医学界新聞

2012.05.14

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学 専門分野》
地域理学療法学 第3版

奈良 勲 シリーズ監修
牧田 光代,金谷 さとみ 編

《評 者》久富 ひろみ(多摩市健康福祉部高齢支援課相談支援担当)

学生,現場の理学療法士に役立つ地域理学療法の知識や技術を網羅

 超高齢社会の到来は待ったなしの状況にあり,さまざまな課題を提起している。国会では,毎日のように社会保障を持続していくために,消費税や年金問題,医療(診療報酬)や介護保険制度(介護報酬)の問題が取り上げられ,1人の高齢者を生産年齢の4人が騎馬戦のように支えていた時代から,肩車のように1人で支えなければならない社会が来ると言われている。また高齢者が増え,病院に入院することも難しくなり,最期を自宅で,という姿も増えるであろうと言われている。厚生労働省ではそのような社会を支える仕組みとして「地域包括ケアシステム」の実現に向けて,制度改正などの準備を進めている。

 われわれ理学療法士は,昭和40年に国家資格として誕生し,その当時の主な勤務先は医療機関であったが,このような社会背景の変化に伴い,その職域は地域(在宅)や予防の領域へと拡大してきている。

 いわゆる地域でのリハビリテーションの考え方は本書で紹介されているが,障がいがあっても高齢になっても,住み慣れた地域で生き生きと生活し続けられるよう支援ができる職種として, 理学療法士は大きな役割を担える専門性を有しており,社会的なニーズは高いものと考えられる。しかしながら地域で展開する理学療法を学ぼうとするとき,その基本から応用までが紹介され,知識や技術を学ぶことができる書籍は少なく,現に出版されている書籍の多くは,著者自身の地域における実践的な活動が紹介されているため,社会資源や成り立ちが異なる他地域についての内容では,応用できないことも多くある。その点,本書は地域理学療法の概念から定義,そして社会背景から始まり,関連する法規や制度を紹介し,現場で必要な知識や技術が網羅されており,理学療法を学ぶ学生の方にとどまらず,地域理学療法に関心のある方や,就職先として地域を考えていらっしゃる方が,まず勉強するときに読む本として相応しい貴重な一冊である。

 理学療法士として,これからどのような領域で仕事をしていくとしても,生活の場であり最期を過ごす場でもある地域(在宅)での理学療法を学ぶために,本書をぜひご一読いただきたい。

B5・頁304 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01224-9


UNICEF/WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい
母乳育児支援ガイド アドバンス・コース
「母乳育児成功のための10ヵ条」の推進

BFHI 2009翻訳編集委員会 訳

《評 者》中村 安秀(阪大大学院教授・国際保健学)

母乳育児がもたらす絆が世界の母子へ届きますように

 ユニセフとWHO(世界保健機関)は,「母乳育児成功のための10ヵ条」を守り母乳育児の推進に貢献している病院を,「赤ちゃんにやさしい病院(Baby-Friendly Hospital : BFH)」と認定しています。今,全世界の130か国以上で,1万5000以上の病院が認定を受けています。『赤ちゃんとお母さんにやさしい 母乳育児支援ガイド アドバンス・コース』の原典は,ユニセフとWHOのすべての教材を一つにまとめた「赤ちゃんにやさしい病院」イニシアティブ。堀内勁名誉教授(聖マリアンナ医大)をはじめ,母乳育児に積極的に取り組んできた日本を代表する小児科医師の方々が中心になり,力のこもった翻訳となっています。

 病院の責任者やスタッフのためのガイドラインや研修のためのパワーポイント・スライドまで周到に準備されています。また,「赤ちゃんにやさしい病院」の科学的根拠や行動計画作成の手引きだけでなく,母乳育児を推進することでコストが削減されることも指摘されています。

 ドイツでは,母乳育児が小児肥満の有病率を減らしました。ラテンアメリカでは,母乳育児により下痢症や急性呼吸器感染症による乳児死亡が減少しました。西アフリカのガンビアでは,「赤ちゃんにやさしい地域社会運動」にまで広がっているそうです。

