WONCA 前会長・Chris van Weel 氏講演会開催
2012.04.09
家庭医の"世界標準"を学ぶ
WONCA前会長・Chris van Weel氏講演会開催
「世界の家庭医療の現状と日本の若手医師・学生への期待」をテーマとした講演会が3月7日,横浜市健康福祉総合センターホール(横浜市)にて開催された。本講演会は,世界家庭医機構(WONCA)の前会長を務めたChris van Weel氏(オランダRadboud大)の来日を機に企画されたもの。氏はプライマリ・ケア研究の第一人者として知られ,質の高い研究を実践できる優秀な家庭医・研究者を育ててきた。
厚労省「専門医の在り方に関する検討会」でも家庭医について議論されるなど,近年わが国でも関心が高まるなか,家庭医療先進国とされる国々ではどのような医療が行われているのだろうか。
◆家庭医が今なぜ求められているのか
Van Weel氏 |
井伊氏は医療経済学の観点から,現在国会で進められている社会保障と税の一体改革とその問題点を概説。質の高いプライマリ・ケアの提供体制整備を進める世界の潮流に反し,日本における議論は病院改革が主であり,急性期病院の受け皿となる在宅医療に関するさらなる具体的な議論が必要と述べた。
続いて氏は,医療費の55%を65歳以上が占める現状について,複数の健康上の問題を抱える高齢者が各症状に応じて専門医療を受けていることが問題とした。さらに,高齢者に必要な医療とは,心筋梗塞や脳梗塞,糖尿病などの予防,疾患発症後のリハビリテーション,がんの手術後のフォローアップなどであり,こうした医療を担うプライマリ・ケア医が必要と強調。General practitionerを基盤とした"低い医療費で質の高い医療"をめざすオランダや英国から学ぶ重要性を示唆した。
葛西氏は,家庭医,各科専門医はどちらも必要であり,地域包括ケアシステムのなかで両者が協働することの重要性を強調した。また氏はオランダの家庭医療について紹介。同国の家庭医療学会によるプライマリ・ケア領域の臨床研究の推進が家庭医療の発展に寄与してきたと述べた。医療の90%以上を家庭医が担う同国では,医療の質を標準化して高い水準を維持することを目的に,プライマリ・ケア領域における臨床研究を基にした診療ガイドラインの作成が1980年代より進められてきた。現在は患者の症状からたどることのできる90もの診療ガイドラインが整備されているという。
氏は,臨床研究の推進を支えたのは,家庭医が扱った疾患や問題を過去40年にわたり蓄積したデータベースであり,それらがプライマリ・ケアの"見える化"を促進したと言及。さらに,家庭医が地域で起きている問題を題材に臨床研究を行い,学位を取得できる教育・支援体制が整っていることも,同国の臨床研究を基盤としたプライマリ・ケアを実現させているとし,日本でも同様の仕組みづくりの必要性を説いた。
◆プライマリ・ケアをいかに推進するか
Van Weel氏は,これまで行われてきたプライマリ・ケア領域における研究によるエビデンスを示しながら,家庭医の役割と機能,これからめざすべき保健医療の在り方を示した。氏はこれまで,「家庭医による診療は,各科専門医による診療と比較し質が低い」ととらえられてきたことについて,疾患特異的指標からの見方に過ぎないとの疑義を提示。病院における医療が疾患の治療を目的とするのに対し,家庭医療は人々の健康を正常な状態に保つために疾患の予防に努め,さらに必要があれば家族・家庭に焦点を当てるなど患者を包括的かつ継続的にケアすることが目的となるため,その成果は別の基準で評価されるべきと話した。その上で,幅広い専門性を持つジェネラリストと深い専門性を持つ各科専門医の関係性について言及し,専門医がいなければ表面的な保健医療に,またジェネラリストがいなければリーダー不在の保健医療になると述べた。
さらに氏は,プライマリ・ケアが今後さらに発展していくためには,これまで独自の資源として発展してきた"診療で得た経験知"と"研究から得た知識"を結び付け,その成果を地域社会のために生かしていくことが不可欠とした。
*
Van Weel氏による講演会はこのほか東京医歯大,順大でも開催され,家庭医療やプライマリ・ケアに興味を持つ多くの参加者を集めた。東京医歯大での講演会を行った同大の田中雄二郎氏は,「プライマリ・ケアや地域医療,あるいは医療制度に関心を持つ学生が年々増加するなかで,日本と諸外国を対比させながら医療の在り方を考えるよい機会となった」と述べるとともに,「日本で家庭医療を推進するのであれば,プライマリ・ケアを担う医師の再教育プログラムや,彼らの研究活動を促進する資金面も含めた支援体制が必要」との見解を示した。
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