医学界新聞

2010.11.08

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患

西田 輝夫 著

《評 者》天野 史郎(東大大学院教授・眼科学)

日常出会う角膜疾患を科学的・論理的にとらえた実践書

 山口大学眼科学教室の西田輝夫教授と教室員の先生方が執筆された『ケースで学ぶ 日常みる角膜疾患』が医学書院より発刊された。西田先生は世界的な業績を挙げた角膜研究者に贈られるカストロビエホ賞を受賞された日本を代表する角膜研究家であり,フィブロネクチン点眼による再発性角膜上皮びらんの治療,サブスタンスPとinsulin-like growth factorの部分ペプチドの点眼による遷延性角膜上皮欠損の治療などの研究でLancet誌に論文を数本発表されるなど,輝かしい業績を残されてきた。その西田先生がこれまでの長い診療経験において蓄積された多くの症例から,日常みる角膜疾患を抽出しまとめ上げられたのが本書である。

 その内容は,角膜疾患および関連事項を大きく「角膜上皮」「感染・免疫」「角膜変性・内皮」「形状異常・外傷」「腫瘍・全身」「角膜移植」「検査」の7つに分け,それぞれの中で代表的な疾患や討論点などの小項目を全体で80項目掲げ,詳細な解説が述べられている。各項目においてはまず典型的な症例が提示され,いずれの項目の症例も初診時所見から最終的な転帰までが詳細に記述されており,教室員の先生方が精魂込めて症例をまとめられた様子がうかがえる。そして症例の提示に引き続き,各疾患の説明が,疾患の定義,疾患概念,自覚症状,他覚所見,診断・鑑別診断,治療・予後の順に述べられており,本書の最も読み応えのある部分となっている。

 本書を読んで感じる西田先生の診療の根底に流れる一貫した方針は,診断においても治療においても,科学的,論理的に考え,判断することのように思われる。西田先生の診察は残念ながら見学させていただいたことはないが,西田先生の書かれたカルテ所見は何度か拝見する機会があり,その達筆な文字で書かれたカルテでは,各症例において存在する問題因子間の相関関係や因果関係を矢印で結び,その中から診断や治療の方針を打ち立てていくという,論理的な記述がなされていたのを記憶している。西田先生のご講演でしばしば拝見するブロック図が,本書でも「糖尿病角膜症の病態」や「角膜実質融解メカニズムにおけるステロイドの位置づけ」などの複雑な病態や事象を解きほぐしてわかりやすく解説するために使用されており,読者の頭の中を整理してくれるものと思う。

 日常臨床で巡り会う各症例において,西田先生が本書で示されているような,科学的,論理的に診療するこだわりを常に持って,診療を実践していきたいものだと思う。本書は日常診療での頻度の高い代表的な角膜疾患のほとんどを網羅し,それらに対する診療の最新の考え方を述べると同時に,未解決の問題に対する自教室での研究成果も多数盛り込まれている。研修医の先生方はもちろんのこと,角膜専門医,一般眼科臨床家,研究者の皆様など,多くの方々に推薦したい1冊である。

B5・頁320 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01017-7


摂食障害のセルフヘルプ援助
患者の力を生かすアプローチ

西園マーハ 文 著

《評 者》鈴木(堀田)眞理(政策研究大学院大教授・保健管理センター)

摂食障害のプライマリケアにかかわるすべての方への指南書

 摂食障害はcommon diseaseになったが,治療が易しいと言う治療者はいない。神経性食欲不振症は「体重を増やしたくない」,神経性大食症は「止めたいけれど過食したい」患者である。つまり,摂食障害の治療の困難さのゆえんは,「治したいけれど,治したくない」患者を対象にしていることにある。

 セルフヘルプとは,本人が主体的に治療に参加して自分をケアすることである。本書は,治療者が技術提供をして患者の力を最大限活用するというガイド付きセルフヘルプの診療スタイルなら,根源的な治療関係の困難さを持つ摂食障害患者にもセルフヘルプする気持ちを育てることができ,専門医に行かずともプライマリケアである程度の有効性を得られる,という著者の英国での臨床経験に基づいて書かれた実用書である。身体疾患では基本的な診療スタイルであるが,最もなじまないと考えがちな摂食障害での実用を指南している点で,本書は画期的である。

