医学界新聞

寄稿

2011.05.16

【寄稿特集】

これが私の進む道!2011
6人のシニアレジデントからの"贈る言葉"


 新年度を迎えて約1か月。医学生の皆さんは講義や実習に,初期研修医の皆さんは臨床研修にと充実した日々を過ごされていることと思います。しかし将来の医師としての"道"を考えると,「本当にやりたいことを」とは言われるものの,さまざまな診療科を見学したりローテートするなかで当初持っていた印象が変わってしまったりと,診療科の選択に迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。

 そこで今回は,さまざまな診療科で活躍する6人のシニアレジデントに,現在の診療科を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。進路に悩む後輩への"贈る言葉"が,自分だけの医師像を見つけるきっかけとなれば幸いです。

こんなことを聞いてみました
(1)経歴
(2)診療科の紹介
(3)ここが聞きたい!
 a.この科をめざしたわけ
 b.現在の研修生活は?
(4)同じ道を志す後輩への"アドバイス"

中尾 真理
西山 崇比古
手塚 雅博
佐藤 健太
平島 修
山田 舞


リハビリテーション科

リハビリテーション室は感動であふれています!!

中尾 真理(浜松市リハビリテーション病院 リハビリテーション科)


リハ科の仲間と(中央が中尾氏)
(1)2005年富山医科薬科大卒。都内市中病院にて初期研修,2年間の内科後期研修を経て09年より聖隷事業団所属。聖隷三方原病院を経て現病院で研修中。

(2)守備範囲はとてつもなく広いのですが,多いのは脳血管疾患,整形外科疾患,神経変性疾患の患者さんです。経済的・社会的側面からもアプローチし,患者さんを本当の意味で「家庭・社会」に帰すのがリハビリテーション科の醍醐味です。誤嚥性肺炎の原因となる嚥下障害を診断し,経口摂取に導いていくスキルも当科の売りだと思っています。

(3)a.私がリハ医になろうと決めたのは初期研修のときです。ある日,自分にとって画期的な出来事がありました。大きな脳出血で「ここ数日が山場です」と家族に説明した担当患者。毎日ICUに通っても,「うー」としか言葉がでなかったのにリハ室で"立って"(正確には,理学療法士に立たされて)いたのです。それを見たとき,なぜか自分の目から涙があふれました。これがリハ科に行くきっかけでした。リハ室は病院の中で唯一,患者さんが自分の力で治療を行う場所です。どこの病院でもリハ室は最もエネルギーにあふれた場所ではないでしょうか。リハ室には,ありふれた「感動」があふれています。病気になってから初めてものを食べたとき,立って歩いたとき,自宅に足を踏み入れたとき……。患者さんの嬉し涙を見られるのはリハ医の特権です!

 現実的にリハ科を選択した側面もあります。初期研修時,救急外来には毎日誤嚥性肺炎の患者さんが運ばれてきました。肺炎は抗菌薬投与で治せますが,内科医は胃瘻を作るか否かの合理的な判断基準を持つのが難しいと感じました。嚥下障害の診断,経口摂取の可否の判断,高リスク患者の肺炎を予防し経口摂取に導いて維持することはリハ医の仕事です。これができるリハ医のニーズは非常に高いです。

 急性期から慢性期まで,病院から在宅まで仕事の場があり,自分のペースで仕事ができるのもリハ科の魅力です。急患が少ないため予定が立てやすいのも,家庭や子どもを持つ女性医師には魅力だと思います。

b.回復期リハビリ病棟で20人前後の患者さんの主治医をしています。疾患は脳血管障害7割,整形外科疾患2割,その他1割です。患者さんにかかわる職種が理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・MSWと多いため,必然的に会議は多くなりますが,全職種が入院から退院までのアレンジメントに協力してくれるので,「自分ひとりで背負って動く」という感覚はなくなります。当科医局の特徴として,嚥下障害の診断・治療が優れており,和気あいあいとした雰囲気の中で,嚥下内視鏡や嚥下造影といった検査の手技・方針立案などを,高いレベル,また恵まれた環境で学ぶことができます。

