医学界新聞

2010.12.06

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


X線像でみる
股関節手術症例アトラス[CD-ROM付]

佛淵 孝夫 著

《評 者》内藤 正俊(福岡大病院病院長)

術前から術後までの長期経過を1ページに凝縮

 このたび発行された『X線像でみる 股関節手術症例アトラス』をパノラマ風に捲り終えると,30年前に初めてグランドキャニオンを眼前にしたときの感動が蘇りました。著者が執刀した膨大な症例の幅広さと奥行きの深さに圧倒され,機能が回復した偉観とも言うべき股関節の群れに"あっぱれ"と感嘆の声をあげました。

 本書は約6000例の中から厳選された症例の両股関節正面像を用い,術前から術後までの長期経過が1ページで一目瞭然にわかる画期的な構成になっています。手術方法によりAからCまでの3部に分けられており,Aは各種股関節骨切り術,Bではさまざまな症例に対する初回セメントレス人工股関節置換術(THA),Cは主にセメントレスTHAによる再置換術です。各部をさらに術式ごとに細分類し,その代表症例ごとに手術適応,術前の準備,治療法選択の決定因子,手術のコツ,ピットフォール,後療法,合併症と対策などが箇条書きで簡潔に記載されています。各症例には細分類に応じたタイトル,性別,年齢,手術の難易度とともに手術方法の秘訣が"COMMENT"の数行に詰まっています。付録のCD-ROMには書籍に提示されていない症例を含め合計600例が収載されており,コード番号は本書の症例のタイトルと呼応するようになっています。細分類ごとの自動的なスライドショーのon,offや画像の拡大機能もあります。使い勝手がとても便利で,全体を眺めることや手術の細部のチェックが容易です。

 本書の"Column"にもお書きになられていますが,著者の佛淵孝夫佐賀大学学長は1979年に股関節外科のメッカである九州大学整形外科に入局されました。他大学から2年前に同医局に入局していた筆者は,研修1年目の著者と半年間同じ病棟で勤務しました。最初から該博な知識と凛乎たる態度が印象的で,よく患者を診ていらっしゃいました。故杉岡洋一先生が教授になられてからは文字通り右腕として診療や研究だけでなく,「骨切りワークショップ」などの実務もなさっていました。手術に対する天凛にも恵まれ,今やわが国の股関節外科のトップランナーです。

 本書では治療戦略,必須な分類,手術方法のポイントなどはすべて図解され,股関節外科の成否の判定に不可欠な両股関節正面像のみが掲載され,MRIやCTなどの特殊な画像はほとんど使われていません。無駄が一切省かれ,文章は最小限にとどめられていますので,すっきりとしたわかりやすい内容になっています。整形外科領域へのクリティカルパスの導入で先鞭をつけた著者の哲学を垣間見る思いがします。日常の診療で遭遇するほとんどの股関節疾患が本書に含まれていますので,整形外科の先生方に広く本書を推奨致します。ページを捲りながら清々しい気持ちで学び,股関節外科の妙を思う存分満喫してください。

B5・頁232 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01013-9


プロメテウス解剖学 コア アトラス

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評 者》小林 靖(防衛医大教授・解剖学)

よりコンパクトに,より学習しやすく

 『プロメテウス解剖学アトラス』全3巻の日本語版がそろったのは昨年のことだったが,このたび,その3冊の中から厳選された図版を集めた『プロメテウス解剖学 コア アトラス』の日本語版が刊行された。

 『プロメテウス解剖学アトラス』は,第1巻が出版されたときからその図の質の高さが評判であった。従来のデジタル化された図は,その質感がややもすれば抽象的で滑らかすぎ,模式図としては良くても実物と照合しにくいきらいがあった。プロメテウスの図は自然かつ精緻なテクスチャで描かれており,初学者にも実物を想像しやすく学習に好適である。また,デジタル化されているが故にさまざまな器官系を自在に抽出して相互の位置関係を示すことが可能となり,専門家にも新しい視点を提供してくれるような図が多く掲載されていて,実務に十分役立てることができる。

 今回刊行された「コア アトラス」は,『プロメテウス解剖学アトラス』全3巻の中から重要な図を精選して1冊にまとめたものである。全体の構成は背部,胸部,腹部・骨盤,上肢,下肢,頭頸部,神経解剖となっており,局所解剖的な配列である。最近どの大学でも解剖学教育の時間数は減少傾向にあり,いきおい実習中心のカリキュラムとならざるを得ないが,その中で使用するのに適した構成と言える。他方,それぞれの章は骨格と筋から内部の器官へと,ある程度系統解剖を意識した順序となっていてバランスがとられている。

 3冊の解剖学アトラスの膨大な図版からどの図を選択するかは重要なポイントである。本書では初学者が正常の構造を理解するために必要とされる基本的な図がもれなく集められている。それに加えて病的な状態の解説や臨床上の手技の図解も随所にあって(たとえば椎間板ヘルニアの説明や胸腔チューブの挿入の図解など),臨床医学の学習とのスムーズな連係が図られている。中でもリンパ流路の図解は各部に掲載されていて,非常に有意義である。

 多くの図を掲載しようとしたためか,あるいは判型が幾分小さくなったためか,一つひとつの図が小さくなったようである。以前のほうが見やすかったようにも思うのだが,これは老眼の始まった評者のほうに原因があるのであって,若い読者にとっては全く問題にならないのかもしれない。

