医学界新聞

連載

2011.05.30

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第8回】循環・呼吸(4)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

呼吸

(15)「吸気」で連続性の音(    )が,中枢で聴こえたら?

(16)肺炎のクラックルズは一般に音の質が    音から    音に変わり,聴取できる吸気のPhaseも    なる。"聴診の限界"には,    が十分ではない,    聴くことができない,    化しがたいことがある

(17)Rattleとは何ですか?(参考:Death rattle=死前喘鳴)

★あなたの理解度は? RIMEモデルでチェック!

 R   +I   +M   +E   =100
 Reporter(報告できる)/Interpreter(解釈できる)/Manager(対応できる)/Educator(教育できる)

※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

 循環・呼吸領域は「聴診」が絡んでいるため少し長くなっています。異論もあるかもしれませんが,一内科医の意見にもう少しお付き合いいただければ幸いです。

呼吸

(15)この音はStridor(ストライダー)と言われ,これが聴こえたときには緊急性疾患を疑います。病棟で診る可能性があるのは,気道異物,アナフィラキシー,気管挿管チューブ抜管後(声門浮腫)によるものです。救急室では上記に加え,急性喉頭蓋炎の可能性を考える必要があります(受付から診察までの間に見つけた場合は大変です!)。特に,前傾姿勢を保っている(=気道確保している),唾液が飲み込めずに口から流れている(=痛くて飲めない)状態は,本当に緊急事態ですよ。

(16)さて,前回(2925号)問(12)に出てきたCrackles(クラックルズ)について,もう少し詳しくお話しします。

 吸気のクラックルズは,病態を意識して4つのPhase(時相)に分ける場合があります。ただ,医師でもそこまで意識して使い分けている方は少数派でしょう(統計はありませんが,臨床現場や講演での反応からの実感です)。4つというのは,ealry(吸気初期),early to mid(吸気初期-中期),late(吸気終末期),pan(全吸気)で,それぞれある病態を反映しているとされます(文献12)。ただ若手医師にはまず,late/panの2つをしっかり意識するように指導しており,看護師の方々にも,この2つのみをイメージしてもらえたらと思います()。多くの身体診察関連の成書でも,主に言及されているのはlate/panです。

 吸気のlate/pan crackles
 (1)→(2)→(3)と変化する。(2)・(3)と(4)とは異なることにも注意(イメージ図:詳細は成書を参照)

 またこれに関連して,音の大きさ(質)も重要になります。

 理解しやすいところから始めると,間質性肺炎(特に肺線維症)の蜂窩肺(CTで蜂の巣のような変化のある部分)では,乾いた感じの細かい,吸気終末にかけて大きくなる音が聴こえます。これが,Late inspiratory fine crackles(図(4))で,ベルクロ・ラ音とも呼ばれるものです。ちなみにベルクロ(Velcro)の語源は,血圧計のマンシェットのマジックテープを製造していた会社名です。マンシェットを剥がすときの音,と教育された方もいるのではないでしょうか?

 ただ,この音を聴いて「あ,肺線維症だ,大変!」という判断になることはまずありません。むしろ既に診断がついており,その上で医学的な興味がそそられる場合が多いかもしれません。心不全や気道感染症などの併発がなければ,音も変わらないと思います。

 一方,肺水腫や肺炎など肺胞や気道に分泌物がある疾患では,湿った感じの大きな音が,吸気の始めから聴こえます。これが,Pan inspiratory (coarse) crackles(図(1))です。この状態ではほとんどの場合大きな音(湿性)です。「水泡音」という慣習的な呼び方でもイメージしやすいですよね。

 しかし,肺水腫や肺炎の病状が改善してくると,音がだんだん細かく小さくなり,聴こえ始める時間も吸気の始めからではなく,しばらくしてから吸気終末にかけて大きくなってきます。

 こういったことを臨床現場でも実感できていますか? これは,Pan inspiratory crackles(図(1))からLate inspiratory cracklesへの変化((2)),さらにLate inspiratory cracklesのなかでも徐々に変化していることを示唆します((3))。なお前述のLate inspiratory fine crackles((4))とは,基本的に音の大きさ(質)が異なります。聴診を重視している医師の回診ならば「昨日よりも音が小さく,より吸気終末にのみ聴こえるように変化しています」といったプレゼンがあるでしょう。

