医学界新聞

2010.03.22

第24回日本がん看護学会開催


 第24回日本がん看護学会が,古田里惠会長(静岡県立静岡がんセンター)のもと,「がんとの共生を実現する看護」をテーマに静岡県アーツコンベンションセンター(静岡県静岡市)にて開催された。近年のがんの治療法の発展に伴い,がんとともに生きる時代となっている。そのようななか,治療費の高額化や患者の失業率の増加などによる経済的な問題,高齢化などから生じる社会的な問題など,がん患者・家族を取り巻く厳しい現状が明らかになっている。

 本紙では,がん患者が安心して必要な医療を受けることのできる社会を構築するために,医療者として何ができるのかが議論されたパネルディスカッション「がん患者の生活を支える――経済とくらし」(座長=兵庫県立大・内布敦子氏,神奈川県立がんセンター・渡邉眞理氏)のもようを紹介する。


古田里惠会長
 パネルディスカッションでは,まず福田敬氏(東大大学院)が医療経済学の立場から登壇。氏は,医療現場では「医療の効率性=お金のかからない医療」と誤解されがちだが,治療や薬剤の有効性,安全性を第一優先とした上で,投入と産出を検討することが重要だと説明。さらに,総合的な費用対効果に優れる医療を選択するだけでなく,実際の診療では患者の負担も考慮に入れ,社会的に効率性の高い医療が推進されるような仕組みづくりが必要だと述べた。

 島根県は,2006年に全国初のがん対策条例を制定し,がん患者・家族,医療者,行政,県議会,企業,メディア,教育が「七位一体」となり,がん対策を進めている。看護師でもあり現在はMSWとして勤務する太田桂子氏(島根大病院)は,MSWは患者の暮らしや背景,価値観を知り,ニーズに沿った方法と療養場所の検討,合意形成のプロセスを大事にする職種であると強調。個々の患者・家族への対応を通して医療者にどのような制度やリソースがあるのかを情報発信し,市民に対しても正しい情報提供や啓発活動を行うなど,MSWの重要性を説いた。

 がん看護専門看護師の宇野さつき氏(新国内科医院)は,経済的な問題を抱え,高額な治療法をあきらめること,体調が悪くても我慢することなどを強いられた患者の事例を紹介。このようながん患者の療養生活を支えていくためには,患者・家族のニーズや経済的な問題をきちんと把握した上で負担軽減に利用可能なリソースの提供,意思決定の支援,お金をかけない療養生活の工夫など,患者・家族に寄り添ったケアの重要性を示した。

 最後に,在宅医療に取り組む蘆野吉和氏(十和田市立中央病院)が,看取りの場を地域社会に戻すことの意義について語った。氏は“畳の上で死ねない”理由のひとつとして在宅医療体制の不備を挙げ,十和田市で実践している地域緩和ケア支援ネットワークにより十和田市においてがん在宅死亡率が増加している状況を紹介。さらに,地域として家族の介護力が弱い,経済的に貧しいなどの問題も指摘し,社会保障の充実,税金の分配を変えていくなどの地域づくりの重要性を訴えた。

 各演者の発表後に行われたディスカッションでは,会場の参加者も含め,どのようなリソースや制度を有効活用すべきかなど,活発な議論が交わされ,充実した内容となった。

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