 その手法は,セルフヘルプしやすい症状に着目,リスト作りや症状の定量化という認知行動療法的なアプローチで治療の動機付け,患者からもアイデアを引き出すという共同作業,生活に根差した達成可能な治療計画,患者の感想や反論を聞くという患者の信頼感を得るスタンス,宿題をさせること,患者に治療が進んでいる感覚を与えるなどで,細やかな配慮を随所に交えてやさしく解説されている。読後すぐに実践できる気持ちになる。

 本書の魅力の一つは,臨場感あふれる9例の面談例である。例えば,養護教諭の指示で小児科クリニックを受診した中学生に対し,受診動機を確認させる導入から,症状や検査結果を治療意欲につなぎ,次の受診までの宿題を了解してもらうというプロセスを,一般医が日常臨床で実践できるような展開で書かれている。同席した母親への対応も忘れない。

 著者は学校や保健所での健康相談の経験が多く,他職種連携や組織を越えた地域での連携の有用性を訴えるオピニオンリーダーでもある。本書でも,医師だけでなく,栄養士,養護教諭,大学学生相談室の相談員,看護師などのさまざまな職種と患者さんとの面談の様子が掲載されており,日常,摂食障害にかかわる人なら誰にも役立つ。また,症状や言葉をなるべく具体化,数量化,可視化してアセスメントや共同作業フォーミュレーションを行う上で,付録の表やグラフは使いやすい。セルフヘルプが不適切な事態も詳しく解説され,経験の豊富さが光る。

 この診療スタイルは,治療者を気負いから生じる疲弊感や焦燥感から救うだろう。患者は治療者との共同戦線の中で,自分と自分の意見が尊重されることを知り,相談する技術を学び,試行錯誤を受容し,達成感を味わう可能性がある。診療が終わっても患者の生きるためのスキルとして残るだろう。それこそが摂食障害患者が回復するために必要なコーピングスキルである。良書である。

B5・頁232 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01044-3


がん診療レジデントマニュアル 第5版

国立がん研究センター内科レジデント 編

《評 者》佐藤 温(昭和大准教授・腫瘍内科学)

難解な領域ではじめに目を通しておきたい書

 『がん診療レジデントマニュアル』も第5版となった。初版から既に13年を数え,とても息の長い本である。いかにがん診療医に必要とされ続けている本であるかがうかがえる。私の仕事部屋の本棚にも初版から全版がそろえられている。各版の表紙の色が異なることもあり(徐々に厚くもなっている),並べると案外きれいなものである。マニア心をくすぐるのでプレミアでも付かないかなぁなどと不謹慎なことまで考えてしまう。実は大変お世話になっているので捨てられないのである。がん薬物療法を診療の主とする医師にとっては,複雑で解釈しにくいこの領域における実臨床的な内容が,非常にわかりやすく整理されているため,初めに目を通す本としては最適である。

 第3版までは,常に白衣のポケットに入れて,日常診療に当たっていた。治療方針がわからない症例に出合うとすぐ調べた。治療計画を立てて再び内容を確認した。症例を検討するときにも本マニュアルを開きながら議論した。

 第4版は,地方での学会会期中が発売日であったため,発表に来ていた医局員とわざわざ医学専門書を取り扱う書店を探して,発売日当日に購入した。まるで,人気ゲームソフトの販売みたいである。さらに,第4版は2冊所有している。別に周囲からプレゼントされたわけではない。自分のポケットから支払って購入している。実は,このとき私は,臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医の試験を受けるため,試験合格に向けて覚えるべき知識を整理するためにこのマニュアルを使用していたのである。まるで学生時代のように赤線をたくさん引いているうちに,真っ赤になってしまい,日ごろの臨床時に調べにくくなってしまったので追加で1冊購入した次第である。結論から言えば,がん薬物療法専門医を受けようとしている医師にも,ぜひお勧めしたい。膨大な知識をこれだけコンパクトにまとめている本はない。本書を読んでから,臨床腫瘍学会の教育セミナーを聴くと,理解しにくい自身の専門外の領域のがんの知識がよく頭に入る。また,携帯可能であることも大きい。この件については後述でその意味を追加する。