(4)よく療法士とリハ医の違いは何かと聞かれます。各療法士はそれぞれ専門のテクニックを持ったセラピストであり,彼らの「手技」を最適に(薬と同様に)処方して,患者さんを良い方向に総合的に導くのがリハ医の仕事です。そのためには,彼らの仕事を良く理解する必要があります。また,いかに良い処方でも良い療法士がいなければ患者さんの動きは改善しません。その意味では,リハ医の仕事には「療法士が働きやすい環境をつくる」という黒子的な側面もあります。

 初期研修後リハ科に直接進むべきか,それとも他科の研修後に進むべきかという声もよく聞きます。私は内科認定医を取得してからリハビリの道に進みましたが,結論としてはどちらでもよいと思います。回復期でも主治医となれば全身管理が仕事ですから内科や皮膚科の知識は必要です。しかし,主治医をしながらでも学ぶことはできます。最近の若手の専門医の中には直接リハ科に進んだ先生も多くいらっしゃいますが,整形リハ・心臓リハ・呼吸リハと守備範囲が広いため,より早く勉強を開始すればより多く・深く学べるところはあると思います。


血管外科

大動脈瘤ステントグラフト治療に衝撃

手塚 雅博(東京慈恵会医科大学 外科レジデント)


(1)2008年獨協医大卒。湘南鎌倉総合病院にて初期研修の後,10年より現職。

(2)血管外科という診療科は聞きなれない人が多いかもしれませんが,その名の通り全身の血管を扱っている診療科です。具体的には頸動脈狭窄症や大動脈瘤,腎動脈狭窄,閉塞性動脈硬化症,さらには下肢静脈瘤など,疾患を挙げればきりがありません。また,内科的治療や生活指導などを含め治療範囲もかなり広いです。高齢化社会に伴い,今後血管外科医の需要はますます高くなってくると思います。

(3)a.私は医師をめざしたときから外科医になろうと考えていました。それは,自分の手を使い,直接病変に切り込んでいく外科という分野に大きな魅力を感じたからです。その考えは,外科を選択したいまでも変わっていません。現在,外科レジデントとして一般外科全般を学んでいますが,将来は血管外科に進もうと考えています。

 血管外科をめざした理由は,研修で外科をまわっていたとき,大動脈瘤のステントグラフト治療に出会い,衝撃を受けたからです。80歳を超えるような高齢の患者さんが小さな傷で大動脈瘤の治療を終え,数日で元気に退院していく様子を見て,なんて素晴らしい治療なんだと大きな魅力を感じました。

b.当科では,人工血管置換術やバイパス術といった従来の外科治療はもちろん,ステントグラフトなど最新の血管内治療まで幅広く行っています。血管外科のレジデントは,基本的に手術に入ることがメインとなります。朝8時に手術室へ入り,出てきたときには夜になっていることも少なくありません。手術終了後,病棟業務をしたり,カンファレンスを行ったりなど決して楽ではありませんが,仕事の後みんなで食事に行ったりと息抜きの時間ももちろんあります。

 血管外科の特徴は,一度手術を始めたら後戻りはできないということです。手術を中途半端に終わらせることは,ただ患者に危害を加えるだけでなく,死につながることもあります。その分大変ではありますが,一方で血管外科は機能外科であり,術後の症状改善をはっきりと実感することができるため,患者さんに感謝されることも多くやりがいも大きいです。

 血管外科はとても難しく,まだまだ学ぶことは多いのですが,好きなことをしているのでつらくはありません。

(4)外科を志望している人は,初期研修で外科以外の勉強をしっかり行うのが良いと思います。手技は外科に入ってから十分学べます。各科をローテートしているときにしか学べない知識をまずはしっかり身につけてください。器用・不器用はあまり関係ないと思いますので,それだけで外科をあきらめないでください。皆さんと一緒に働けることを楽しみにしています。


総合内科

五感をフルに使って患者さんの問題を解決する

平島 修(市立堺病院総合内科)


(1)2005年熊本大卒。福岡徳洲会病院で初期研修後,同院総合内科で2年間後期研修(内6か月間奄美大島で離島研修)。09年より現病院にて後期研修。

(2)「総合内科」という診療科の役割,あるいは「総合内科医」としての科内での役割は,各病院・診療所・地域の環境で大きく違います。日々の診療では,得意分野はあってもあえて専門性を持たず,個々の臓器ではなく全身を把握し,患者さんにとってベストな治療を選択していくことを心がけています。必殺技はない(あえて持たない)がどんな相手にも臆することなく戦いを挑むというイメージでしょうか。

