医学界新聞

寄稿

2011.01.31

視点

聞こえない患者さんと
同じ目線に立てる医療者として

真島昭彦(「聴覚障害を持つ医療従事者の会」代表)


 医師,看護師,薬剤師など医療機関で働く人々の中に,聴覚障害を持つ人がいることをご存じでしょうか? ほとんどの方は考えたこともないと思います。聞こえないと聴診器が使えないのではないか,機器アラームにはどう対応するのか,ナースコールは取れるのか,電話ができないのではないか,そもそも患者さんとコミュニケーションが取れるのか――。できないことばかりで仕事にならないはず,と思う方も少なくないのではないでしょうか。実は私も“聞こえない”薬剤師です。

 2001年6月に,薬剤師法などにあった「目が見えない者,耳が聞こえない者又は口がきけない者は(薬剤師の)免許を与えない」という条文が撤廃されました。ただし完全撤廃ではなく,「資格を与えないことができる」などの表現で,場合によって資格の剥奪を決めるという含みのある条文で,相対的撤廃と言えます。これは,「何々ができないからダメ」という発想が根本的にあることが問題です。できないのであれば,「ではどうしたらできるか」を考える人が増えれば,聞こえない医療従事者は働きやすくなります。

 一方,聞こえない立場としても,何が不便かを積極的に訴える必要があります。「会議では内容がわからないまま,結果だけを知らされる」「患者さんに話しかけられたときに気付かず,無視されたと誤解された」「何回も聞き直すのも気が引け,いい加減な返事をしてしまう」「勉強会では経済的理由で,手話通訳や要約筆記通訳を派遣してもらえない」。このほかにもいろいろ問題を抱えています。聴覚障害を持つ人にとって,見える情報は必須です。医療はチームプレーですから,お互い補い合う精神がほんの少しでもあればと思います。

 聞こえないことは決してマイナスではありません。患者さんの中には聞こえない方もたくさんいらっしゃいます。これらの患者さんの立場,不便さがよくわかるので,聞こえない医療従事者が対応したほうがスムーズに行く場合も多いことを経験上申し上げたいと思います。

 さて,私たちは2001年に「聴覚障害を持つ医療従事者の会」を設立しました。目的は職場環境の改善,会員同士の情報交換,医療系学生の支援と交流です。会員は北海道から沖縄まで59名が在籍しています。今までの活動は書籍出版,講演,学会での手話通訳派遣の働きかけ,機関誌発行などです。ホームページもぜひご覧ください。


真島昭彦
1985年昭和大薬学部卒。01年「聴覚障害を持つ医療従事者の会」を有志と設立し,聞こえない医療従事者の職場改善などを訴えている。08年より同会代表幹事を担当。会員共著の『医療現場で働く聞こえない人々』(現代書館)を出版。現在は薬局勤務をしている。

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