 自分勝手な話ばかりでなく,書評として本来の意義である内容について触れる。本書の特徴は,肺がん,乳がん,胃がん,大腸がん,肝胆膵がんといった5大がんや食道がんをはじめとする一般的ながんはもちろん,婦人科がん,泌尿器,造血器,骨盤軟部腫瘍,皮膚,頭頸部,脳腫瘍そして原発不明がんに至るすべての臓器がんの疫学,診断,臨床症状,病理分類,Staging,予後とともに治療方法が簡潔明瞭に記載されている。

 また,推奨される薬物療法のレジメンは具体的に投与方法が見やすいように表され,かつすぐにオリジナルの論文に当たれるように文献も一緒に記載されている。さらに,本書の特徴であるが,治療法に関する信頼度を★印で表現(3段階)していることにより,EBMの理解に大いに役立つようになっている。そして,版を重ねるようになってから,各論以外の,インフォームド・コンセント,薬物療法の基本概念,臨床試験,さらに副作用対策や合併症等についての内容が充実してきている。がん告知はコミュニケーションスキルに変わっているなど,その時代背景もよく反映している。つい,読み飛ばしてしまうこれらの総論的内容がかなり充実しているのである。この部分については,日ごろ病棟や,診療室で目を通すのではなく,単行本の小説を読むがごとくに読んでいただきたい。大きさもポケットサイズであり,病院との行き帰りの移動時間に読むこともできるのである。もちろん,医師に限らず,医師以外の医療者にも同様に役立つはずである。ぜひ皆さん,購入されることをお勧めする。

B6変型・頁504 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01018-4


《脳とソシアル》
発達と脳
コミュニケーション・スキルの獲得過程

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》小西 行郎(同志社大赤ちゃん学研究センター教授)

小児神経科医に示されたゴール

 まずはじめに,本書が神経内科の二人の教授によってまとめられたことに驚きと,ある種の焦燥感を覚えた。どうして「発達」を小児科医ではなく内科の先生が? しかし,そうした思いは読み進むうちに消え,この書は,われわれ小児神経科医を激励してくれていると思えるようになった。

 発達障害という問題が社会的に大きな関心を呼び,さまざまな分野で多くの人が発言している中で,神経科学的立場から発達のメカニズムをとらえ,確かな情報を発信している書は比較的少ないように思われる。しかし本書は,内科医からの視点で編集されているがゆえに,胎児・新生児からの発達過程をたどるわけではないが,発達障害を持つ子どもの脳障害を科学的に説明し,発達障害を持つ子どもへの理解をより深めるのに大変に重要な本であることを認めざるを得ない。

 共著の方々は,現在わが国においてそれぞれの分野の第一人者であり,当然ながら各章は豊富な資料と科学的な研究によって裏打ちされたものである。チンパンジーからヒトへ,小児神経学,児童精神医学,発達心理学から脳科学まで,発達障害に関係するほとんどの分野を網羅しており,「発達障害はこころの問題」という考えが相変わらず一部に根強く残り,療育の現場に混乱を招いている現在にあって,本書は貴重な1冊と言えよう。

 われわれ小児神経科医としては,本書にもろ手を挙げて降参するわけにはいかない気がするのも正直なところである。発達障害は基本的には発達過程の障害である。ゆえに,その発生メカニズムについては胎児期からの経時的な説明がなされなければならないと考えるからである。発生メカニズムが解明できなければ根本的な療育方法の構築も,子どもへの理解も進まないと考えている。つまり,本書はある意味ゴールであり,そこまでの過程の解明はわれわれ小児神経科医がなさなければならない。めざすところが本書によってはっきりと示されたことに大いに鼓舞される。

 岩田先生の温和な表情のなかに小児神経科医への激励の気持ちを感じるのは,これまで先生にお会いするたびに,優しさと厳しさを感じていたからかもしれない。いつかまたお目にかかるときまでに,発達障害の発生メカニズムの一端でも解明しておきたいものである。