 本書はこのように『プロメテウス解剖学アトラス』の長所を生かしつつ,よりコンパクトで学習に適した形に再編された図譜である。3巻に分かれていた解剖学アトラスは,各々の専門領域で活躍しておられる読者諸氏には,自分に必要な分野だけ買い求めることもできて好都合である。しかし,3巻ともそろえるとなると価格の面で負担が大きいのも事実で,とりわけ全体を学習しなければならない学生に推薦しづらい面があった。本書は1冊にすべてがまとまっていながら1万円を切る価格であり,この点でも医学生諸君にとりわけお薦めしたいアトラスである。

A4変型・頁704 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00746-7


アノミア
失名辞
失語症モデルの現在と治療の新地平

Matti Laine,Nadine Martin 著
佐藤 ひとみ 訳

《評 者》長谷川 恒雄(日本高次脳機能障害学会名誉会員)

失語症の理論や,診療に必要な知識を整理できる良書

 本書は有名な"Anomia: Theoretical and Clinical Aspects/Matti Laine and Nadine Martin, Psychology press. 2006."の日本語版である。訳者はロンドン大学で言語障害関係の博士課程を修了された佐藤ひとみ博士である。本書の内容は,(1)単語検索の認知モデル,(2)失名辞の主な種類,(3)呼称の神経基盤,(4)失名辞の臨床的評価,(5)単語検索障害に対するセラピー・アプローチ,(6)結論と将来の方向,(7)訳者のあとがき,(8)文献から構成されている。

 多数の文献を詳細に検討した上で,失語症のモデルの変遷と現在の認知モデルによる失名辞分類,失名辞の理論的解釈,単語処理の検索過程による失名辞分類,失名辞の理論に基づく知見の失語症への応用,脳画像による言語領域の検討,失名辞の臨床的評価法と治療など多方面にわたって知識が整理され,詳細に述べられている。

 わが国ではこの領域の欧米の文献や著書に接する機会は,一部の学者や臨床家だけにしかない。本書は学者や研究者にとって失語症の理論や診療に必要な知識を整理する上で,また最近の脳科学の知識を加えて将来の研究開発を考える上で有用である。言語障害の診療に従事する医師や言語聴覚士にとっては近年の欧米の失名辞に対する研究状況や,評価,診断,治療に関する情報を知ることができ,日常の診療に役立つとともにわが国の失語症の研究や臨床の進歩・発展の上でも影響を及ぼすものと思われる。聴覚・言語関係や高次脳機能障害関係の養成校や大学,大学院の学生に対しては,優れた著書であるので参考書として推薦したい。

A5・頁224 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00992-8


内分泌代謝疾患レジデントマニュアル
第3版

岡 成人,和田 典男 著

《評 者》成田 琢磨(秋田大大学院准教授 内分泌・代謝・老年内科学)

この一冊があれば自信をもって対応できる

 医学に限らず,科学の分野はまさに日進月歩であり,しばらく前に通用していた知識,技術も日々updateされています。われわれの日常臨床の専門分野である内分泌代謝分野についても同様で,例えば糖尿病治療では10年くらい前は研究の一分野であったインクレチンが,日本でも昨年から一気に4種類の薬剤が市販され,糖尿病治療を大きく変えようとしています。

 また第3版の序に吉岡先生がお書きになっているように,原発性アルドステロン症の診断の進歩や,実はありふれた疾患であることの再認識,メタボリックシンドロームのクローズアップ,アクロメガリーの治療薬の進歩,エプレレノンの登場など内科的にここ数年,内分泌代謝疾患の診断治療のパラダイム変化が急激に起きてきています。またこれも吉岡先生が書いておられますが,内分泌代謝疾患は決してまれなものではないということも重要です。他の分野の診療でも,例えば糖尿病は避けて通れないし,電解質異常を的確に補正するにも原因として内分泌疾患を正確に鑑別しないと治療効果が上がりません。また頻脈・不整脈の背景に甲状腺機能異常がかなりの割合で潜み,見逃されると後で大変です。内分泌代謝疾患は特異的な症状を出さない場合が多く,種々の病態の背景疾患として常に考慮しなればならないことを,いろいろな分野の先生方に認識してもらう必要があります。

 その中,吉岡・和田両先生が,内分泌代謝分野の最新の知見を盛り込んで改訂されたのが,この『内分泌代謝疾患レジデントマニュアル 第3版』です。もともとレジデントや非専門の先生方にとって,取り付きにくい分野である内分泌代謝疾患に関して,手っ取り早く,かつ正確に診断・治療の知識を解説されたものですが,実はわれわれ専門家も白衣のポケットや外来・病棟の机に常備し"あれどうだったかな?"と思ったときいち早く手が届くのがこのマニュアルです。今回の改訂では2010年に変わった事項も(例えばHbA1cのJDS値とNGSP値の問題,診断基準の改定内容,インクレチン治療や,原発性副甲状腺機能亢進症でMIBIシンチが保険適用になったことなど)カバーされており,タイムリーな改訂です。

 また,甲状腺疾患と妊娠の問題,バセドウ病治療ガイドラインの内容など詳しく書かれており,内分泌を専門とするわれわれも知識の整理に非常に有用な一冊です。またインターネット時代を反映し,巻末に種々の学会,ガイドライン等のwebサイトを紹介しているのも新たな配慮と思われます。

 もちろん,レジデント・非専門の先生にも頻度の高い疾患を中心に過不足なく,かつ文献も示しながら,症例やSide Memoを通して詳しい知識が得られ,この一冊があれば自信を持って内分泌疾患患者に対応できるように配慮されています。ぜひこの一冊を携帯して,日々の診療の内分泌代謝疾患の診療指針としていただければと思い,ご推薦申し上げます。

B6変型・頁368 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01011-5

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