うれしいことに,日本語版には,英語版にはない「乳飲み児を抱く埴輪」や授乳している日本人の母親の写真もあります。

 国や地域が違っても,母乳育児の大切さは世界共通です。途上国の病院で出会った多くの助産師や医師は,自分たちの病院が「赤ちゃんにやさしい病院」 であることを誇らしげに語ってくれました。お母さん方と一緒に母乳育児を推進していくのだという途上国の病院スタッフの心意気を,私たち日本の保健医療関係者こそ見習いたいものです。

 私が代表理事を務める特定非営利活動法人HANDSでは,ケニア西部のケリチョー県で生後6か月間の完全母乳育児を推進してきました。地域の母乳育児推進サポートメンバーが中心になった啓発活動を行い,2009年にわずか5%だった完全母乳育児率が改善されつつあります。世界母乳育児週間に合わせたイベントには,延べ900人以上の村の老若男女が参加して,いろいろなグループが劇や歌を使って母乳の大切さを訴えかけました。

 この『母乳育児支援ガイド』が,日本の病院関係者はもとより,赤ちゃんとお母さんに関心を持つ多くの人々の手元に届けられることを願っています。母子保健医療だけでなく,地域保健,国際保健,災害保健医療に関心を持つ方々にとっても,有用な情報がちりばめられています。母乳育児がもたらす絆が,母と子を結びつけ,東日本大震災の被災地のお母さんや子どもたちにつながり,そして途上国を含めたグローバル世界の女性や子どもたちのいる家庭や社会に届きますように……。

B5・頁456 定価7,980円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01212-6


《標準作業療法学 専門分野》
高次脳機能作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
能登 真一 編

《評 者》岩瀬 義昭(鹿児島大教授・基礎作業療法学)

高次脳機能障害者への支援の基礎となる良質の教科書

 15年ほど前までは,高次脳機能障害者を取り巻く社会的状況には厳しいものがあり,障害者自身だけでなく家族も支援制度の不十分さに苦しんでいた。1990年代後半から社会的支援の必要性が認識されだし,2001年度から高次脳機能障害支援モデル事業,2006年度から高次脳機能障害支援普及事業が実施された。その結果,全都道府県に支援拠点が設置されるに至った。その経緯は,高次脳機能障害支援モデル事業の中心となって活躍された中島八十一先生(国立障害者リハビリテーションセンター学院長)が所属されている日本高次脳機能障害学会の学術総会などにて,その都度発表されてきていた。

 本書は,脳卒中に対する作業療法の臨床・研究の場で活躍してきた能登真一氏の編集・著作によるものである。教育的活動の場に重心を置いてきた評者は,氏の研究に対する真摯な姿勢に学ぶことが多い。本書も氏の姿勢を反映する内容となっており,そのエッセンスは序章の「高次脳機能作業療法学を学ぶ皆さんへ」と巻末の「高次脳機能作業療法学の発展に向けて」「さらに深く学ぶために」に込められている。作業療法は対象者が生活場面で人間らしさを発揮するために援助する仕事であり,他の多くの職種と協力して働かねばならないと述べている点は,氏の作業療法士としての心根を表すものであろう。また,症状のメカニズムを学習し,さらに明らかにする必要性を述べ,新しい評価方法や治療方法の開発が後進の作業療法士の努力にかかっていると期待を述べている点は,氏の研究者・教育者としての姿勢を表している。

 本書の構成は,基礎,実践,実践事例の3部となっており,基礎,実践では前述した「高次脳機能障害」だけでなく,失語・失行・失認等の高次の脳機能障害についても著述してある。この標準作業療法学シリーズは,一般教育目標と行動目標が学習者に明示され学習の段階を踏まえやすい作りとなっているが,本書の要所々々に挿入されているコラム(能登氏の手による)は,単なる教科書としてではなく読み物としてもおもしろい。この配慮が,学習者には学びやすく,そして楽しめる内容となっている。また,実践事例は事例ごとに類似事例に対するアドバイスが付いており,学生が陥りがちな,他事例に汎化できないからといって学ぼうとしない姿勢に対する教育的な配慮がされている。一方教育者も,紹介されている事例を通して,汎化できることと汎化できないことを学習者に教えやすい構成となっている。

 学生だけでなく,教育者や臨床経験を重ねた作業療法士にもぜひ一読していただきたい本書であり,これから臨床で高次脳機能障害者に接する作業療法士にも読んでいただきたい良書である。

B5・頁280 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01390-1


産婦人科ベッドサイドマニュアル 第6版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》平松 祐司(岡山大大学院教授・産科・婦人科学)

