医学界新聞

連載

2010.04.12

在宅医療モノ語り

第1話
語り手:24時間つながりをつくる携帯電話さん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は携帯電話さん。さあ,何と語っているのだろうか?


携帯電話と充電器と名簿
有能な道具であっても充電切れたらただのモノ。アドレス機能に頼りすぎないように連携先は一応紙媒体でも持っておく。連携病院の各科担当医表もあると便利。
 今携帯電話を持たない日本人って少ないですよね。老若男女,都会もへき地もすごい普及率です。私は医師の仕事用携帯電話ですが,24時間365日働き詰めです。携帯電話一族の繁栄によって,医師の生活もポケベル時代とは変わったんじゃないですか? ウチの持ち主は在宅医療をやっているらしく,患者さんに私の番号を教えているようです。いつもつながる安心感から,私を命綱と言われる方もおられます。電話の内容は,さまざまです。「昨夜から熱が出て,元気がない」とか「明日の訪問,時間ずらしてもらえます?」とか。「今,息が止まりました」と静かに家族がかけてくることもあります。

 もちろん,患者さんやご家族からのコールが多いのですが,看護師などの医療スタッフや,ケアマネジャーやヘルパー,施設職員,行政からのコールも少なくありません。ザイタクでは院外処方が多く,最近では調剤薬局とのやり取りも多くなりました。

 でも実際は,私からの発信も多いんですよ。例えばこの前の,84歳の寝たきりの方が肺炎になって,3日間抗菌薬を点滴したけれどよくならず,“入院がいいかな?”の雰囲気のとき。持ち主はさっと私を取り出し,まずは家族の職場に電話。入院の方向性が決まると,今度は私のアドレス帳から病院へ電話。入院が決まると関係スタッフに電話。医師が救急車に乗って病院へ搬送したので,帰りの車を呼ぶのにも電話。とにかく大活躍でした。

 最近は電話機能だけでなく,メールやカメラ,メモ,計算機の機能を使われることが多くなりました。昨日は訪問看護師さんから褥瘡の写真付きメールが送られてきました。「百聞は一見に如かず」の写メール効果です。

 ザイタクでは「多職種連携」が重要といいますが,連携って「一緒につながってがんばる」ことですよね。直接会ってつながることが大切ですが,必要なときに毎回というのは現実的には難しい。こういうときも,私たちの出番。チームの「つながり」を支えます。ただし,お預かりする情報は丁寧に扱われるべきものなので,皆さんいろいろと工夫を凝らしているようです。特にメールは簡単に転送などができる反面,誤送も起こりがちです。便利なぶん,注意が必要ですね。

 ちなみに,私は往診鞄に入れられることは少なく,持ち主のポケットに入れられたり,首にぶら下げられたり,ベッドの枕元に置かれたり,持ち主のごく近くに置いてもらえる,別格の扱いです。私は在宅医療の「つながり」の象徴であり,自分の仕事には誇りを持って24時間働き続けています。充電切れには気をつけながらですけどね。その辺りは人間さんと同じですよ。

つづく


鶴岡優子氏
1993年順大医学部卒。旭中央病院を経て,95年自治医大地域医療学に入局。96年藤沢町民病院,2001年米国ケース・ウエスタン・リザーブ大家庭医療学を経て,08年よりつるかめ診療所(栃木県下野市)で極めて小さな在宅医療を展開。エコとダイエットの両立をめざし訪問診療には自転車を愛用。自治医大非常勤講師。日本内科学会認定総合内科専門医。

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