医学界新聞

寄稿

2010.10.04

“患者中心の医療”は,連携力の醸成から

国際医療福祉大学


 医療福祉の総合大学として多彩な専門職を養成する国際医療福祉大学は,関連職種連携教育(IPE)を早期から採用し,体系的なカリキュラムを構築している。学生と教員,合わせて約1000名が,学科の枠を超えてIPEを展開するという大規模性も,同大の教育の特長だ。このたび本紙では,カリキュラムの最終段階である「関連職種連携実習」を取材するとともに,学長の北島政樹氏にインタビュー。大学が一丸となった取り組みのもようを探った。


 「片眼が見えない患者さんに,見えないほうから話しかけるととても驚かれる,ということを指摘され,ハッとしました。小さなことではありますが,自職種の仕事にも役立つスキルだと思います」

(放射線・情報科学科男子学生)

 「すごくショックを受けたのが,同じチームのメンバーの『家族の情報っていらないんじゃない?』という言葉。『患者さんに退院後,自分らしく生き生きと過ごしてもらうために,家族や家の状況を知っておくことは大切だよね』と話し,理解してもらえました」

(医療福祉学科女子学生)

 国際医療福祉大が建学の精神として掲げるのは「『共に生きる社会』を築く医療福祉専門職の養成」。病気や障害を持つ人も,健常な人も互いに尊重し合うという理念の具現化のためには,医療福祉職が連携してクライアントのQOLを高めることが必要,という考え方のもと,実施しているのがIPEだ。

 同大におけるIPEのスタートは,1999年度に開講した「関連職種連携論」。その後2006年度には「関連職種連携実習」(カリキュラム配置は03年度),09年度には「連携ワーク」が始まった。連携ワークと連携実習では,保健医療学部の6学科(看護・理学療法・作業療法・言語聴覚・視機能療法・放射線・情報科学)および医療福祉学部医療福祉・マネジメント学科,薬学部薬学科という,多様な医療専門職をめざす8学科の学生がチームを組む。

体系立てて職種連携を学ぶ

 学生はまず2年次に,関連職種連携論で連携の理念とチーム医療における職種連携のあり方を学んだのち,連携ワークで問題解決型学習に取り組む。今年度は8学科のほぼ全員,800人以上が80のグループに分かれ,与えられた事例シナリオから課題を設定し,解決策を議論。結果をまとめ,11月の発表会に備えているという。

 一方,関連職種連携実習は4年次に履修する。16か所に及ぶ附属病院・関連施設と地域の協力病院を利用,各学科から1施設あたり1-2人を募ってグループを編成,1週間の実習を行う。

写真1 歩行訓練をしていた患者さんと談笑する学生たち。臨床のスタッフ,患者さんなど多くの人とかかわる連携実習は,コミュニケーションスキルを磨く場ともなる。
写真2 図書室でのミーティング。情報の共有を行うとともに,ケアのポイントを確認し合う。
 本紙が取材したのは,国際医療福祉大病院で実習するグループ。実習2日目のこの日は,理学療法士による立位バランス・歩行訓練(写真1)や,言語聴覚士による絵カードを用いた言語機能訓練(PACE)など,普段は接する機会のない他職種の業務を体験していた。

 実習では,他職種の臨床場面に参加し,業務の理解を深めるとともに,対象患者に各職種がアセスメントを実施し,その情報を統合してサービス計画立案にも取り組む。このグループが担当する患者は,脳梗塞で左片麻痺と運動障害性構音障害が発症した70歳代の男性。退院を間近に控えている。「本人は在宅療養を希望しているけれど,奥さんの介護の負担が増える場合は施設も検討すべき」「家の2階を中心に生活することになりそう」「お風呂ではどこまで介助が必要?」など,病院スタッフから収集した情報を持ち寄って議論を進める(写真2)。

 実習が始まって日が浅いにもかかわらず,情報交換が非常にスムーズなのでその理由を聞くと,実習の前にあらかじめ模擬症例を使用した事前演習を行い,互いの職種への理解度を深めているとのこと。グループのリーダーを務めている女子学生(作業療法学科)は,「事前演習を経ることにより,実習本番でも,情報を共有すべき職種,中心となって動くべき職種が明確になり,欲しい情報を的確に得られる。自領域への知識を深めるとともに,他領域の専門用語なども前もって確認し合うことで,実習がスムーズに進んでいる」と話してくれた。

教員も,ともに成長するIPE

 教務委員長であり,同大のIPEを統括する藤田郁代氏(言語聴覚学科長)は,国際医療福祉大のIPEの特長について,実習までのカリキュラムが体系化されていること,連携ワークまでを全学生の必修課題として行っていることなどとともに,教員や臨地施設のスタッフの協力体制が確立していることを挙げた。

 例えば連携ワークでは,各学科・センターから80人以上の教員がチューターとして参加するため,指導方針を共有し,指導内容に差が生じないようにする必要がある。そこで,教務委員がメンターとなり,学科を横断したグループを編成し,教育方法や指導方法について話し合う機会を持つという。さらに連携実習では,学内の教員以外にも,臨床のスタッフ100人以上に協力を依頼している。

 藤田氏は「カリキュラムを通じて教員も教育技術や連携力を磨く。IPEは,学生のみならず教員も成長する機会となる」と明かし,今後については「他大学とも協力して,IPEのコアカリキュラムを作るとともに,IPEを指導する教員の教育力を高める活動にも取り組みたい」と話した。

 IPEを経験して「視点の切り替えができるようになった」「他職種の仕事が自領域にどうつながるかが見えてきた」と話す学生たち。職種の壁を乗り越え,互いに補い合いながら患者中心の医療を実現する――チーム医療の理念が,学生個々の意識の中に確実に芽生えてきていることを感じた。

 国際医療福祉大IPEの流れ

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