白衣のポケットに入るコンパクトな装丁ながら豊富な内容で日常診療に役立つ名著

 このたび,青野敏博先生,苛原稔先生編集の『産婦人科ベッドサイドマニュアル(第6版)』が出版された。医学は年々進歩し,新しい検査,診断基準などが出てくるため,この種のマニュアル本も定期的に改訂されなければ実地臨床上役立たないことになる。 本書の初版は1991年の発刊であるため,20年以上にわたって定期的にup to dateな内容に改訂され愛読されていることになる。「序」によると,第6版でも31項目の大改訂が行われたと記載されている。本の歴史があるということは,不備のあった点はその都度改訂され,非常に完成度の高い書籍になっているといえる。

 最近,新医師臨床研修制度の開始にも並行し,切り口の異なる同種のいくつかの本が出版されているが,本書はその中においても最も歴史のある名著といえる。本書の全執筆陣は徳島大学関係者であり,本書は徳島大学産科婦人科学教室の臨床の歴史といっても過言ではないと思う。

 本書の特色は各疾患,検査法を見出しとして採用していることである。大きな分類としては腫瘍(27項目),内分泌(18項目),不妊(14項目),周産期(45項目),感染症(6項目),その他(4項目)の6パートに分けられ,総計114項目について解説されている。

 例えば,腫瘍の項目ではまれな腫瘍まで進行期分類が掲載され,診断から治療の実際まで図表入りでわかりやすく記載されている。また,薬剤は一般名だけでなく商品名も記載されているため,日常診療で非常に使いやすくなっている。周産期についても同様で,判断に困るような疾患の項目ではフローチャートにより,その都度関係するガイドラインをひもとかなくても対応できるよう,配慮がなされており非常に便利である。さらに,徳島大学の研究のメインテーマである内分泌,不妊の項目にも多くのページが割かれ,これらの項目はいずれも専門書に匹敵する詳しい内容がわかりやすく整理され記載されている。図表はすべて2色刷で品よく,見やすくまとめられているのも好感が持てる。

 本書は白衣のポケットに入るコンパクトな装丁でありながら,以上に述べたように実に豊富な内容が盛り込まれているため,学生の臨床実習,初期研修医,産婦人科専門医,産婦人科専門看護師,助産師あるいは他科の医師のいずれにとっても,日常診療のバイブルとして手元に置いておけば役立つ名著として推薦する。

B6変・頁592 定価6,930円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01064-1


肝臓の外科解剖 第2版
門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方

竜 崇正 編著

《評 者》山本 雅一(女子医大主任教授・消化器外科学)

肝静脈還流に基づく区域分類が新たな肝切除の地平をひらく

 『肝臓の外科解剖――門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方 第2版』が発刊された。初版より7年が経過したが,その内容の充実ぶりには目を見張るものがある。

 初版の序には,肝区域の考え方の変遷が記載されている。肝区域はこれまでさまざまな分類がなされているが, どれも不十分なものであった。特に「肝癌取扱い規約」の区域・亜区域分類は,実は解剖学的門脈分岐に沿ったものではなく,このため多くの誤解が生じた。また,著者らが主張しているように,肝内門脈分岐は決してCouinaud区域分類と一致していない。実際の門脈分岐形態に沿った新しい区域分類が提唱されるのは,3D画像の進歩を見ると当然なことと考えられる。

 肝の門脈分岐を左右対称で考えると,4本の主門脈により4つのsectorと7つの区域に分類できるとしている。左paramedian vein(門脈臍部)がP3とP4に分岐するように,右paramedian vein(前区域門脈)が頭側と尾側ではなく,腹側と背側に分かれているとした。これらの門脈により還流される領域を腹側区域,背側区域とし,腹側・背側区域の境界にはanterior fissure vein(AFV)の走行がみられている。また,AFV部で肝を離断することで,肝右側門脈3次分枝にアプローチ可能であることを示した。幕内雅敏らの,超音波ガイド下に3次分枝門脈を同定する方法とは全く異なるアプローチで,肝内グリソン鞘(門脈)に到達が可能となった。このアプローチは1980年代中ごろより,高崎健が施行してきた肝門経由グリソン鞘アプローチと同様と考えられる。これらの手術方法は,肝門部,さらには肝内グリソン鞘アプローチによる肝切除であり,日本を中心に発展してきたが,最近では海外でもこのアプローチの簡便性,重要性が認められつつある。

