医学界新聞

寄稿

2010.12.06

【interview】

濱口杉大氏(江別市立病院総合内科主任部長/北海道総合内科医教育センター長)に聞く


個人の目的にあった研修を組める

――研修を取材して,地域の中・小規模病院で総合内科医として働けることを基本目標にしつつ,各人の希望に合わせ非常にフレキシブルな研修プログラムが組めるのが特徴だと感じました。

濱口 そうですね。特に後期研修では必修の基礎項目(入院診療,外来診療,2次救急,基本手技,コンサルテーション)のほかに選択項目があり,例えば在宅看取りなど訪問診療を積極的にやりたい,心臓のペースメーカー技術を修得したい,消化管内視鏡を身につけたい,といった希望があれば,研修医それぞれの希望を考慮した症例を多く割り振り,経験を積めるチャンスを増やすようにしています。専門の先生方も熱心に指導してくださいます。

 研修途中での追加や変更も可能ですが,研修医は皆非常にやる気があり,ほとんどすべての選択項目をこなしていますね。来年度は後期研修医が5-6名増える予定ですが,同様に各人に合わせたプログラムを組んでいきます。

――めざす領域はあるけれど,総合内科の訓練を一度しっかり受けてみたい,という研修医もいると思います。

濱口 当科が提供している研修が,それぞれの研修医の目的達成の助けとなることがまず大切だと考えます。"地域医療を志す医師のトレーニングの場"という当院の位置付けも,決して研修医に強要するものではありません。研修する中で,地域医療をやりたいという若手医師が何人かでも出てくればよいと思っています。

――外部の実績ある臨床家,指導医の招聘なども積極的に行っておられます。

濱口 自分たちの施設だけで研修を完結させるのは少々難しいので,いろいろな方の助けを借りています。外部の,今一番いきいきしている教育者と交流することで,我流の教育にならず新しい考えを取り入れられますし,「また教えに来たい」と思ってもらえるよう,こちらもしっかり勉強しておかなければ,という緊張感も生まれます。年に数回は海外からも講師を招いていますので,英語でのプレゼンテーションやディスカッションができるよう,医学英語も毎週勉強しています。

総合内科医循環システムで 病棟勤務医不足緩和を

――研修体制整備の最終到達点として,どんなことを考えておられますか。

濱口 長期的な目標としては「総合内科医チーム循環システム」を構築し,地域の医師不足を解消することをめざしています。このシステムは,指導医1名と中堅医1-2名,研修医1名のチームを複数個作り,半年から1年ずつ交替で地域の病院や有床診療所に派遣するというものです。

 北海道の人口10万人当たりの医師数は全国平均を少し上回っていますが,内訳を見ると開業医や無床診療所医師が増加傾向にあり,入院医療の担い手である病院の勤務医が不足しています。しかもその傾向は,人口の少ない地方病院で顕著です。

――新臨床研修制度発足以来,大学医局からの派遣もままならない状況です。

濱口 その上,入院患者の主治医になれば24時間拘束される,地方病院では専門外の症例も診なければならず,情報も遅れがちで十分な勉強ができないといった懸念から,地方病院の勤務についてしり込みする人が多いのです。

 しかし,そうした事情から医師不足にあえいでいる地域の100床前後の病院こそ,総合内科が最も活躍できるフィールドです。若手医師をチームで,期間を区切って派遣するのであれば,ハードルはかなり下がります。総合内科医なら,幅広い症例を診られることが勉強に直結しますし,チーム内に指導医を加えることで,派遣先にも教育環境を作ることが可能です。

 ゆくゆくは,江別だけでなく道内に10箇所ほど総合内科医循環システムの拠点をつくり,複数のチームをローテーションで地方に派遣すれば,医師不足解決につながるのではないかと考えており,厚生労働科学研究費補助金を受けて研究を進めているところです。

――そのためにも,総合内科を志す若手医師がたくさん集まる研修プログラムを作ることが大切ということですね。

濱口 そうです。全国から希望者が集まるような魅力ある研修の土台を作ることが,まずは中間目標ですね。

 私も含め,市立舞鶴市民病院で,松村理司先生に教えを受けた医師たちが今,各地で教育に携わっています。同様に,人が入れ替わり場所が変わっても,若手から若手へ江別で学んだことの種が蒔かれ続けていくような,継続性ある教育ができればと思っています。

――ありがとうございました。

(了)


1995年新潟大卒。天理よろづ相談所病院,市立舞鶴市民病院を経て,利尻・厚岸などでへき地・離島医療に従事。2006年よりロンドン大衛生熱帯医学大学院校に留学,熱帯医学修士取得。07年11月より現職。現在,長崎大熱帯医学研究所大学院にも在籍中。進路に悩む医学生・研修医に一言「英語の勉強と貯金,この二つをきちんとしておけば,いざやりたいことが決まったときとても助けになります」

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