医学界新聞

寄稿

2010.10.04

互いの違いを知り,尊重し合う
柔軟性を育む“ケア・コロキウム”

筑波大学


 1977年の開学当初から,教育目標にチーム医療(註1)を掲げる筑波大。同大医学類では,近年の社会背景に即した全人的診療能力を涵養すべく,(1)PBLチュートリアル,(2)クリニカルクラークシップ,(3)医療概論,を柱とした新カリキュラムを2004年に導入した。

 このうち医療概論は「医学概論コース」(註2)として,学問としての医学だけではなく,信頼される医療人として必要な知識・技能・態度を継続的に学ぶことを目的に,1-5年次を通して設置されている。そのユニットの1つとして位置付けられているのが「チーム医療実践力育成プログラム」(図)だ。本紙では,その中心となる専門職連携教育プログラムである「ケア・コロキウム(チームワーク演習)」について,医学教育企画評価室の前野貴美氏にお話を伺った。

 筑波大医学類におけるチーム医療実践力育成プログラムの概要(左)と医学類の新カリキュラム(右)(資料1より改変)


3学類混成のグループワーク。右端がチューターを務める教員(資料1より)
 ケア・コロキウムは,筑波大医学群を構成する医学類(3年次),看護学類(4年次),医療科学類(4年次)の学生約220人を対象に,5日間にわたって行われるプログラムである。学生は3学類混成の7-8人の小グループに分かれ,あらかじめ用意されたシナリオをもとに,その問題点や解決策等についてチュートリアル方式で討論を行う。時間割は,オリエンテーション,アイスブレイク,チューターが同席し討論を行うコアタイム,学生のみで討論を行うグループワーク,質問タイムにより構成される。4日目には,グループワークの成果を発表する「全体発表」が設けられている。

教員の役割認識も重要な鍵

 初日は,オリエンテーションに続いて,アイスブレイクの時間が1時間ほど確保されている。ここからがグループ活動のスタートで,初対面の学生が打ち解けて話し合いができるように自己紹介を行うほか,チーム名やチーム内のルールを決めるグループワークを行う。「思ったことを口に出す」「人の話をしっかり聞く」「敬語を使わない」など,互いを尊重しながら率直に話し合うためのルールが,学生自身の言葉で設定される。

 コアタイムでは,3学類の教員がチューターを務める。もともとPBLチュートリアル教育をカリキュラムの柱に据えている医学類では,教員全員がチュートリアル教育やチューターの役割について,初任者研修,3年ごとの更新研修において学ぶことが定められている。このケア・コロキウムにおいても,初めてチューターを務める教員に対しては,事前に初任者研修が行われるほか,ケア・コロキウム当日には外部講師を迎え,3学類の教員を対象にワークショップ形式のFD(Faculty Development)を実施している。

 前野氏は「ワークショップにおける3学類混成のグループワークを通して,さまざまな視点があることに教員自身が気付く。学生のファシリテートにおいても,個々の視点が違うことを認識し,その違いを大事にしながら働きかけていくことが重要」と話す。こうしたチューターのきめ細かなファシリテートのもとで,コアタイムにおける討論は進められる。

職種による視点の違いを知る

 シナリオは,「末期患者の在宅での看取り」や「初発の統合失調症患者とその家族のケア」など,患者および家族のサポートに多職種がかかわる内容となっている。討論が進むにつれて時間が経過した新たなシナリオが提示されるなど,より臨場感を持って患者の問題をとらえることができるよう,工夫されている。また,話し合う過程で生じた疑問や解決策を探るために必要だと思われる情報は,「質問タイム」において,シナリオ作成者に質問する機会も与えられる。

 前述したように,同大医学類では1年次からチュートリアル学習を取り入れているため,グループ討論自体には慣れている。しかし,ケア・コロキウムでは,臨地実習を既に終え,実際の臨床現場で患者・家族をケアという視点でとらえることを学んだ看護学類の学生が議論を引っ張っていく場面も少なくない。「医学類の学生は,やはり治療の観点から患者の問題をとらえることが多い。そのため,他学類の学生の発言を聞き,さまざまな視点が必要であることに気付く。そのことで,他職種に対する尊敬の念が自然に芽生えていく」とのこと。