 しかし実際のところ,日勤→日勤→日勤……と5日連続で余裕をもって,一人の患者の肺の聴診ができる看護師が病棟にいるでしょうか? いるとしたら,医療系のドラマに出てくる看護師ぐらいなものです(彼女たちは受け持ちもせいぜい数人で,日勤→日勤+準夜勤→日勤ぐらいしている勢いですよね)。また,音の大きさ・吸気のPhaseは明確に記録しがたい(=定性化しがたい)ものです。前日の記録を見ても,記録者の耳に実際にどのように聴こえたかまではわかりかねます。図(2)と(3)の違いも聞いた本人しかわかりませんが,かといって録音すべきものでもないでしょう。

 さらに,一生懸命聴診しようとしても,患者さんが深呼吸してくれないと,クラックルズの音の大きさ・吸気のPhaseは評価が困難です。図(1)-(4)で前半部分しか聴こえないとしたら,何がなんだかわからないですよね。しかし,促しても深呼吸をしてもらえない患者さんは決して少なくありません。

 また,長期臥床の患者さんの背面を"ひとり"で聴診するのも大変な労力が要ります。寝ている人が起きた後,深呼吸をすることにより,重力依存的にしぼんでいた肺胞が開くことで,クラックルズが最初の数呼吸で聴こえるといった落とし穴もあります。聴診の限界を知ることも,業務を行う上で重要だと思います。

(17)喀痰の排泄ができないために,中枢気道で"ゴロゴロ"している音があります。こうした音は「咽頭ゴロ音」とか「ガラガラ音」と呼ばれ,非連続性に聴こえるものの,一応「連続性副雑音」のRhonchi(ロンカイ)と表現することになっています。

 しかし,気管支喘息でも比較的中枢気道で連続性に聴こえる低い音をロンカイと表現することがあり,それと同じ表現にすること,しかも非連続性に聴こえる音を連続性と表現することに違和感を感じています。"定義"に沿うことも重要ですが,診察で得た情報から,最終的な臨床判断が変化するということがより重要だと思うのです。

 これらのことから,痰を出せない状態にあるときの音を,"院内ルール"としてRattle(ラットル)と"表現"してもよいのではないかと思っています。前回解説したWheezesを,ウィーゼズではなくウィーズと呼ぶのも"院内ルール"です。ちなみに長坂行雄先生(近畿大堺病院)は,"ゴロゴロ"音をRambling(ランブリング)と呼ぶこともあるとのことでした。

 去痰ができない患者さんの多くは,嚥下にも問題があります。昨今は経管栄養を含めた栄養法(別の視点では死生観の問題にもつながると思います)にも議論がありますが,こういった検討が必要となる可能性のある患者さんだということを,早期から認識しておくことが重要でしょう。なお,喀痰の排出については次回,問(18)に続きます。

 "ラットル"については,緩和ケアの成書などの"Death rattle"という表記でお馴染みかもしれません。子育てを経験した方なら,赤ちゃんのガラガラに書かれた"ラトル"という言葉に聞き覚えがあるでしょうか。可愛い言葉に思えますが,"ラトル"の語源はガラガラヘビの音だそうで,それはあまり可愛くないかもしれません……。

 さて,ここまでの内容について,読者の皆さんはどう感じたでしょうか?

 解説を頭に入れた上で,再度フィジカルアセスメントの成書などを紐解くと,ポイントを強弱をつけて読めるようになっていると思います。音のイメージがわきにくい場合,CD付きの書籍なども活用してくださいね。

 聴診に関しては,医学的理論を知ることが重要であり,正論なのは確かです。しかし最終的に必要なのは"現場に活かせること"です。限界を知った上で,できることをしっかり行うことが求められていると感じています。

 皆さんのご意見をお聞かせいただけたら,うれしく思います。

つづく

文献
1)Nath AR, et al. Inspiratory crackles-early and late. Thorax. 1974 ; 29 : 223-7.
2)Nath AR, et al. Lung crackles in bronchiectasis. Thorax. 1980 ; 35 : 694-9.

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