(3)a.初期研修2年目での2か月間の離島研修が,私を総合内科に導いたのだと思います。自分を含め4人の常勤医師が勤務し,小児から老人,内科も外科も関係なく,自分の手に負えようが負えまいが,まず患者さんに寄り添い,耳を傾け,話を聞くという医療現場でした。そこで学んだのは,勉強して○○疾患を診たいという姿勢ではなく,目の前の患者さんが○○という病態・疾患で困っているので,勉強してあるいは調べて,元気になる手助けをしたいという姿勢でした。

 五感をフルに使ってさまざまな問題を解決する楽しさ・やりがいが総合内科への道に進ませたのだと思います。

初期研修医と行う週間振り返りにて
b.当院の後期研修では,各専門内科をローテートするプログラムがあり,総合内科でありながら専門家の考え方まで学ぶことができます。また総合内科は,初期研修医の研修を指導する中心的役割を担っているため,「教えることは学ぶこと」を合言葉にベッドサイドやカンファレンスなどで教育を行っています。

 外来・入院診療では,診断は容易だが疾患が多岐にわたる患者さんや,診断そのものが難解な患者さんを中心に担当します。文献検索・専門家とのディスカッションを繰り返し行い,問題を解決する機会も多く,広い分野に対して謙虚に学ぶ姿勢が問われます。刑事になった気分で事情聴取(病歴),張り込み(入念な経過観察・身体診察)を行い,多岐のプロブレムを整理して犯人(疾患)を逮捕(診断)することが総合内科の醍醐味です。高価な検査ではなく,詳細な病歴聴取や身体所見が診断につながった際には大きなやりがいを感じます。

(4)初期研修では,内科以外の研修に一生懸命取り組むことが,将来の総合内科で役に立ちます。最終診断が内科以外の疾患も初診は内科受診となる症例が多いため,外科系分野(一般外科・産婦人科・整形外科など)での各疾患の手術適応や診療の仕方,皮膚科での皮疹の診かたなど,どの診療科の知識も大きな武器になります。

 診断や治療に苦慮する機会も実際ありますが,どんな疾患の患者さんにも,まず手を差し伸べる医師になりたいと考える方にはぴったりの診療科だと思います。


循環器内科

心肺停止患者の劇的改善が喜びに

西山 崇比古(慶應義塾大学病院 循環器内科)


(1)2005年慶大卒。慶大病院,済生会宇都宮病院にて初期研修の後,現病院で後期研修。

(2)循環器内科は虚血性心疾患,心不全,不整脈,弁膜症,肺高血圧症などを対象としています。当科では心電図診断,心臓超音波検査,心臓カテーテル,不整脈アブレーション治療の専門スタッフと,全身管理を行う病棟チームとの強い連携のもと患者診療に従事しています。

 日々の診療業務では診断や治療方針に迷うことが多々あると思いますが,自らの勉強と併せて専門スタッフからの適切なフィードバックが得られることは,若い時期の成長を飛躍的に向上させると考えています。また,当科では臨床だけでなく研究の機会も与えられ,最先端の病態生理や最新の治療を世界に発信していくことを目標としています。

(3)a.正直,内科に進むことは全く考えていませんでした。しかし初期研修で循環器内科をローテートしたときに,急性冠症候群や重症心不全患者の循環動態管理,不整脈アブレーションによる致死性不整脈の治療を経験し,非常に有意義な時間を過ごし何より楽しかったことを覚えています。さらに,指導医が非常に熱心であり,何もわからない自分に丁寧に指導していただき,医師として初めて自分で考えて治療を選択する喜びを感じることができた期間でした。

