医学界新聞

寄稿

2013.03.04

【寄稿】

"モノ"と"質"の服薬管理
病院薬剤師の役割とは

門村 将太(札幌社会保険総合病院 薬剤部)


 「服薬管理」と聞いて,皆さんはどんな仕事を想像するでしょうか。一般的には調剤方法や飲ませ方などが取り上げられることが多いと思いますが,私は,2つの「管理」があると考えます。1つは今述べたような医薬品,つまり"モノ"の管理です。もう1つは薬物療法の適正化,"質"の管理です。服薬管理においては,後者の評価が不十分であると根本的エラーが解決しません。

 臨床における薬剤師によるケアは「ファーマシューティカルケア」と呼ばれ,薬物関連問題(medication-related problems,MRPs)()を発見し解決することが求められます1)。本稿では,主に病院薬剤師による院内での服薬管理とMRPsについて述べたいと思います。

 薬物関連問題(MRPs)1)

薬剤師の関与が強まる持参薬管理

 病院薬剤師はのように,入院から退院に至るまで,さまざまな薬剤の変更にかかわっています。

 服薬管理のイメージ

 患者が入院時に持参する薬に関しては,入・退院時における薬剤の不一致(medication discrepancy)が薬剤有害事象(adverse drug events,ADEs)につながることが指摘され2),これを防止するために薬の再確認(medication reconciliation)を薬剤師が行うことが求められています。患者面談を行うことでより多くのMRPsに介入できるとする報告もあり3),薬剤師が患者と直接面談する重要性が示唆されています。

 本邦では医療事故をきっかけに,2005年に日本病院薬剤師会(日病薬)が打ち出した,持参薬に関して薬剤師が患者安全確保に適切に関与すべきとする提言(「入院時患者持参薬に関する薬剤師の対応について」)などが契機となり,全国的に持参薬への薬剤師の関与が強まった背景があります。

 当院でも主に病棟薬剤師が「持参薬等管理表」を作成して入院時の処方情報の一元化を行っています4)。複数の医療機関・診療科からの持参薬を一元化することで,重複投薬や禁忌投薬といったMRPsを見いだすことができます。また,手術目的入院の患者において抗血栓薬などの手術前休止薬の有無や休薬期間の確認を行うなど,医療安全にかかわる場面も多くあります。

入院中は処方変更・剤形変換に留意

 院内処方薬に切り替える場合,医療機関ごとに採用薬品目や調剤内規が取り決められているため,製品(後発医薬品なども含む)・剤形・含量・用法用量・投与間隔・調剤方法などが変更されます。

 当院では,経口糖尿病治療薬は食事摂取が不十分な場合低血糖を招く危険性があるため,一包化調剤をしていません。日本薬剤師会5)と日病薬6)はADEsなどのリスクが高い薬剤を「ハイリスク薬」として選定しており,当院ではハイリスク薬が処方された場合,新規か継続かを確認し,新規の場合は適応があるか(例:血糖降下薬⇒糖尿病)を調剤前にチェックしています。

 高齢者においては,多くの方が腎機能が低下していることから,腎排泄型薬剤の投与量(renal dosing)のチェックも必要です。腎機能に応じた投与量を公開している,日本腎臓学会の「CKD診療ガイド2012」,日本腎臓病薬物療法学会の「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧」なども活用できます。医療機関によっては,院内処方せんにeGFRなどの検査値を印字して過量投与の防止を図っているようです。

 さらに,入院中は処方薬だけでなく注射薬が加わる(もしくは変換される)と薬物療法がより複雑化するため,医薬品データベースや薬剤業務支援システムなどのITツールを利用して相互作用などを確認するといった,より細かなチェックが必要となります。しかし,これだけで全てのMRPsを網羅できるわけではなく,病棟薬剤師が患者と薬歴双方をモニタリングすることで有効性・安全性が担保されると考えます。

