いろいろなチューブ(2)(川島篤志)
連載
2011.12.12
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第15回】いろいろなチューブ(2)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
「いろいろなチューブ」の小テスト2回目です。がんばりましょう!
CVC
(6)手や足の末梢静脈からの点滴に対して,首や大腿静脈(鼠径部)から確保される点滴ルートを「中心静脈カテーテル」といいます。略語としては,「CVC」「CV」「CVカテーテル」「CVカテ」このあたりの表現がよいのではないでしょうか。日本の医療界では慣習的に「IVH」と呼ばれてきたと思いますが,もはや英語圏では「IVH」という呼び方はされないともいわれています。
一方TPNは「中心静脈栄養」,つまりCVC経由で静脈栄養を行うことを指します。皆さんの施設では,どのような略語表記がなされていますか? NST(栄養サポートチーム)やICT(感染対策チーム),医療安全管理部門がきちんと機能していると,統一した言葉が浸透してくるのではないかと思います。
とはいえ「IVH」を使っているベテランに「それってCVCのことですか?」と尋ねたりすると,場の雰囲気が乱れることは賢明な皆さんならわかりますよね。ただ「CVCについて……?」と尋ねられて,ベテランナースや医師が「IVHです!」と答えてしまうのは,ちょっと恥ずかしいかもしれません。誤った知識を自認できていない上級スタッフは,医師でも看護師でも,その後の説得力に欠けてしまうので注意が必要です。次回に述べる「マーゲンチューブ」や,今回は言及しませんが「ムンテラ」という言葉の扱いでも同様でしょう。
末梢点滴
(7)CDC(米国疾病予防管理センター)の感染対策ガイドラインでは,末梢静脈の留置針は72時間ごとの交換が推奨されています。皆さんの施設のICTはどのようなスタンスをとっていますか? ルート留置が難しい患者さんや,患者さん自身の希望などにより,例外をつくるローカルルールがありそうです。また,末梢血管は誰が確保していますか? デリケートな話題かもしれませんが,"全例医師"というのは,現在の医療現場にはそぐわないのではないかと思っています。
ルートが取りにくい高齢者に,比較的高カロリーな(糖濃度が高い)輸液を投与した際,血管炎を起こして再留置が難しくなることはありませんか? 例えば,意思疎通困難かつADLが低下した,ある程度不可逆(もしくは再燃必発)の疾患を抱えた患者さんが急性期病院に入院してきたらどう治療をすべきか,判断が難しい気がします。NSTの観点からは末梢静脈からでも栄養が入れられるかもしれませんが,血管(自己抜去という問題も)やコストの問題(通常の補液と比較してアミノ酸含有の輸液や脂肪製剤は高コスト)があります。施設におけるNSTの視点・臨床倫理の視点・コスト意識の視点などが熟成されていないと,なかなか判断が難しいと思います。
特に臨床倫理においては,担癌状態の患者さんに関する議論はかなり充実してきていると思いますが,日常でよく遭遇する非担癌患者さんの終末期医療の議論は,患者さんや家族,行政も含めた多角的な視点で,本腰を入れて検討していかなければ,現場が追いつかないと感じます。
施設によっては,血管炎を起こしやすい薬剤では単独ルートや中心静脈ルートが確保されているかもしれませんね。当院では,ニカルジピン(点滴の降圧薬:Ca拮抗薬)やフェニトイン注(抗てんかん薬)などが,使用頻度と遭遇頻度が高い印象です。
さて,通常の維持輸液500mLには,カロリーが80kcalほどしか含まれていません。これはカロリーメイト®1本分にも満たず,冗談半分に"カレー煎餅2枚分"と表現するときもあります。日本では「点滴=栄養がある,早く治る」という認識が根強くありますが,「点滴を打ってほしい」という気軽な要望にどれほど医療費がかかるものか,理解していない方もまだまだ多くいます。「急性胃腸炎や熱中症などで脱水となるも,嘔気・嘔吐のために水分摂取不可」という場合ならともかく,水分を摂取できる人への点滴にどの程度価値があり,どの程度コストがかかるのか,患者さん,もしくは医療費を負担している国民の立場から見直す時期に来ているように思います。"医師-患者関係を円滑にするための補液"では済まされない時代……ではないでしょうか?
(8)どんなデバイスでも,その刺入部の炎症所見の観察は必要です。ただ,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)での感染ルートを考えると,刺入部に炎症がないことも十分にあり得ます。発熱があった場合,他の発熱源の検索とともに,血液培養の採取を検討するとよいかもしれません。CVC挿入時の血液培養の取り方は,CDCガイドラインなどを参考に,主治医の意見,施設(ICT)の方針があると思いますので,確認してみてください。当院では「末梢から血液培養を2セット,抜去時にカテーテル先の培養提出」が主流のようです。
また,医師としては常に悩むところではあるのですが,"不要になればすぐ抜去"ということを常に念頭に置く必要性があります。「明日の朝,抜去しよう!」と決めて,翌朝,夜間に高熱が出ていたことを知る……という経験のある医師も少なくないはずです。
写真 CVC合同シミュレーションのもよう |
上記のようなこと以外にも,CVCのデバイス選定やエコーガイド下手技については医療材料が関連しますし,研修医・専攻医がかかわれば,研修管理にも関連してきます。前述のようにNSTや臨床倫理もかかわる場合があります。施設全体での議論が必要となる,大きな問題だと感じています。
(9)CVCに限らず,三方活栓の扱いには注意が必要ですね。アルコール綿は,感染管理の観点から単包型を採用する施設が大多数かと思いますが,そのアルコール綿を"不潔な"手で取り,その手が触れた面で活栓の消毒を行えば,それは汚れを擦りつけたのと同じことになるかもしれません(実際の講義では,わざと手を汚して実演してみせています)。三方活栓を使わない一体型の輸液ラインが感染管理上は望ましいですが,現時点でどれくらい浸透しているのか,定かではありません。
脂肪製剤の投与は栄養管理的にはポイントだとは思いますが,三方活栓からの投与では感染のリスク上昇が危惧されます。かといって,重症例や浮腫が強い患者さんでは末梢ルートが確保できないこともそれなりの頻度で起こります。なかなか難しいですね。
(つづく)
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