チームとは何か,あらためて問い直す

 ケア・コロキウムの最大の特徴は,4日目の全体発表の後に振り返りのグループワークを行い,それを「素晴らしいチームワークへの提案」としてまとめることにあるのではないだろうか。「ケア・コロキウムを通して実感してほしいのは多職種連携の素晴らしさであり,シナリオはそのための素材」と前野氏。自分たちが“チームとして”どうだったのかを振り返り,どうすればよりよいチームが形成できるのかを皆に提案する機会を持つ。チームワークについてあらためて考え,言語化し,共有していくことが重要なのだ。

 学生たちはこの作業を通して,同じ患者を前にしても,職種によってとらえ方が異なることをあらためて確認する。学生から寄せられたアンケート結果にも,「互いの専門領域を理解し合う」「自分の役割と責任を自覚する」「共通の目標を持って取り組む」「積極的に議論に参加する」など,チーム医療の核心に触れる言葉が並ぶ。

若い力が臨床現場を変えていく

 ケア・コロキウムは,2003年に短期大学から4年制大学となった看護学類,医療科学類から,医学類に対して合同プログラムの導入が提案されたことが開始のきっかけとなっている。くしくも医学類でもカリキュラムの抜本的な見直しが行われていたことから,一般的には困難である学類間のスケジュール調整は比較的スムーズだったという。しかし,準備段階では学類間で意思疎通に悩む場面も少なくなかった。

 そのようななか,2006年の開始以降ケア・コロキウムを継続して実施してきたのは,何よりも学生の反響が大きかったからだという。また,2007年に文科省の「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択されたことも,その後の発展につながる後押しとなった。さらに,専任の技術職員が18人配置されている医学教育企画評価室が,教育に関する一連の支援業務を担っていることもプログラムを支える力となっているようだ。

 今後の目標は,実際の患者のもとで演習を行うこと。臨床現場では,シナリオからは読み取ることのできない職種間の対立や患者・家族の事情など,さまざまな問題がある。しかし,その実現には高い壁もあることから,よりリアリティを持って考えを深めることができるよう,現在は映像シナリオを導入するなどの工夫も行っている。

 また,今年度からは東京理科大の薬学部の学生がケア・コロキウムに加わることになっている。現在の優れた教育効果を維持しながら,いかに300人の学生の学びにつなげていけるかが運営面の課題だ。

 異なる職種の視点を尊重しながら,目の前の問題について話し合うことによって,患者にとって最適だと思われる解決策を見いだしていく。学生時代に培った柔軟かつ広い視野は,臨床現場をも変えていく原動力となるに違いない。

註1)筑波大では「チーム活動において強調し,建設的に行動できる態度と習慣を身につける」を教育目標の1つに掲げている。
註2)「医学概論コース」は,(1)医師患者関係,(2)チーム医療,(3)地域医療(プライマリ・ケア),(4)医療安全,(5)ヘルスプロモーション,(6)医療倫理,(7)プロフェッショナリズム,という7つのユニットから成る。

資料
1)筑波大学医学群.平成19年度「特色ある大学教育支援プログラム」採択プログラムチーム医療実践力育成プログラム ケアコロキウム(チームワーク演習)――素晴らしいチームワークへの提案.2010.


前野貴美氏
1992年筑波大医学専門学群卒。河北総合病院内科,川崎医大病院総合診療部,筑波メディカルセンター等を経て,2007年より筑波大医学群医学教育企画評価室講師。医学教育カリキュラムのコーディネート,総合診療科の教育・診療・研究に従事するとともに,ケア・コロキウムのコーディネーターとして,チーム医療・専門職連携教育の推進に取り組んでいる。

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