 このアプローチについて,本書序には,「術中エコーを必須としない新たな肝臓外科の時代」という言葉で表現されている。さらに著者らは,肝静脈還流と新しい区域分類の整合性についても述べている。著者らの説明で,肝内門脈分岐,肝静脈還流を重視した肝切除が可能となった。新しい区域分類の概念を頭に置き肝切除を施行することで,肝切除がさらに簡単に,安全に施行できるようになったと考える。

 ワークステーションによる細密な門脈像と,肝切除イラストレーションは見飽きることはなく,手術時の臨場感を味わいながらページをめくることができる。また,所々に新しいトピックスが含まれており,肝臓外科の知識の整理に役立つよう工夫されている。

 本書は肝臓外科医のバイブルとして手元に置きたい本であるが,肝胆膵高度技能専門医をめざす医師はもとより,肝胆道系の画像診断に携わる医師にもぜひ手に取って見ていただきたい良書である。

A4・頁240 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01421-2


WHOをゆく
感染症との闘いを超えて

尾身 茂 著

《評 者》押谷 仁(東北大大学院教授・微生物学)

本書を手にして,国際社会に羽ばたいて

 著者の尾身茂先生は2009年に帰国されるまで,20年間近くにわたり世界保健機関(WHO)の西太平洋事務局(WPRO)で活躍されてきた。前半は感染症の対策官としてポリオ根絶などの課題に取り組み,後半の10年間はWPROの地域事務局長として西太平洋地域の保健・衛生全体の責任者としてSARS(重症急性呼吸器症候群)への対応などでリーダーシップを発揮された。そのWHO勤務の間に経験した,ポリオ・結核・SARS・鳥インフルエンザなどの対策に当たった経験をまとめたものが『WHOをゆく――感染症との闘いを超えて』である。

 2003年のSARSの流行でも明らかになったように,21世紀の感染症対策にはグローバルな視点からの対応が必要である。しかし国際的な感染症対策の現場には多くの困難がある。本書ではそのような困難な現場で,尾身先生がいかにして一つ一つ問題を解決し道を切り拓いてきたかが,いくつかのエピソードを交えながらダイナミックに描かれている。またWHOでの感染症対策だけでなく,尾身先生が日本に帰国してすぐに発生した2009年の新型インフルエンザに,国の諮問委員会の委員長として対応に当たった際の出来事や,東日本大震災への支援についても述べられている。さらには,日本の社会の根底にある問題を見据えて,日本の医療や地域の公衆衛生のあるべき姿についても多くの示唆に富む提言がなされている。

 尾身先生は国際社会でリーダーとして活躍してきた数少ない日本人の一人である。最近の日本人は内向き志向と言われる。しかし,日本の経済的な存在感が薄れていく中で,保健・医療の分野でもっと多くの日本人が国際社会に出て行って積極的な貢献をしていくことが,日本という国の存在感を維持するためにも必要である。多くの医療関係者,特にこれからの保健・医療を担う学生たちが本書を手にして,国際社会に羽ばたいていくきっかけになればと思う。

A5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01427-4


今日の救急治療指針 第2版

前川 和彦,相川 直樹 監修
杉本 壽,堀 進悟,行岡 哲男,山田 至康,坂本 哲也 編

《評 者》丸藤 哲(北大大学院教授・救急医学)

全国の救急初療室に『今日の救急治療指針』の常備を

 前川和彦・相川直樹監修,杉本壽ら編集の『今日の救急治療指針第2版』が上梓されました。本書はわが国で久しく親しまれてきた,医学書院の『今日の治療指針』各科版の一つとして企画された救急医療分野の治療指針です。初版は1996年に出版されましたが,その後の十数年においてわが国の救急医療を取り巻く環境の変化は,激変の文字で表現することができるでしょう。卒後臨床研修の義務化に伴い初期臨床研修で必修化された救急医療の実践と,国民の医療への要求が変化し,救急診療という名の時間外診療患者の増加に,救急医療体制の整備が追いつかない実態が最近明瞭になってきました。この結果,救命救急センターあるいは救急科に所属する救急科専門医以外の一般内科・外科医師らが救急患者の診察を行わざるを得ない状況が常態化し,医師のみならず医療全体の疲弊を招いています。これらの変化を十分に認識し,その環境変化に対応可能な形で編集された本書は現在の救急医療の現場に必須の知識を提供しています。