 私は以前より先天性心疾患に興味があり,小児心臓外科,小児循環器科を学生時代は考えていました。しかし,日本では成人先天性心疾患の診療体制が不十分であり,患者さんは小児科外来に通い続けているのが現状です。そこで,循環器内科の心不全管理,カテーテル治療,不整脈の知識が成人先天性心疾患診療に生かせるのではないかと考え循環器内科を選択しました。

b.現在入局から3年が経過し,病棟診療,心臓カテーテル,心臓超音波,不整脈アブレーションとすべての専門班を経験しました。

 循環器内科は,迅速な対応が求められる急性疾患も多く大変な面もありますが,治療が奏効した際は劇的な改善が得られ,心肺停止で搬送された患者さんが独歩で退院されるときの喜びはひとしおです。また,不整脈アブレーション治療は心内電位,カルトマッピングシステムなどを使用し上室性不整脈,心室頻拍の治療を行います。体表心電図からさらに進み,回路の同定を行う思考を養うとともに不整脈を治療するのは,循環器の特殊技能であると思います。

(4)研修生活中は専門家から一つでも多くのことを学び,なるべくその科に徹することをお勧めします。例えば私は麻酔科研修中にマスク換気,気管挿管を徹底的に指導していただいたおかげで,緊急時に慌てることなく対処できるようになりました。

 もし時間に余裕があるときは,興味のある科の勉強をすればよいと思います。そして,英語の書籍と論文を読むことは怠ってはいけません。また,忙しい診療業務の中で時間を割くのは大変ですが,学会,講習会に足を運び,普段一緒に働くことのできない他病院の専門家の新鮮な知識を学ぶことも重要です。最後に医療現場に出る前に,必ずACLS講習会を受けることを強くお勧めします。


家庭医療

治せなくても「かかわり」そして「癒す」

佐藤 健太(勤医協中央病院 総合医・家庭医コース 後期研修医)


(1)2005年東北大卒。勤医協中央病院で初期研修の後,同院総合診療部にて後期研修。

(2)「家庭医とは?」は,とても深い問いですが,無理にまとめれば「地域でニーズの高い健康問題に,病気だけにとらわれず患者の人生におけるイベントや答えのない複雑で不確実な困難を幅広く非選択的に受け止め,人間的な味わい深いかかわりを続けながら適切に対処する,『気軽に相談できる』かかりつけ医」となります。また家庭医療学の知識を習得し,指導医や同期からフィードバックを受けながら質の担保された研修を受け,専門医認定試験を受け一定の基準を満たした専門家が「家庭医」です。もう少し噛み砕くと「すごく優秀で,しかも心温まる素敵な町医者」の持つ魅力・能力を徹底的に分析して,誰でも身につけられるように体系化したのが家庭医療学と考えています〔詳細はマックウィニーの『Textbook of Family Medicine』(Oxford University Press)参照〕。

(3)a.最初はどんな病気でも診断できる総合内科医をめざしていました。一通りの対応ができるようになった卒後4年目,最善を尽くしても「治せない病気」「解決できない苦悩」という限界にぶつかりました。そのころ,家庭医志望のM君と同じ病棟で研修する機会があり,何もできない状況に対し家庭医療の視点で分析を加え,治せなくても「かかわり」そして「癒す」M君の姿を目の当たりにしました。これをきっかけに家庭医療学を学び始め,「医学の限界」とあきらめていた状況でも,かかわり・癒す経験を重ねるうち,視界が徐々に開けてきたような感覚になりました。

b.他科との最大の違いは「疾患」だけでなく「苦悩」,そして「健康」や「人生」も評価・介入の対象になっていることでしょう。生まれる前(若年女性が母になる準備)から亡くなられた後(遺族のケア)まで対応しています。だから診断がつかなくても「私」が癒したり,暗い病気の話だけでなく明るい将来の話もできます。「うちの科の問題じゃないから,よそに行ってください」という,医師として絶対に言いたくないセリフを言わずに仕事ができるのが,なにより気に入っています。

 家庭医療研修は,疾患や臓器ではなく「自分の担当する地域のニーズ」から研修内容・習得すべき能力を決めていくのが特徴です。「誰をどんなふうに幸せにするのか」が明確な分,期待に応えられたときの達成感はとても大きなものになります。ロールモデルが少なく,確かなキャリアプランが見えにくい「けもの道」ではありますが,徐々に仲間や先輩は増えてきており,専門医制度も整ってきたため追い風は吹き始めています。成果よりも課題が多い領域ですので,フロンティアスピリッツあふれる方にはむしろ楽しくてしょうがない分野に映るでしょう。

