医学界新聞

寄稿

2010.09.13

【視点】

脱ガラパゴス化を医療崩壊の特効薬に

田島知郎(東海大学名誉教授)


 この国の医療崩壊の原因は,医療をめぐってガラパゴス化現象が起こったことだ,と解釈すればわかりやすい。グローバル・スタンダードではない医業の仕組みに固執し,外部からの指摘を拒絶してきた結果,歪みが蓄積して医療崩壊に陥ったと筆者は考えている。現状で医療が辛うじて生き長らえているのは,国民皆保険制度という保護策によって未熟な医療体制と不満足な医療が隠蔽されているからである。

 事態改善に向け「医師養成数の1.5倍増」「診療報酬(入院)の引き上げ」が実行され始めているが,それぞれの無駄遣いが改善されなければ期待は持てない。単位人口当たりの医師数は20%増せば英米並みとなるが,50%増を目標としたのは国も医師力の無駄遣いを認めているからにほかならない。また医療費では,世界最多のCT・MRI,欧米の2-3倍の病床数・受診回数・放射線被曝量などが無駄遣いの証拠だ。近隣病院の機器を使えない開業医が高額機器を自前で調達することを発端に,「医師=経営者」の構図に基づく診療姿勢が国中に蔓延している。この医療の商業化を受けて医療の特質が認識されなくなり,医療者への暴力,理不尽な医師逮捕劇さえ起きている。また医療格差,低レベル医療,隠蔽体質が目立つのも,病院がオープン・システムで運営されていないためによる部分が大きい。

 このように,この国の医療諸問題は一元論的に説明が付き,その根源的な原因は医業の仕組みにある。また医師が利益相反状態に置かれることから,この国の医療にはモラル・ハザードの疑いがあり,国民皆保険制度がそれをサポートしている矛盾も大きい。

 これらの抜本的な解決のために,不合理な医業の仕組みとその問題点を直視して,医業の仕組みの脱ガラパゴス化を提案したい。すなわち開業医と勤務医の区別をやめ,すべての医師が必要に応じて,また分相応に病院診療に参加するオープン・システム制を導入することだ。根源病巣が取り除かれれば医療は改善に向かい,「医師=経営者」の構図がなくなれば医療者の倫理感が損なわれずに済み,医師と他の医療者との関係も改善されてチーム医療が本来の形になり,また看護師がチーム医療のリーダーになれば患者のトータル・ケアの理想にも近付く。

 ところが,モデルにしたい米国型の病院オープン・システム制は,米国の医療制度は不公平というイメージに埋もれたままで,また国民の多くも医業の仕組みの元凶に目を振り向けないように仕向けられている。さらに医療者までもが,「今さら変えられないから,言っても仕方がない」と呪縛状態に陥り,仕組みについて話題にすることさえはばかられている。何かを恐れて本音を交わさず,医療崩壊の根源病巣を直視する勇気がないのでは,医療者としての使命からの逃避ではなかろうか。


田島知郎
1963年慶大医学部卒。67年より米国チュレーン大に留学し,米国外科専門医取得。帰国後,東海大教授,同大東京病院長を経て2006年より同大名誉教授。本年6月に『病院選びの前に知るべきこと』(中央公論新社)を上梓し,脱ガラパゴス化による医療再生を訴えている。日本乳癌学会名誉会長。

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