 救急医療の第一線で活躍している執筆陣による救急に特化した治療指針である本書は,若手救急科医師のみならず救急初期診療を担当する研修医,一般内科・外科医師などが利用することを想定して編集されています。対象患者に常に不確実性が伴う救急初期診療では,治療を進めつつ症状・症候から鑑別すべき病態・疾患を挙げて診断を行う,治療と診断の同時進行を余儀なくされる場面を多く経験します。本書はこの特徴を理解し,最初に症状・兆候からのアプローチを掲げ,診断のついた疾患・病態の治療が詳述される心憎い編集方針です。さらに,救急初期診療で遭遇するほぼすべての病態・疾患を網羅し,その緊急度と重症度を重視して編集されているのみならず,初期対応,重症度の見分け方,入院判断基準など,まさに救急の現場ですぐに役立つ知識が満載されています。心肺停止症例に対する一次・二次救命救急処置は2010年に国際的に大幅な改訂が行われましたが,本書は処置内容を単純なアルゴリズムで示しつつすべての医療従事者が理解しやすい平易な文章で最新の救命処置を解説しています。また,迅速性が要求される救急初期診療では,救急医薬品の使用方法を速やかに調べる必要がありますが,付録として救急医薬品の適応,使用方法,作用・副作用・注意が見やすい一覧表として掲載されていることも特徴の一つでしょう。

 『今日の救急治療指針』は,救急にかかわるすべての医師必携の書です。全国の救急初療室に本書を常備することを推薦いたします。

A5・頁984 定価13,650円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01218-8


網膜硝子体手術SOS
トラブルとその対策

RETINAの会 監修
喜多 美穂里 編

《評 者》本田 孔士(京大名誉教授/大阪赤十字病院名誉院長)

代表的なトラブルへの対策を簡潔,明快に示した手術実用書

 「網膜硝子体手術」を遂行するときに遭遇するトラブルを約50項目に分類し,それぞれへの対策を実に簡潔,明快に示した手術実用書である。この中には,代表的(かつほとんどすべての)トラブルが取り上げられており,現在行われている標準的な対策はすべて書かれている。したがって,この分野にかかわる者すべてが一度は通読しておくべき書物である。また,トラブルに遭遇したとき,反省を込めて,適時,振り返りながら拾い読みしたい本でもある。いずれにせよこの分野で術者たらんとする者は,座右に必須で備えるべき書物であるに違いない。取り上げられているトラブル項目のネーミングも実際的,具体的でわかりやすく,随所に,写真だけでなくスケッチが添えられているのが非常に理解を助けている。

 編集の妙として,主執筆者のシャドウのごとく,経験豊富なほかの識者がコメント(この本では「アドバイス」と命名してある)を寄せており,それが記載内容に一段と深みを増し,対策を立体化している。両者がインディペンデントの立場から発言しているから,考え方が微妙に違っているのが非常に面白い。アドバイス側にこそ対策の本質が見える項目もあり,両者の記載には軽重を付け難い。

 手術は網羅的な教科書を何度読んでも進歩しない。実際の症例,それも先人の失敗に学びながら上達するものである。その意味で,手術は典型的な経験学であり,実践学である。

 例えば,良質の過去問,例題を数多く解くことが入試問題の解答につながるように,手術は多くの実例に学びながら上達するものである。しかも,失敗例の蓄積にこそ,先人の本音の体験記にこそ,学ぶべきものが多いのである。円滑な手術はいくら見てもあまり勉強にならないものである。

 筆者の経験から一つ注文を付ければ,交感性眼炎についても記載してほしかった。手術といえども外傷に違いなく,何千例の手術症例中には,非常にまれではあるが,非手術眼の炎症に遭遇することがある。ほとんどの術者が経験せずに一生を過ごすのであるが,不注意だと見逃す。

 手術はしっかりした指導者の下で,体系だった教育を受けて学ぶべきものであるが,まれな事項,特にトラブルは,自験例が有限であることから,書物から学ぶしかない。編者が序文で述べているように,現在は情報が共有されやすい時代である。ビデオも情報交換の手段に違いないが,術中,術後のトラブルについて,自分と異なった環境で上達した術者の経験を,書物を通してではあるが,じっくりと読んで自己反省し,また,将来遭遇するかもしれない事態に備えたい。上級の術者は,ここにある記載内容を批判的に読まれるかもしれないが,それはそれで意味のあることではないか。

