入院中のADL ほか(3)(川島篤志)
連載
2012.08.27
小テストで学ぶ “フィジカルアセスメント” for Nurses
【第23回】入院中のADLほか(3)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。“身体を診る能力=フィジカルアセスメント”を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている“フィジカルアセスメントの小テスト”を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回は皮膚の話題が多いですが,基本的に一内科医からの視点であることにご留意ください。
口腔内
(9)問(9)は連載第8,9回(2930,2934号)と関連しています。
嚥下困難は去痰困難と連動します。肺炎(特に誤嚥性肺炎)のHigh Riskですし,治癒にも不利です。痰を出せないときの音である“ラットル”が聴こえるのではないか? と意識することも重要ですよね。
NST活動における口腔内ケアの重要性が高まってきています。物品購入や歯科との連携など,施設によって多様な取り組みがあると思いますが,多職種でのチーム医療,患者さんとの医療情報の共有がポイントです。
顕性誤嚥と不顕性誤嚥の違いは理解していますか? 患者さんやご家族にも理解してもらうことが重要です。「家で食べるときはムセていません」と言われたり,胃瘻を作れば“誤嚥”はないと思われている場合もあります(ここ1年ぐらいで,一般の方の認識もかなり変化した印象がありますが)。
誤嚥がある⇔栄養投与経路に問題がある(経口摂取困難)⇔去痰困難がある⇔吸引が必要な可能性がある⇔どこで看ていくかという問題が生じる(自宅での介護力,もしくは地域における医療機関・施設の状況)⇔徐々に状態が悪化する(誤嚥性肺炎における耐性菌の関与,低栄養や急性疾患による全身状態の悪化。高齢者は元の状態に戻るというより,徐々に,または急激に悪化すると認識する),という複合的な連鎖を意識してもらうことが,高齢社会では必要かもしれません。
(10)う歯に関しても連載第9回で解説しました。う歯は決して自然には治らないことを,あらためて理解しておきましょう。また,う歯はさまざまな疾患の原因にもなります。感染症で言えば前述の肺炎や,頻度は低いものの重篤な感染性心内膜炎,顔面の軟部組織感染症の原因になり得ますし,咀嚼力が落ちれば,低栄養・食思不振などにつながる可能性もあります。
一方で,患者さんがう歯を治療しなかった理由を考えることも重要です。(1)健康問題としてとらえていない,(2)う歯があっても生活に不自由を感じない,(3)歯医者が怖い(冗談です),(4)金銭的な問題がある,に収束されるのではないでしょうか。
「研究テーマになるのでは」と院内で話していたら,NSTでデータをまとめ始めたという進歩がありました。患者さんへのう歯指導が,結果的に患者さんの家族や看護師さんといった若い世代のう歯治療にも結びつくとよいなと思います。……読者の皆さんはう歯はありませんか?
(11)ステロイド投与中には,口腔内カンジダの発症がある程度の頻度で見られます。回診でチェックすると口の中が真っ白で,思わず「主治医は誰?」と振り返ったりします(今は笑顔で振り返る立場ですが,以前は冷汗をかく立場でした)。
定期的にチェックしないと見逃しがちですし,患者さんの自覚症状が軽微なことも多いです。「何となく食欲がない」「摂食が落ちてきた」などが重要なチェックポイントかもしれません。
また,カンジダ症には必ずしも白くならないパターンもある(白い点状のものが見えるのが偽膜性カンジダ症で,他に肥厚性カンジダ症・萎縮性カンジダ症がある:詳しくは成書参照)ため,免疫抑制状態の方には注意を促すことと,観察が重要だと思います。
皮膚
(12)入院中の皮膚異常に精通するのは,実は難しいです。筆者自身,内科医でありながら個人的にはまだ苦手です。幸いにも皮膚科に相談できる環境があり,それに甘んじていますが,もう少し勉強が必要だと思っています。
遭遇する頻度が高いのは,薬剤による発疹でしょう。薬疹は本当に多彩で細かく理解するのは困難ですが,紅斑など皮膚の変化に気付けるとよいですね。実際のところ,一番に気付くのは患者さん本人か,掻痒感を伴わないものなら看護師さんで,いずれにせよ医師が気付くのは意外と遅いものです。もしアセスメントされていないようなら,報告してもらえると,医師としてもありがたいです。
内科医ならば被疑薬の推定(投与直後,数時間-数日後,2週間前後とさまざまなパターンがあります)や薬剤性過敏症症候群(DIHS)の原因薬剤の把握は必要ですが,看護師さんにはそこまでは求められないでしょう。ただ,Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症(TEN)などの重症疾患では,粘膜障害を起こすこともあります。薬疹に思い至ったら,口腔・結膜や陰部・肛門部の粘膜の観察ができればベターです。
全身の発疹ではなく,局所的な分布であれば薬疹以外の疾患を検討します。もし半身のみに帯状に分布していれば,帯状疱疹の可能性を意識してください。高齢者の帯状疱疹の場合,早期の治療が帯状疱疹後疼痛の発症を抑えます。典型的な発疹が出る前に,「ピリピリ感」や「服が擦れたときに違和感を感じる」という訴えがよくありますよね。免疫抑制状態の入院患者さんは少なくないと思います。早期の気付きが患者さんのQOLを改善する可能性がありますので,注意して観察してください。
(13)陰部・肛門周囲の皮膚変化に気付く医師は残念ながら多くないと思います。患者さんからの訴えがない場合は特にそうなりがちです。ADLの悪い患者さんでは,オムツ交換や清拭の際に,看護師さんが皮膚病変に気付くことがあります。そうした日常的な業務での観察から,状況を報告してもらえるとありがたいですね。
皮疹に適切な外用薬は,原因に応じた選択となります。ただ,施設にもよりますが,皮膚科以外の医師,特に若手はこのあたりの処方は苦手かもしれません。コソっとベテランの看護師さんに聞いてみると,施設での処方傾向がわかるかもしれません。
(14)高齢者では皮脂欠乏性皮膚炎による掻痒や前述の薬疹などがあり得ます。ただ,院内感染として大きな問題となる疥癬が隠れていることもあるので要注意です。疥癬は主として接触感染であり,そのなかでADLの悪い方から介護者への感染が起こり得ます。潜伏期が約1か月というのも少々厄介ですよね。近隣施設での発生状況に関しては,お互い誠意をもって情報共有したいものです。
(15)足の衛生,特に趾間の衛生は注意しないとおろそかになりがちです。肥満の方やADLの悪い高齢者では自分自身での観察も難しいかもしれません。白癬はいろいろな意味で問題になってきますし,糖尿病の方であれば,なおさら足の衛生に配慮する必要性があります。
(16)爪白癬は外用薬では改善しません。内服薬での治療(テルビナフィン)になりますが,長期内服が必要であることや肝障害という副作用の観点から,治療の完遂はなかなか難しい場合もあります。
爪のケアも重要ではありますが,複雑な問題も絡んできますので,まずは施設内での対応方法を確認してみましょう。
(つづく)
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