医学界新聞

連載

2010.02.08

レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【14回】 電解質異常へのアプローチ(前編)

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 カリウム(K)値,ナトリウム(Na)値などの電解質異常のワークアップは見落としがちです。しかしながら対症療法だけでは,思わぬ重症疾患を見過ごすことになりかねません。今回は,K値の異常(低K血症と高K血症)に対するアプローチをみていきます。

■Case

 46歳の女性。既往歴は特になし。最近になって慢性的な疲労感が日々強くなり,近医受診。筋力の低下,口渇感,不安やイライラを訴えていた。採血の結果,血清K値が2.9mEq/Lと低値であったため,Kの徐放剤を処方され服用していた。1か月後,急に起き上がれなくなり,嘔気もひどいため救急車にて来院。血圧は正常。血清K値は1.8mEq/Lであることが判明。心電図にてPVCが時々出ている。CPKは正常値であった。

Clinical Discussion

 外来受診や入院理由などにかかわらず,電解質異常をみたら「なぜそのような値となるのか」を考えなければならない。血液ガス分析を採取して酸塩基平衡を調べることは基本である(静脈血の重炭酸が計れればそれでも可)。

マネジメントの基本

低K血症
治療のポイント
1)なるべく早くKの補充を行う。血清K1mEq/Lあたり体内総K量の10%の欠乏があると言われる。四肢麻痺,横紋筋融解症,呼吸不全,不整脈を呈しているような重度の低K血症は緊急性が高く,点滴にて補充する。この際には20mEq/時を超えない速度で点滴をするように気をつける(末梢投与時は血管痛があるためあまり推奨されないが,中心静脈では早く入れすぎると右心にKを直接流し込むことになり,逆に不整脈を来すので注意が必要)。そのほか,経口製剤を服用する。40-60mEqを4-6時間おきに投与するのが比較的安全である。
2)マグネシウム(Mg)も同時に低下している場合があるので必ず血清Mgを確認し,低下していたら点滴にて補充する(経口製剤は下痢を起こすので使用は難しい)。特にアルコール依存症患者や利尿薬服用中の患者にみられる低K血症ではMgチェックは必須。
3)低K値の原因疾患を検索する。

原因検索
1)まずは細胞間シフトの除外。吸入β刺激薬はK値を低下させるが処方通り使用しているぶんには問題ないとされる。利尿薬やインスリンなどが使用されている場合には細胞間シフトに注意が必要だ。その他の原因としてはアルカリ血症,低体温など。
2)初期ワークアップ(図1)に必要な検査は尿カリウム(UK)値,尿クロール(UCl)値,24時間の尿量,血液ガス分析(pH,HCO3)。酸塩基の状態を理解するのがポイントである。UK値が<25mEq/日の場合は消化管からの喪失,UK値が>30mEq/日の場合は腎からの喪失と考える(スポットUK値で<15mEq/Lを消化管喪失性,>15mEq/Lを腎喪失性と簡単に考えることもある)。

図1 低カリウム血症へのアプローチ

高K血症
治療のポイント
⇒心電図変化,不整脈などが起きている場合には
1)心保護のためグルコン酸カルシウム(10%10mL)を3分かけて静注。効果は20-30分持続。カルシウム投与後は重炭酸は入れない(ジギタリス中毒による高K血症にはカルシウムは使わない。Mg 2gを静注する)。循環動態が不安定な場合は塩化カルシウム(10%10mLを3分かけて静注)のほうがよいとされる。
2)レギュラーインスリン10単位静注+50%グルコース(25g相当)。同時に3)を開始してもよい。
⇒緊急でない場合には
3)ケイキサレート®(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)30gを服用。注腸で60g使用してもよい。
4)フロセミドなどの利尿薬投与。
5)重炭酸(メイロン®)の使用。
6)吸入β刺激薬の使用。

原因検索
  低K血症のアルゴリズムと似ているが,違いを頭に入れること(図2)。

図2 高カリウム血症へのアプローチ


1)偽性高K血症の除外(採血での溶血,血小板増多,白血球増多,K含有点滴)
2)細胞間シフトの除外
3)GFRの評価(正常ならば4)に進む)
4)TTKGの計算(血清と尿のK値,血清と尿の浸透圧が必要)

 4)がポイントである。TTKGの検査結果次第でアルドステロンやレニンの測定をしなければならないかもしれない。ACE阻害薬やARBは測定値に影響するのでこれらは服用中止しなければならない(高K血症の原因にもなり得る)。

尿細管アシドーシスの認識
 尿細管アシドーシス(RTA:Renal Tubular Acidosis)は,尿細管の機能異常により正常アニオンギャップの代謝性アシドーシスを招く。それに伴い電解質のバランスも変化する。各RTAの特徴を表にまとめる。血清K値の異常やアシドーシスに気付いたときにはRTAを疑い,その原因疾患がないかを考える。FeHCO3は重炭酸を0.5-1.0mEq/Kg/時のペースで与えることにより重炭酸血中濃度を18-20mEq/Lに調節してから測定する。尿アニオンギャップは通常はマイナス値を示すが,I/Ⅳ型RTAの際にはポジティブ値を示す。先天性のRTAの多くは小児科疾患である。

 各RTAの特徴
  I型RTA(遠位尿細管) II型RTA(近位尿細管) IV型RTA(低アルドステロン)
血清K 低下 低下 上昇
尿アニオンギャップ あり なし あり
尿pH >5.3 <5.3** <5.3
FeHCO3 <3% >15% <3%
腎石灰化・腎結石 あることが多い なし なし
I型RTAに亜型があり,高K血症を呈することもある。
HCO3負荷にて5.3以上となる。
・尿アニオンギャップ(UAG)=(尿Na+尿K)-尿Cl
・FeHCO3=(UHOC3/PHCO3)/(UCr/PCr)
重炭酸負荷後に計測。UHCO3:尿重炭酸,PHCO3:血中重炭酸,PCr:血清クレアチニン,UCr:尿クレアチニン。

 RTAの原因疾患は多々あるが,内科医としては二次性の疾患(特にII型RTAを呈する多発性骨髄腫)を外さないことが重要である。

診療のポイント

・Kの異常値はまずは補正に努める。
・電解質異常をみたら酸塩基平衡を必ず確認する。
・原因検索のためのワークアップを必ず行う。
・RTAを見逃さない。重要な内科疾患が隠れている。

この症例に対するアプローチ

 救急室にて点滴によるKの補充を心電図モニター監視下にて行う。安定したところで心電図テレメトリにて監視できる病棟に入院とした。主な細胞間シフトの原因検索を行うもみつからない。血液ガス分析,尿量,UK値を測定。代謝性アシドーシスを呈しており,UK値は30mEq/日を超えていた。これにより腎性のK喪失を疑う。尿pHは6.2,尿アニオンギャップを調べるとプラスでありI型RTAを考えた。さまざまな原因検索の上,この患者はシェーグレン症候群と診断される稀なケースであった。

 普段多いのは利尿薬使用やアルコール依存症による低K血症であることを忘れてはならない。また高血圧を伴う場合,原発性アルドステロン症を考えること。

Further Reading

(1)Gennari FJ. Hypokalemia. N Engl J Med. 1998;339(7):451-8.[PMID:9700180]
(2)Rodríguez Soriano J. Renal tubular acidosis:the clinical entity. J Am Soc Nephrol. 2002;13(8);2160-70.[PMID:12138150]

つづく

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