 本の構成として,最後に索引が設けてあるのも,経験の浅い術者が,手術場で思わぬトラブルに遭遇して動転したときに役立つかも知れず,親切である。

A4・頁264 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01417-5


帰してはいけない外来患者

前野 哲博,松村 真司 編

《評 者》大橋 博樹(多摩ファミリークリニック院長)

外来診療で前に進める羅針盤のような書籍

 私が初期研修を行った武蔵野赤十字病院の救急外来には1冊のノートが置かれていた。そこには研修医たちが各々の救急外来当直で経験したちょっとした診療のコツや,変わった風貌の患者さんのこと,そして信頼できる仲間にだから言える失敗談などが赤裸々に書いてあった。もちろん,そのころから「○○マニュアル」と呼ばれる救急外来で用いるツールはあったが,正直どれも「理想的な検査や治療」が書かれているものが多く,いつのまにか白衣のポケットの中で擦り切れていたのを覚えている。やはり,現場で最も使えるのは同じ仲間・同じ悩みを持った人たちが書いている診療のポイント集であり,つまずきやすい場所もあえて記載してあるのが,妙に親近感がわくのである。

 本書を初めて手にしたとき,あのときのノートの印象がよみがえった。

 編集は,プライマリ・ケア教育の第一人者前野哲博先生,そして数多くの著書があり若手家庭医からの人望も集める,開業医の松村真司先生である。執筆陣をみると,現場の第一線で活躍している若手指導医が中心となっている。これは,今までのマニュアルとはちょっと違うようだ。

 まず第1章を開いてみると,外来で使えるgeneral ruleについて総論的に述べている。とかく臨床決断というと,尤度比だったり陽性的中率だったり,EBM的な発想の記述が多いが,本書では決断を規定する4つの因子を,「急ぐか」「ヤバイか」「ありえるか」「予後を変えうるか」で規定している。そうそう,救急外来で迷ったときに,私もこうやって考えていたなあ,となんだか読んでいてワクワクする内容だ。そして,本書の素晴らしいのは今までなんとなく指導医も行ってきた臨床決断のアプローチをきちっと言語化していることである。第1章は若手医師だけでなく,指導医クラスの医師にもぜひ一読をお勧めしたい。

 第2章は「症候別general rule」と題して,全身倦怠感や咽頭痛,めまいなど,よくある症候を2ページの見開きで解説している。今までのこの分野の書物では,「これは危険」「これも危険」といった,見逃してはいけないポイントを次々と紹介して,かえってどこまで検査をすればよいのだろうかという混乱を招いたものも多かった。『帰してはいけない外来患者』という題名からすると,この本も……と初めは考えたが,そこは違っていた。この本には帰してはいけない患者の見分け方とともに,「これは安心」という項目があるのだ。例えば「呼吸不全がなく緩徐に発症した全身性浮腫は,外来精査が可能」とある。ともすると異論を唱える人もいるかもしれないが,これは若手医師が,まず経験するためのgeneral ruleである。このひと言が外来診療でまさに前に進める羅針盤となるのだ。そして,最後にgeneral ruleとして,忘れてはならないポイントが簡潔に記してある。「頸部に圧痛のある咽頭痛は要注意!」。確かに,私も咽頭間隙膿瘍を見逃したことが……。

 第3章では「ケースブック」と題して,研修医と指導医の外来でのディスカッションを通して診断に行き着く過程を記している。私も以前に編者である前野先生のカンファレンスに参加したことがあるが,自由な雰囲気で間違いを恐れずなんでも話せる環境での指導に大変感銘した。本書でもそのエッセンスが見事に表現されている。まえがきにもあるが,日本の医学教育における外来教育の質と量は明らかに不十分である。その原因には,自らが外来教育を受けたことがない指導医が外来指導を行うため,何を指導してよいかわからないという側面もある。ぜひとも第3章は悩める指導医にも読んでもらいたい。

 本書は,若手医師から現場の指導医まで,それぞれの立場で活用できる貴重な一冊である。擦り切れるまで読んでもらうことで,外来診療の向上,そして外来教育の向上につながることは間違いない。まさに「買わなければいけない外来教科書」である。

