考え,実行してほしいと思います。 林 そうですね。自分一人でやってしまわないことも,チームを育てていく上で重要だと思います。もちろん現場では,卓越した技術と知識,そしてどんな状況でも対応できる能力が求められ,経験年数が長ければ長いほど,つい自分が率先して行いたくなるでしょう。しかし,それが必ずしも現場にとって良いこととは言えません。その人がいないとすべてが成り立たなくなるというのは望ましくない状態です。自分が出ていかなくても成り立つような環境をつくることが大切ですよね。 知識の応用と自主的な行動,そしてチームの育成を実践するためには,積み重ねてきた経験に基づいた看護職としてのプライドとプロ意識が必要だと思います。この2つを持てば,日常生活も含めて経験したすべての事象が,患者さんの理解や,新しい知識獲得への意欲に結びつくのではないでしょうか。 川越 そうですね。これまで訪問看護ステーションは,自宅で医療を受ける患者さんを,小児から終末期まですべてみてきました。もちろん基本的にはそれで良いのですが,これからは緩和ケアや精神科など,専門に特化した実力とチームを持つ訪問看護ステーションもあって良いのではないかと思います。本プログラムをきっかけに,在宅で緩和ケアに取り組むプロの訪問看護師が育ってほしいですね。 (了) |
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