退院後は薬局薬剤師との情報共有を

 退院時は,外来にとっては"逆持参薬"となるため、入院時持参薬との相違点や追加された薬について患者や家族に情報を提供します。ただしお薬手帳だけでは入院中の状況把握は難しいため,入院病名,主な使用薬剤,退院時の説明内容,副作用歴・アレルギー歴,現病歴・既往歴,入院中の服薬管理状況,今後モニタリングすべき項目などを記した「退院時薬剤情報提供書」を添付することで,かかりつけ医や薬局薬剤師との情報共有に努めています。

 退院後の外来では,多くは薬局薬剤師による服薬管理がなされます。地域によっては,院外処方せんに検査値を印字したり,お薬手帳にCKD患者シールを添付してeGFRを記載してもらう,などの取り組みを行い情報共有を図っているようです。近年,注射抗がん薬や経口抗がん薬の外来治療が増加しており,副作用管理のためにも薬局薬剤師の医療情報へのアクセスの必要性が高まっています。地域での医療情報の共有化の早期実現が切望されます。

多剤併用にどう関与すべきか

 高齢者の増加に伴い,多くの合併症をかかえ多剤併用をしている患者を目にすることも珍しくありません。高齢者に対する薬物治療の適正評価基準として,米国老年医学会によるBeers criteria7),英国国営保険サービス(NHS)によるSTOPP(Screening Tool of Older Persons' potentially inappropriate Prescriptions)/START(Screening Tool to Alert doctors to the Right Treatment)criteria8)などが作成され,潜在的不適切処方(potentially inappropriate medication)を早期に発見して介入することで,ADEsの発生や,過量投与などに伴う救急入院の抑制を図る取り組みが報告されています。本邦でも同様に,薬剤師による処方の見直しと処方数低減への関与がより一層要求されると考えられます9)。当院では残念ながら,明らかなADEsがない限り積極的な提言はできていませんが,今後は介入基準を設けることで早期に関与できればと考えています。

 2012年度診療報酬改定において「病棟薬剤業務加算」が新設されました。端的に言えば「全病棟で専任(専従)薬剤師が半日以上の時間を患者のケアに充てるよう配置すること」に対する報酬です。米国の報告でも,内科系ICUにおいて薬剤師が電話応対のみ行うよりも「現場にいること」で副作用をより低減できることがわかっています10)

 今後は本邦でも,医師・看護師と協力し,処方の適正評価と改善を図り,病棟における服薬管理の"質"向上,ひいては患者アウトカムの改善により深く寄与できる病棟薬剤師が求められると考えられます。

参考文献
1)Cipolle RJ, et al. Pharmaceutical Care Practice: The Patient-Centered Approach to Medication Management, 3rd ed. McGraw-Hill Medical, 2012.
2)Boockvar KS, et al. Am J Geriatr Pharmacother. 2006;4(3): 236-43.
3)Karapinar-Çarkit F, et al. Ann Pharmacother. 2009;43(6): 1001-10.
4)門村将太他.医療薬学.2008;34(7):671-6.
5)薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)
 http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2011/05/high_risk_guideline_2nd.pdf
6)ハイリスク薬の薬剤管理指導に関する業務ガイドライン ver.2
 http://www.jshp.or.jp/cont/10/1104.pdf
7)American Geriatrics Society 2012 Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2012;60(4): 616-31.
8)http://www.cumbria.nhs.uk/ProfessionalZone/MedicinesManagement/Guidelines/StopstartToolkit2011.pdf
9)徳田安春編.提言――日本のポリファーマシー(家庭医・病院総合医教育コンソーシアム).尾島医学教育総合研究所,2012
10)Leape LL, et al. JAMA. 1999;282(3):267-70.


門村将太氏
2003年北大大学院薬学研究科修士課程修了。同年4月より現職。整形外科,膠原病,循環器,腎臓内科などの病棟薬剤業務に従事。現在は,調剤,医薬品情報,感染管理部専任を担当。本年1月には薬物療法専門薬剤師資格を取得。回避可能な薬剤有害事象の早期発見・早期解決の方法論を日々模索している。

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