医学界新聞

連載

2010.02.08

知って上達! アレルギー

第11回
ステロイド薬を賢く使う

森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)


前回からつづく

 ステロイド……,その言葉の持つ響きには,さまざまな意味合いが感じられます。今日,副腎皮質ステロイドは自然食品の雑誌広告などで目の敵のように扱われているのもよく目にしますし,一般的にはあまり受けがよくありません。しかしその発見は衝撃的で,Hench,Kendall,Reichsteinが副腎皮質ステロイドのコルチゾールの合成により,関節リウマチの症状を著明に改善することを報告し,3人は1950年にノーベル賞を受賞しています。

症状を抑える利益と副作用リスクを比較する

 ステロイドの悪いイメージはその副作用によるものですが,その効果と副作用をはかりにかけるところが医者の腕の見せ所です。例えば,ステロイドの効果が認識されるきっかけになった関節リウマチでは,その症状軽減に大きな効果を持ちますが,病気自体を改善する,つまり,関節破壊を防いだりする効果は,抗TNF製剤やメソトレキセート®ほどには優れません。このため,他選択薬を考慮し,症状を抑える利益が副作用リスクを上回るかどうかを慎重に考えて使用する必要があります。

 対して,SLE(Systemic Lupus Erythematosus;全身性エリテマトーデス)や血管炎については全身ステロイド薬投与により生命予後が劇的に改善されるため,ある程度の副作用が想定されても積極的に使用すべきです。また,喘息・アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎については,局所ステロイド薬の効果が副作用に比して優れているため,第一選択薬に位置付けられており,積極的に使うことができます。

局所ステロイド薬は過不足なく

 局所ステロイド薬は,寛解導入のためなのか寛解維持のためなのか,その使用目的を意識し,必要時には十分な量を使うことが大切です。図に,アレルギー三大疾患にステロイド薬を1年間使用したときの投与量がどう推移するか,イメージで示しました。

 アレルギー三大疾患における1年間のステロイド薬投与量の推移(イメージ)
局所ステロイド薬を1年間にわたって調節しながら用いた使用量について,代表的なアレルギー疾患についておおよそのイメージを示した。局所ステロイド薬は,喘息は吸入ステロイド薬,鼻炎は鼻用ステロイド薬,アトピー性皮膚炎はステロイド外用薬である。ステロイド量とは,使用する局所ステロイド薬の強度・頻度・一回量を考慮した投与量を表す。

 喘息では,増悪後に高用量から始めるとすると,高用量→中用量→低用量で3か月ごとをめどに漸減していきます[例:シムビコート®(1日2回)なら「1回4吸入→1回2吸入→1回1吸入」,アドエア®なら「500→250→100」]。アレルギー性鼻炎では,鼻噴霧用ステロイドの使用は基本的にOnかOffです。花粉症のある季節など,症状のある期間は使い続けて,症状のない期間になれば中止します。悪化する季節が予測できていれば,その1週間から数週間前に使用し始めるとさらに効果的です。

 一方,アトピー性皮膚炎は複雑です。局所ステロイド薬は,その臨床効果からI群(ストロンゲスト)からV群(ウィーク)に分類されています。増悪期には,これらの中から強いものを選び,多い量を頻繁に(1日2回:朝と夕,できれば入浴後)使用するようにし,改善するにつれて,弱いものを少ない量,少ない頻度(1日1回から隔日)で使用します。量や頻度の変更は1-2週間を目安にします1,2)。症状が十分治まっていても,例えば週に1回など間欠的に使用するとよい場合もあります。

写真 アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用薬1回使用量の目安
1FTUは直径5mmのチューブ口から押し出される,成人の人指し指の先端から第一関節までの量(上)。この量が両手掌(体表面積の2%)に適量となる(下)。
 1回使用量の単位として,Finger Tip Unit(FTU)を覚えておきましょう。人指し指の先端から第一関節までチューブから押し出した量(1FTU=約0.5g)が,成人の両手のひら(=手掌2枚分=体表面積の2%)に適量といわれます(写真)。実際に試してみると,思っているよりもずいぶん多い量になりますが,これくらい塗らなければいけません。5g入りのチューブ1本を処方したところで10FTUにすぎず,典型的なアトピー性皮膚炎の増悪部には2回塗って終わりでしょう。アトピー性皮膚炎に処方する際にやりがちな失敗の「少なすぎ処方」となってしまいます。

 増悪期には,1日分として5gは必要です。多くのステロイド外用薬には30gや50g入りチューブがありますし,調剤薬局から50g入り容器で処方するのも容易です。見た目は多くても,短い期間でグッと抑えればどんどん減らせますから,問題はありません。不要な分は余らせておけばいいだけです(必要なときに使えずに再燃させるよりマシです)。

 日本から来た患者さんが持参した,多数の小さなステロイド入りのチューブをみて,米国の専門医が驚いていたことを思い出します。吸入ステロイド薬や鼻噴霧用ステロイド薬の使用率は低く,しかもステロイド外用薬の量も少なく,日本のステロイド嫌いは一般の人だけでなく医療提供者側にも感じられます。しかし,ステロイド外用薬は十分な量を処方するようにしましょう。

経口ステロイド薬の投与は短期間にとどめる

 局所ステロイド薬でコントロールできない場合は,経口ステロイド薬を検討する必要もあるでしょう。この場合,どれくらいの量をどれくらいの期間使うかについて,しっかりしたエビデンスはありません。喘息であれ,アトピー性皮膚炎であれ,例えばプレドニゾロン経口薬0.5mg/kg程度を3―7日間といった,できるだけ短期間での使用でとどめるのがよいでしょう。

 7日間以下の投与であれば,慢性の副腎抑制が問題となることはほとんどないので,漸減(tapering)することによって合計投与量を大きくする必要はなく,パシッと投与を打ち切ってもらってかまいません。当然この間にも,高用量の局所ステロイド薬は頑張って使ってもらいます。全身ステロイド薬を服用しているから局所ステロイド薬は不要,なんてことは決してありません。むしろその逆で,悪化しているのですから,たっぷり使いましょう。局所ステロイド薬でがっちりと効かせて,全身ステロイド薬からうまく離脱させていくようにします。

 アトピー性皮膚炎では,他に保湿を中心としたスキンケアや,Steroid-sparing agentとしてのタクロリムス軟膏の使用などが重要となりますが,今回はステロイド外用薬の使用に絞ってお話ししました。ステロイド薬は,寛解導入か寛解維持なのかを意識して,悪化時にはたっぷり,コントロールがついたら少なく使います。疾患の重症度把握を適切に行いながら,局所ステロイド薬を上手に使えるようになれば,アレルギー疾患治療薬の大半をマスターしているといっても過言ではありません。

つづく

註1)社団法人日本アレルギー学会アトピー性皮膚炎ガイドライン専門部会.アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2009.協和企画
註2)日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会.アトピー性皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌.2009;119(8),1515―34.

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