第69回日本公衆衛生学会開催
2010.11.29
第69回日本公衆衛生学会開催
第69回日本公衆衛生学会が10月27-29日,大井田隆会長(日大)のもと,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。「公衆衛生の発展に向けて――調査研究から政策へ」をメインテーマに据え,雇用,食の安全など,幅広い問題が議論された。本紙では,シンポジウム「たばこ規制の現状と今後の課題――FCTCの批准国として実効性のある規制・対策をどう進めるか?」(座長=大阪府立健康科学センター・中村正和氏,大阪府立成人病センター・大島明氏)のようすをお伝えする。
喫煙をめぐる問題を幅広く議論
学会会場のようす |
望月友美子氏(国立がん研究センター)は,喫煙者減少をめざした価格引き上げ案を提示。現在わが国では,たばこへのイメージなど価格以外の要素により年5%ペースでたばこ販売本数が減少している。氏は,禁煙勧奨の徹底などにより,この傾向が最大15%まで加速すると仮定。その中で,2億円のたばこ税収や関連企業の収益などの経済・財政規模を維持することが価格引き上げの必須条件として,毎年110円ずつ価格が上昇した場合をシミュレーションした。その結果,たばこ販売本数が年15%ペースで落ち込むことになっても,税収,企業収益共に上昇あるいは維持が可能だとして,実現可能な価格引き上げモデルを示した。
大和浩氏(産業医大)は,「タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」批准後のわが国の受動喫煙対策を総括した。本条約は第8条において,2010年2月27日までに全建物内を完全禁煙化することを規定している。これを受けわが国では,2010年2月に公共的な場所での完全禁煙化が推奨され,5月には工場・事務室などでの禁煙が追加された。氏は,両通知の意義を評価しつつ,「分煙」も特例として認めていることを問題視。自身の実験結果を示し,喫煙席や喫煙ルームの設置は分煙策として不十分だと主張。飲食店,ホテルなども含めた例外のない禁煙化を求めた。
座長の中村氏は,保険収載5年目を迎えた「ニコチン依存症管理」の現状と課題を報告。2009年調査における1年後の禁煙継続率29.7%を英国の17.7%(2005年)と比較し,調査年代や治療方法の違いはあるが,一定水準の治療を実施できていると分析した。今後の課題としては,大きく分けて3点を提示。まず,現在初診より3か月間(5回の受診)のみに限定されている保険適用の要件緩和を求めた。また,効果的な禁煙勧奨策として,OTC,治療機関などに関する無料電話案内(Quitline)や健診時に禁煙を奨励する「メタバコ健診」を紹介。さらに,医療者の禁煙勧奨スキルの必要性を提唱し,J-STOP(Japan Smoking cessation Training Outreach Project)の活動を示した。
福田敬氏(東大)は,医療経済学の立場から,喫煙による経済的損失を分析。まず,2005年の推計値をもとに,(1)喫煙関連疾病の治療費を1兆7681億円,(2)消火活動や清掃など施設・環境面の管理コストを1918億円,(3)喫煙関連疾患による労働力損失を2兆3664億円と算出した。さらに,喫煙が原因で生じる疾患・障害に対する介護や喫煙目的の労働中断でも,それぞれ4760億円,1兆5604億円の損害が生じるという。次に,禁煙に成功した場合の生存年数と生涯医療費の変化に言及。生存年数は男性で約8.5か月,女性で約6か月伸び,医療費は男性で約66万円,女性で約48万円削減できるという。これらから氏は,禁煙治療の費用対効果の高さを主張し,普及促進を訴えた。
指定発言では,高城亮氏(厚労省)と片野田耕太氏(国立がん研究センター)が登壇。高城氏が,行政としての今後の取り組みへの決意を示す一方,片野田氏は,禁煙試行率と禁煙成功率の向上対策の活性化を呼びかけた。
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