医学界新聞

連載

2009.12.07

研修病院見学ルポ
~いい病院のええとこ取りをめざして~

【第8回】佐久総合病院

水野 篤(聖路加国際病院 内科)


前回からつづく

特色

総合診療科および救急外来で徹底的にWalk in患者への対処を学ぶ。
研修1年目から通年で外来研修を行い,Follow upも学ぶことができる。
外来研修のReviewが充実している。
ドクターヘリからの搬送や農村医療といった幅広い経験が可能。

Profile
病床数:821床(一般600床,ICU20床,精神科病床112床,感染症病床4床,療養型病床40床,人間ドック45床)
救急車受け入れ台数:3524台/年(2008年度,ドクターヘリを含む)
救急受け入れ人数:2万1026人(2008年度)

Opening
 見学日前日の午後9時過ぎに佐久総合病院の最寄駅である臼田駅に到着。しかしながら,駅員がいない……。これまでの見学では,宿を決めずに動いてきたが今回ばかりは焦った。というのも,駅の周りは暗く人影はほとんどない。念のため調べておいた駅近くの旅館に電話し,なんとか宿を確保することができた。見学後に知った話だが,病院に問い合わせれば,見学者のためのホテルなどを紹介していただけるとのこと。これから見学に行かれる方,事前準備なしでは少々困難が予想されるのでご注意を。翌日,朝5時半に起床し佐久総合病院に向かった。

朝のERカンファレンス
ERカンファレンス
 病院到着後,まず救急外来に向かう。そこで,研修棟に案内され,朝7時からの研修医主体のERカンファレンスに参加した。テーマは「尿が出ない」という主訴で来院した患者で,最終的な診断は末期の子宮頸癌から両側尿管浸潤した腎後性腎不全。ERカンファレンスらしく,高K血症など救急での対応を検討したものであった。参加者のうち,上級医はERの医師が一人だけという状況ではあったが,適宜フィードバックを行っていた。終了後,そのまま総合診療科のカンファレンスに移動。残念ながら見学日は1年目研修医が担当の入院患者ではなかったことから,フルプレゼンテーションを聞くことはできなかったが,ここでフルプレゼンテーションの練習を行うという。発表形式は入院患者のアセスメントプランを提示し,それについてのディスカッションを行うというものだ。さまざまな病院のカンファレンスに参加してきたが,最も一般的な形式である。一般内科や総合内科に力を入れている施設では,現病歴や既往歴に基づくディスカッションにこだわりを持ちカンファレンスを行うところが多いが,日常業務として行うには時間がかかりすぎる部分もあるのだろう。

回診
 総合診療科では3チームに分かれて回診を行う形式を採っている。スタッフの上級医は13年目と9年目の医師。6年目の医師もリーダーとなっている。筆者はリハビリカンファレンスの見学後,回診に同行させていただいた。回診では,ベッドサイドティーチングを少しの時間ではあるが行っていた。このように上級医から学びながら回れることが,やはり回診には必要だろう。

外来見学
 引き続き病院全体の見学を行い,その後総合診療科外来に移動した。外来ではスタッフの上級医が持ち回りでリーダーを担当している。当日は9年目医師がリーダーとなり,外来担当医師全員のサポートを行っていた。初期研修医は(診療所研修時を除き)2年間継続して週1回の外来を担当しており,外来での経過観察(Follow up)も上級医とともに行うことが可能,という環境である。初診後は,検査前に全症例をリーダーを中心とした上級医に相談し,検査結果をみてからさらに相談するというシステムで研修を行っている。研修医のための完成された形である。救急当直に関してもずっとWalk inの患者を診るというシステムを採っており,噂に聞いていたとおり外来に重点を置いた研修である。

 リーダーの医師のテキパキとした相談への対応には美しささえ感じられた。医師としてこのようなポジションに立つのは面白い。後期研修医が研修する際も,このようなポジションで相談を受けることは勉強になるのではないかと個人的には感じた。研修医が年間を通じてFollow upできる外来などはなかなかないシステムであり,非常に素晴らしいと考える。一方,救急車で搬送された患者についてはICUをローテーションしている間のみ診察を行い,ほとんど診る機会はないとのことだった。

 そのほか,毎週金曜日には国立国際医療センターからHIVの専門の医師が外来を担当しに来るとのこと。専門性の高い質問などもここで可能であり,筆者も横で聞いていたが,大変うらやましい環境だと感じた。ただ,県内でも長野市のような繁華街ではない地域で,HIV患者が少なからずいることには驚きを隠せなかった。

外来の振り返り(Review)
 外来終了後の午後2時前後より,その日の症例の振り返りを行う。期待して見学しにいったのではあるが,その日は残念ながら病棟急変があり上級医が参加することができず,2年目研修医2人,1年目研修医2人の計4人で振り返りをしていた。なお,上級医が参加した場合は,振り返りに基づいた課題を研修医に課してレベルアップを図ったりするとのことである。上級医にとっては大変だと思うが,このようなフィードバックの時間は教育する側にもされる側にも必要なものであろう。

 なお,当日は見学者である筆者が最年長となってしまったので,見学に来ている身分で申し訳ないがディスカッションにも参加させていただいた。時間の都合上,今回は見学できなかったが,回診チームのその日の振り返りもあるようだ。研修医からの意見でも総合診療科研修は非常に評価が高く,優れた研修システムであるようだ。また,佐久総合病院でも他科ではプレゼンテーションの練習はないという。この点はどの病院でもほぼ同じようだ。

懇親会
 佐久総合病院の医師と見学に来ていた医学生とで,研修棟で懇親会が開催されるとのことだったので,参加させていただいた。指導医から直接ゆっくり話を聞ける機会があるのはよい試みだ。医学生も全国から見学に来ており,これは学生同士の情報交換にもなり,学生からすれば願ったりかなったりな状況だろう。

聖路加国際病院との共通点
 病院の雰囲気は,聖路加国際病院と佐久総合病院では違う部分が多い印象を持ったが,やる気のある研修医はもちろん同じ雰囲気を醸し出していた。そのほかの点では,リーダーが研修医などからの質問にテキパキと答え,スピーディーに対応しているのは聖路加国際病院のチーフレジデントの対応と大きく共通する部分である。

Point!
病院として地域に密着しており,外来研修が素晴らしい!! この一言に尽きるのではないだろうか。

つづく

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