A5・頁228 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01494-6


内科ポケットレファランス
Pocket Medicine : The Massachusetts General Hospital Handbook of Internal Medicine, 4th Edition

福井 次矢 監訳

《評 者》岩田 健太郎(神戸大大学院教授・感染治療学)

デイリー・プラクティスに合致した実際的な内容をまとめた良書

 ぼくが学生のころは,ポケットレファランスといえば「ワシントンマニュアル(Washington Manual)」のことだった。ネット時代以前にどういうきっかけで知ったのかは思い出せないが,医学生のぼくは「ワシントンマニュアル」を買ってあれを読破することを自分に課した。冷静になって考えてみると,あのような「備忘録」的な本は学生向きではなく,むしろ現場に出た研修医こそが読むべきものだったのだが,「書物にはそれにふさわしい読者がいる」という事実にすら気がついていなかったぼくは背伸びをしてずいぶん無駄な勉強を重ねていた。

 1998年に渡米して内科研修医になった後,「ワシントンマニュアル」は仲良き友となった。入院のオーダー書き,ベンゾジアゼピンをリバースする方法,高カルシウム血症の鑑別疾患など,初期研修医が目の前でこなすべき問題の解決法はたいてい「ワシマニュ」に載っていた。当時の内科研修医は,「ワシマニュ」派,「スカット・モンキーハンドブック(Clinician<02bc>s Pocket Reference)」派,Ferri派(Practical Guide to the Care of the Medical Patient)に大きく分かれていたと記憶する。これに薬の本や「サンフォード感染症治療ガイド(Sanford Guide)」,「タラスコン(Tarascon)」のICUや救急のアンチョコ,打腱器,聴診器,その他の道具類でポケットをパンパンにし,つらい肩こりに耐えるのが研修医の「たしなみ」だったのである。当時,すでにPalm Pilot系のPDA(personal digital assistant,まだ電話機能はなし)は存在したが,医療情報のリソースとしては不十分でスケジュール管理に毛が生えた程度の機能しかなかった。

 「ワシマニュ」はよかったんだけど,今から思うと字が多くて読みにくいきらいはあるし,あのスパイラルがポケットに引っかかってうっとうしかった(スパイラルでないバージョンもあったと思うが)。

 中国での診療所生活を終え,2004年に日本に帰る。亀田総合病院の研修医がかっこいい赤い本をポケットに入れている。なんだろう?これが「Pocket Medicine」(当時第2版)であった。ポケットに簡単に入る。文章が短く,クリスピーで読みやすい。こりゃ,ぶっちゃけ「ワシマニュ」よりよいぞ,とぼくは思ってすぐ購入したものだ。

 現在「Pocket Medicine」は版を重ね,緑色になっている。本書は優秀なハーヴァード系のレジデントやフェロー(初期・後期研修医)たちがまとめたもので,自分たちのデイリー・プラクティスに合致した実に実際的な内容「だけ」をまとめている。「ワシマニュ」をぎゅっと一回り濃縮させたような印象がある。

 この本も日本語版があればなあ,なんて思っていたら,この度,聖路加国際病院の内科レジデントたちが日本語版を作ってくださった。原書の取り柄であるポケットに入る小振りなスタイルを残し,箇条書きとアルゴリズム,図表が多くて実にプラクティカルだ。シニアなドクターたちには小さすぎる(であろう)字も若き研修医たちにはちょうどよかろう。情報の元ネタになる文献もきちんと添付されているので,さらに勉強したい研修医にももってこいだ。

 PDA⇒スマートフォンの発達で,研修医たちは手元に膨大な情報量を手にすることが可能になった。ぼくのiPhoneには教科書レベルのアプリがたくさん入っているし,ネットにつながっていればとことん情報収集できる。ただ,忙しい診療時に「ちょこっと」開くことのできるこの手の紙媒介の良さは変わらず残る。慣れてくると「どのへんを開けばよいか」分かってくるので,トポロジー的にスマートフォンより速いのである(ページを折ってドッグイアを作るとなお速い)。

 紙媒介のレファレンス1冊とスマートフォンだけをポケットに入れ,昔よりもずいぶん軽快に病棟を闊歩する研修医たちに,ぜひ本書をお薦めしたい。

(岩田健太郎先生のブログより転載)

B6変型・頁284 定価4,200円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

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