A5・頁272 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00936-2


睡眠時無呼吸症候群診療ハンドブック

榊原 博樹 編

《評 者》清水 徹男(秋田大大学院教授・精神科学)

一貫したポリシーに基づいたSAS診療のノウハウを提供

 榊原博樹先生の編集による本書であるが,実は榊原先生の著書と言ってよい。というのも,本書は榊原先生自らが執筆した部分が大部分を占め,その他の部分もほとんどが先生の教室員との共同執筆によるものであるからである。そのために本書は一貫したポリシーに貫かれたものとなっている。そのポリシーとは,睡眠科学の最新の知見と日本の睡眠医療の現状を踏まえて,現実的で最良の睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome,以下SAS)に関する医療を行うためのノウハウを提供するというものである。

 本書は4部に分かれている。第I部ではSASの概念・疫学・発症機序や遺伝について最新の知見に基づく解説が加えられている。わかりやすさと科学的正確さを両立させるべく工夫が施されている。第II部ではSASの病態と臨床的諸問題を扱っている。特に生活習慣病を中心とする各種疾患との関連や,事故・医療経済などを通じてSASが社会に及ぼす影響について詳しく述べているほか,「日本のSAS診療の実態と診療連携構築の必要性」と題する項を設け,日本の睡眠医療の現状を踏まえた上で,診療連携についての榊原先生の提言がなされている。ちなみに,榊原先生には厚生労働省精神・神経疾患研究開発費による「睡眠医療における医療機関連携ガイドラインの有効性検証に関する研究」班(主任:清水徹男)の班員として睡眠医療における医療連携のあり方についてご尽力いただいている。

 第III部では,SASの診断と治療について非常に具体的な記載がなされている。特に,まだまだ不明な点の多いSASの口腔内装置による治療については,現状における最良の情報を提供している。第IV部では榊原先生の豊富な臨床経験を生かして,さまざまなSASの症例が記載されている。

 本書を,SAS診療に従事している医師,睡眠医療の現場にいるすべてのスタッフと,これから睡眠医療を志そうとしている方々に強くお勧めする。

B5・頁336 定価5,670円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01025-2


心臓突然死を予知するための
不整脈ノンインベイシブ検査

田邉 晃久 編

《評 者》杉本 恒明(関東中央病院名誉院長)

突然死を予知するさまざまな検査法について詳述

 大変興味深い本が上梓された。本書は今日,日常的に行われている体表面心電図に由来する検査記録が,突然死の予知にどこまで役に立っているのか,役立ち得るのか,現状を語り,将来を展望したものである。

 心臓性突然死の多くは電気的失調なのであるから,その前触れは心電図のどこかに潜んでいないだろうか,と考えるところである。第一に特異な心電図波形がある。QT延長症候群,QT短縮症候群,ブルガダ症候群などがこれに属し,T波変動性(TWV)もその一つである。これらを検出するためには,各種の負荷試験が行われる。

 第二には,波形に秘められた微小な信号の検出がある。加算平均心電図,ウェーブレット変換解析などである。

 第三には,トリガーとしての自律神経機能変調がある。これには,心拍数変動性,heart rate turbulence(HRT)があり,圧受容体感受性や,ティルト試験の役割もある。

 突然死予知のために,それぞれどのような評価があるのであろうか,と思いながら,本書を一読した。巻末に,「心臓突然死予知あるいは予防治療に関するガイドライン」があった。安静時心電図のエビデンスレベルはクラスAとあった。長時間心電図もQT変化やT-wave alternans(TWA)の観察のためという意味もあって,クラスAであった。クラスBには運動負荷試験,植込み型ループ心電計,平均加算心電図,心拍変動,圧受容体反射,HRTが含まれていた。

 リスク層別化のための有用性は基礎心疾患によって異なる。これらの指標が危険因子である可能性は高いものの,「治療法を選択するためのガイドとしての臨床的有用性は確認されていない」場合が多いようであった。

