医学界新聞

寄稿

2011.09.12

投稿

米国総合内科学会へのチャレンジのすすめ
ポスター発表を経験して

森川大樹(手稲渓仁会病院研修部2年)


 私は2011年5月4-7日の4日間,米国のアリゾナ州フェニックスで開催された第34回米国総合内科学会(Society of General Internal Medicine ; SGIM)の年次総会に参加し,研修1年目に経験した症例のポスター発表を行いました。当院としては,発表での年次総会への参加は第31回,第33回に続き3度目となります。今回は研修医2年目の私と,岡田厚先生(研修医3年目),小林真之先生(研修医3年目),船越智洋先生(当院OB,現Beth Israel Medical centerレジデント),Simi Padival先生(当院常駐米国医師),計5人での参加となりました。

 国際的な学会であり,さらにプログラムのなかでもアテンディング,レジデント,医学生,それぞれの間で相互に交流が図られており,国内の学会発表とはまた一味違った大変有益な経験をすることができたため,その内容を報告します。

聴衆も参加できるinteractiveなセッション

 SGIMには,米国内のすべての医学部附属病院および主要な教育病院において,プライマリ・ケアを専門とする約3000人の内科医が所属しています。医学生,レジデント,フェローに対して成人プライマリ・ケアの教育が行われ,さらに研究,予防医学,患者への治療サービスに関する教育も実施されています。年次総会も今年で34回目を迎える,歴史ある団体です。

 年次総会は毎年,主に米国内の都市で開催されており,医学生やレジデントも多く参加しています。7時半から20時ごろまでスケジュールが組まれており,同じ時間帯に複数の部屋で,数十のセッションが同時に行われていました。年次総会では研究の成果が発表されるだけでなく,教育に主眼を置いたセッションも多数開催されます。本年も,最新の研究報告や疾病に関するレクチャーのみならず,臨床医学教育の向上に関するセッションや,学生やレジデント向けに履歴書の書き方や論文の雑誌への掲載方法等をレクチャーするセッションも開かれていました。

 なかでも面白かったのは"Unknown Vignette"というセッションでした。これは,プレゼンターが用意した症例について,総合内科のアテンディングが現病歴から身体所見,検査へと順次質問を重ね,鑑別を絞り込んで最終的に診断へと至る過程を公開するものでした。事前情報はまったく与えられていない状態で,アテンディングは,プレゼンターの提示する現病歴や主訴,検査データを基に考えられる病態や逆に除外される病態などを説明していきます。聴衆にも,必要とされる検査や鑑別疾患について質問しながら進めていく,interactiveな形式でした。鑑別に至るまでのアテンディングの思考の鮮やかさが,非常に刺激的で勉強になりました。船越先生は,このセッションでプレゼンターを務め「Haemophilus influenzae敗血症による胸鎖関節炎」の症例発表を行いました。

ディスカッションのなかから新たな発見も

 ポスターセッションでは,150枚ほどのポスターが広い部屋に専門領域ごとに貼られています。セッションの時間は1時間半で,その間基本的に発表者はポスターの前に立ち,閲覧者に対して症例のAbstractやわかりにくい点を説明したり,質疑応答やディスカッションを行ったりします。私と岡田先生は1枚の発表でしたが,小林先生は2枚のポスター発表を同時に行っていました。

 私は"A case of Lady Windermere Syndrome"という非定型抗酸菌症例を発表しました。会場からは,症例の内容に関する質問のほか,似たようなケースを経験した人からの意見や,最新の治療や治療期間についての質問もありました。ディスカッションのなかで新たな発見もあり,私自身も勉強になりました。

ポスター発表への道

 ポスター発表に至るまでの経緯を,参考までに紹介します。

 まず適当な症例を決め,それに関する文献検索を行いました。その上で「Learning Object」と「Discussion」を考え,発表に値するものか検討します。その結果発表に値するものと判断すれば症例をまとめ,「Abstract」を作ります。Abstractは大まかに言うと,Learning Object,症例の内容,Discussionから構成されています。

 完成した段階でAbstractをSGIMへ提出します。結果は約1か月後に通知され,採用されればポスター製作にかかり,発表に備えます。Padival先生によるネイティブチェックや内容についてのアドバイスを受けながら準備を進めていきました。

 英語力は,ポスターの内容を説明でき,質問に答えられる程度あれば十分です。1-2人の閲覧者への説明が多いため,質問のなかでわからない部分は聞き返せます。また,口頭発表のような時間の制約もなく,ゆっくりでもしっかり伝えられればよいため,恐れることはありません。Abstractを用意し,想定問答でイメージトレーニングを行うことで,英語力の大部分を補えます。

 採用のポイントは,Teaching pointが明確であることだと私は考えています。まれなケースである必要はなく,ケースを通して伝えたいメッセージがはっきりしていることが重要だと思います。Specificなテーマよりbroadなテーマのほうが,応用の幅も広がり,興味を持つ人の数も増えるので,望ましいでしょう。また,ポスターが人の目を引きやすいものであることが大事です。タイトルがインパクトのあるものであったり,カラーやレイアウトを工夫し,写真や図を交えて見やすくすることがポイントとなると思います。私自身,こうしたことに注意して作成に当たりました。

筆者の発表したポスター。見やすいレイアウトを心がけた。

Challenge SGIM!

 今回海外の学会に参加させていただき,セッションも非常にinteractiveな形式で進められているため大いに勉強になり,また刺激を受けました。発表を通じても,非常に貴重な経験をすることができました。こうした海外の学会への参加や学会発表は,海外留学を考えている人にとってはもちろん有益ですし,それ以外の人にとっても,国際的な視点や広い視野を得る意味で非常に有益な機会であると感じました。

 ポスター発表は口頭発表に比べると取り組みやすいものではあるので,これまで学会発表をしたことのない医学生や研修医も,どんどんチャレンジする価値があると思います。また国内で学会発表の経験がある方にとっても,新たに得るものがある有意義な機会だと思います。

 次回,第35回SGIM年次総会は2012年5月9-12日の4日間,フロリダ州オーランドの"Walt Disney World Swan and Dolphin Resort"で開かれます。医学生や研修医もぜひ,この機会にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

※SGIMの詳細は,学会HPを参照してください。


森川大樹氏(写真左から二人目)
2010年東海大医学部卒。学生時代にニューヨークの医学部に留学した際,総合内科のチームで3か月間,現地の学生と同様の実習を行った。そのときに経験した総合内科の役割やアテンディングがロールモデルとして印象に残り,総合内科医をめざしている。写真は左から,今回ともに参加した船越氏,(森川氏),小林氏,岡田氏,Padival氏。

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