(4)「心優しいやぶ医者」にならないために診断能力と救急初期診療の力は必須です。初期研修の2年間では足りないので,最低でも1年間は総合内科病棟や救急が組み込まれている後期研修先を選ぶほうがよいでしょう。高度な専門性を要する状況では,他科の医師との連携も重要です。ですから初期研修の間に他科の一般常識(こんな病態で紹介するな! or紹介が遅い!)や,個々の医師の性格を把握しておけるよう,雑談や飲み会に積極的にかかわりましょう。

 また,家庭医仲間が少ない地域も多いため,仲間づくりには意識的になりましょう。学会・セミナーに参加したり,ITツールでへき地でもつながれる工夫も大切です。

*普段の活動の様子はブログもご覧ください。


病理診断科

病理医は患者の運命を決定付ける司令塔!!

山田 舞(愛知県がんセンター 遺伝子病理診断部)


(1)2005年九大卒。手稲渓仁会病院で初期研修(カリキュラム上3年)の後,同院外科1年,愛知県がんセンター中央病院乳腺科にて2年間の後期研修を修了し,11年より現職。

(2)当部では,形態学的な病理診断を追求するのはもちろんのこと,特徴として遺伝子診断に力を入れており,肺がん,消化器がんなどで治療選択に直結する遺伝子診断を行っています。また,各人が臨床と関連付けたリサーチも手掛けています。

(3)a.自分が病理部に所属しているなんて我ながら不思議な気もしますが,いくつかの偶然と必然が私をここに導いてくれました。学生時代,私にとって病理学はスケッチの時間で,初期研修医時代も渋々病理カンファに参加しましたが,病理スライドを見ても心に響くものは正直何もありませんでした。しかし,学会発表で病理結果を示す必要性から術中迅速病理診断の現場を垣間見,乳腺科トレーニングの一環で手術標本を仮診断するようになり,さらには人数の関係でやむを得ず3か月ほどどっぷり病理部をローテーションしたことで,病理のみならずがん診療自体に対する考え方が一転し,今では"病理を知らずしてその方のがんの本質をとらえることはできない"とまで確信しています。

b.どんな疾患も治療方針を決定する際には種々の画像所見,検査所見,病理学的パラメーターを参考にされると思います。しかしそれらは,あくまで標的(病巣)をフィルターを通した側面からみているにすぎません。一方病理スライドは,病巣のありのままの姿を目の当たりに見せてくれます。

 専門とする疾患を学べば学ぶほど,既存のパラメーターを指標に決められる,ある程度画一的な治療がもたらす効果に限界を感じることが出てきます。病理スライドを自分で見ることができると,既存のパラメーターでは同じと分類される病巣でも,"性質がよさそうなもの"や"治療やフォローアップの手を厳しくする必要のある悪そうなもの"と,よりその方の病気の個性を目の当たりにできます。当院でも少しでも病理の心得のある先生方は,治療方針決定の前には必ずスライドを覗きに来られます。また病理部の先生方は,単に見たままをレポートに書くのではなく,自分の報告書を見て選択される治療法がどう患者さんの今後に影響するか,という責任感を常に強く意識しながら,"この先生はこう書くとこの術式・治療法を選びかねないから少し強調して(or ひかえめに)書こう"など,患者や主治医に合わせて表現の仕方も微調整していたりします。

 他院の病理診断と結果が覆ることも時にはあり(良性⇔悪性ということも!),病理医がどう診断するかによって患者さんの人生が大きく変わってしまうこともある,つまり病理医は目立たず地味なように見えて実は患者さんの運命を決定している影の指令塔,審判の立場なのです。それだけに,常に奢らず謙虚で独善的にならないよう心がけられている姿が本当に印象的です。またなぜか育児との両立にも非常に理解があり,時間を自分でコントロールして仕事をやり繰りすることが可能なため,家族計画(今秋第2子出産予定)のほうもお陰さまで順調です(笑)。患者さん個人に合わせたより細やかな医療をしたい方,育児との両立が必要な方,一度病理を勉強しておいて決して損はありませんよ。

(4)現在臨床家の方は,自分が治療している疾患の実際の顔つき(病理スライド)を見てください。病理医を志している方はできる限りその臨床経過,治療法を学んでください。


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