 本書の各項をのぞいてみる。QT延長症候群では1,2,3型のそれぞれで約1%,4-7%,14-17%の事故発生率とあった。QT短縮症候群では,34%に心停止の既往があった。ブルガダ症候群では,心室細動経験例では年10%に心事故の発生があった。心筋梗塞症例において,TWAは不整脈イベントを感度92%,陰性的中率99%で予測した。TWVを59μV以上とすると,致死的不整脈を予知する危険因子となる。

 近年,特に関心を持たれているのは,ブルガダ症候群における遅延電位やウェーブレット変換心電図などといった,いくつかの予測的要素の重なり,あるいは相互関係であった。本書では診断基準となる数値についての解説は行き届いているように思われた。

 ホルター心電図の項の基礎には,編者,田邊晃久先生の「Case Studiesホルター心電図記録中の急死例」という報告書があり,44の事例を収集したものである。前述のガイドラインでは,ホルター心電図ではQT変化やTWAの経時的観察ができる点の有用性が評価されている。ぜひ,今後,この視点からの解析もお願いしたい。

 非侵襲的検査法はコメディカルの職種の方々にもおなじみの検査法である。基準となる数値は本書に詳述されている。本法が心臓突然死を予知し,予防を工夫させるために,可能性があることを信じたい。そのためには,これらの方法の理解が一段と深まり,普及され,さらに新たな発見と追加がみられるようであってほしい。その前提として,本書が広く読まれ,多様な分野で実践されていくことを期待したいと思っている。

B5・頁312 定価7,875円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01058-0


薬の散歩道
薬理学入門

仁木 一郎 著

《評 者》柳澤 輝行(東北大教授・分子薬理学)

自然と歴史と言葉を,関連づけてたどっていく

 「知識ではなく考える力を」と訴える薬理学入門書です。インスリンの発見者バンティングは,「医学雑誌や教科書の価値はそれに含まれている情報だけによるのではなく,それが鼓舞するアイデアによる。知識それ自体には価値がない」と。この本はその具体例を示すことで,重要な概念の発展過程を基に考える力を教えてくれます。

 自然と歴史と言葉を関連付けて学ぶこと。この三者は知識としては教育の対象ですが,それ以上に最上の教師です。あとがきにも,「ものを教えるとき,最良の方法は"わかってきた順に教える"ことだ」と書かれています。その趣旨で学生に,名著『まんが 医学の歴史』(茨木保著,医学書院,2008年)を推薦してきましたが,薬物治療と神経精神系が足りないかな,と思っていました。その不足分を補完するように,本書は内科や神経精神疾患の病態解明史と薬物治療の発達過程が描写されています。関連する神経伝達物質,ホルモン,オータコイド(局所ホルモン)とその受容体,アゴニストやアンタゴニストの解明・開発史も学べます。

 章立てとキャッチがふるっています。【第1章】戦略が勝敗を分ける,【第2章】しくみがわかれば薬もできる,【第3章】そんなつもりじゃなかったが,【第4章】毒と副作用は薬の母,となっています。第3章では,間違った仮説に基づいた実験や思い違いから生まれた種々の薬の発見について大学の講義で話すと,「にわかに目を輝かせるのは.優等生とはいえない学生たちである。自分にだって,という期待が頭の片隅をよぎるのだろうか」とも述懐しています。表紙には裏木戸から木々にある道へ向かって散歩する様子が描かれ,章の裏とびらの引用句,テーマ節の最後に著者の一口メモ,1ページ立てのコラム,イメージを膨らますイラスト・写真・図表も充実していて,チャーミングな仕上がりで,つつましやかな装いの中に熱い思いが込められています。

 自分の気に入った薬物から読んで,まずは断片を記憶すればよいでしょう。もちろん断片だけじゃ困ります。体系的に知るということも必要です。でも,体系について知っても,体系的に考え行動することにはなりません。実習や複数の教科書,参考書により,視点や観点を変えて知識と判断力とを立体的にして下さい。本書のように必ずしも体系的ではない入門書で,散歩しながらふと気付くのもよいかと思います。

B6変・頁184 定価2,310円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp

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