医学界新聞

2012.08.20

国内外に“開かれた学会”をめざす

第10回日本臨床腫瘍学会開催


 第10回日本臨床腫瘍学会が7月26-28日,大阪国際会議場(大阪市)にて中川和彦会長(近畿大)のもと開催された。学会テーマの「Beyond the Global Standard of Medical Oncology――Perspectives from Asia」に沿い,初めて演題の海外公募を実施。アジア圏を中心に123演題に上る応募があった。また市民参加型の公開シンポジウムやSNSを利用した情報発信等,節目の10回目に“開かれた学会”の在り方が示された。


難治性のがん治療に光明

中川和彦会長
 プレナリーセッション(座長=東北大・石岡千加史氏,福岡大・田村和夫氏)では,国内外の演者7人から,難治性のがんに対する最新の臨床試験の結果が報告された。

 日本でも,転移性腎細胞がん(mRCC)への適応が承認されたアキシチニブ。植村天受氏(近畿大)は,mRCCの二次治療の第III相試験(AXIS)からアジア人症例(723例中158例)を抽出して解析を行い,全例対象時と同様,無増悪生存期間(PFS)がソラフェニブ群に比し有意に延長していたと発表した。さらにサイトカイン療法に抵抗性の患者群でも同様の結果が得られたとした。

 Young-Hyuck Im氏(韓国サムスンメディカルセンター)は,完治不能とされる転移性乳がんへの「パクリタキセル+ゲムシタビン(PG)」による維持療法の第III相試験を行った。氏は6サイクルのPG療法が奏効した患者231例をPG維持療法群と経過観察群に振り分けて追跡。維持療法群にて深刻なQOLの低下がなく,PFSと全生存期間(OS)に有意な延長がみられたという。

 町田望氏(静岡がんセンター)は,標準投与計画が未確立の進行胃がん(AGC)の二次治療で,生存利益が示されているイリノテカン(IRI)と,パクリタキセルの週1回投与(wPTX)とを比較したWJOG4007試験を報告した。標準的一次治療に抵抗性の患者223例を割り付けたが,OS,PFSともに有意差はみられず,有害事象も認容範囲内。三次治療への移行は,IRI群の72%に対しwPTX群が90%と有意に高く,氏は今後,wPTXがAGCに対する第III相試験の対照群になり得ると考察した。

 切除不能大腸がん(mCRC)への新規薬レゴラフェニブの効果を示したのは吉野孝之氏(国立がん研究センター東病院)。標準治療抵抗性のmCRC患者に支持療法とレゴラフェニブを併用しプラセボと比較したCORRECT試験で,レゴラフェニブ群のOS,PFSが,日本人症例に限ってもPFSが有意に延長した。この結果はmCRCの主要バイオマーカーとされるKRAS遺伝子変異の有無に依存せず,レゴラフェニブの新たな標準療法としての可能性が示唆された。

 同じくmCRCで,標準化学療法(CT)とべバシズマブ(BEV)の併用で病勢進行をみた後も,CTに加えBEVの継続投与を試みた第III相試験(ML18147)の結果をStefan Kubicka氏(独District Clinic Reutlingen)が報告した。OS,PFSともにBEV+CT群で有意に延長し,KRAS遺伝子変異の有無は影響しなかった。氏は二次治療でもBEVの併用を継続する戦略の有用性を主張し結論とした。

 山本信之氏(静岡がんセンター)は,LUX-Lung3試験の日本人サブグループ83例の解析データを発表した。同試験は,EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療として,新規薬アファチニブとペメトレキセド(PEM)+シスプラチン(CDDP)の併用療法とを比較した第III相試験。PFS,奏効率ともにアファチニブ群にて全解析対象時を上回る高値を示し,QOLも改善傾向にあった。氏は,アファチニブが日本でもNSCLCへの有効な治療選択肢となる期待を寄せた。

 最後にC.K.Obasaju氏(米イーライリリー社)が,進行非扁平上皮NSCLCへのPEM+CDDPによる導入療法後の維持療法として,支持療法に加えPEMとプラセボを用いた場合を比較した第III相試験(PARAMOUNT)の最終報告を行った。6サイクル以上の治療を完遂した患者はPEM群で37%,プラセボ群で18%。無作為化後のOSはPEM群で有意に延長。1年/2年生存率も改善し,維持療法の有効性を重ねて示す結果となった。

緩和ケアはどこまで進んだか

 2007年からの第1期がん対策推進基本計画に引き続き,本年からの第2期計画でも重点項目に定められた緩和ケア。シンポジウム「がん対策基本法後の緩和ケアの進歩と今後の方向性」(座長=近畿中央胸部疾患センター・所昭宏氏,帝京大・江口研二氏)では,緩和ケアの現状と今後が議論された。

 森田達也氏(聖隷三方原病院)は,07-10年に行われた大規模地域介入研究OPTIM-studyについて報告した。医療環境の異なる国内4地域で,(1)技術・知識の向上,(2)情報提供,(3)調整・連携の促進,(4)専門家による診療とケアの提供,の4点を軸に介入。研究結果から,ケア従事者の“顔の見える関係”作りと連携の改善により,既存資源を最大限活用でき,地域緩和ケアの質向上がかなうと示唆した。

 明智龍男氏(名市大大学院)は,がん患者の自殺や手術拒否に関する既存の研究から,医療者とのコミュニケーションの重要性を強調。日本サイコオンコロジー学会による“悪い知らせの伝え方”を学ぶワークショップや,登録制精神腫瘍医制度などを紹介し,「良好なコミュニケーションこそが患者のこころのケアになる」と述べた。

 丸口ミサエ氏(元国立がん研究センター中央病院)は,がん看護専門看護師,がん看護領域認定看護師数の地域格差を指摘。がん診療連携拠点病院での外来看護調査からは,心理・社会的サポートや生活面のケアの時間確保が難しい現状を示し,専門/認定看護師による患者教室や専門外来の増設で相談・支援の充実を図ることを提言した。今後の目標としては,患者の問題を適切に把握し,必要なケアにつなげる看護師の育成を掲げた。

 第2期がん対策推進基本計画に明記された「がん患者の就労支援」。高橋都氏(獨協医大)は先行研究や進行中の厚労科研から,就労に困難をかかえる患者の存在を示唆。就労・社会環境の多様さ複雑さに加え,がんのネガティブなイメージも困難の一因と推察した。治療スタッフに可能な支援としては,就労継続の推奨,相談窓口への橋渡し,治療や副作用の十分な説明,産業保健スタッフとの継続的連携,を挙げた。

 高山智子氏(国立がん研究センターがん対策情報センター)は,がん診療連携拠点病院に設置された相談支援センターの現状を報告。相談件数の増加や関連職種の多様化など成果を示した上で,地域の人々,がん患者と家族,がん経験者のそれぞれに必要なサービスを提供するには,情報・相談窓口増設と信頼性確保が要点とした。また支援への“入り口”としての機能を高めるべく,地域との連携を課題に挙げた。

 最後に患者の立場から,天野慎介氏(NPO法人グループ・ネクサス)が登壇。緩和ケアのハード面の整備は進むも,「除痛率」の向上など真に身体的苦痛が取り除けているかは不明瞭と指摘。精神的・社会的苦痛の軽減に向けた取り組みとして,“生き方を共に考える”ケアプランニングや,治療にかかわる専門職が適切なコミュニケーションを実践する必要性を訴えた。

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