医学界新聞

連載

2009.12.07

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第9回 〕

各科コンサルテーションへの対応(2)腎臓内科での発熱の考えかた(1)

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回・次回で,慣れていないとアプローチに迷う腎臓内科領域,特に透析患者の発熱について取り上げます。日本透析医学会が行った2007年の調査では,感染症は透析患者の死因第2位です。そのため,感染症の診断・治療・予防を適切に行うことは透析患者の死亡率を減らすために非常に重要な意味を持ちます。


■CASE

ケース(1) ADL自立した55歳男性。糖尿病性腎症のため2か月前より内シャント作製の上,血液維持透析導入。2週間続く微熱,咳嗽があり,外来で気管支肺炎の診断でレボフロキサシンを投与されていたが著明な改善なく経過している。培養提出されていなかったが,フォローアップの喀痰培養でMRSA少数分離,抗酸菌染色陰性・結核PCR陰性だが,Quantiferon陽性であった。
→どのように考えるか?
ケース(2) 糖尿病性足病変にて左足趾デブリドメント後の血液維持透析中の72歳男性。術後2週間だが創部離開あり,微熱,CRP12mg/dLと高炎症所見持続している。術後3日間セファゾリンを投与されていた。創部培養からMSSA,腸球菌,プロテウス陽性。
→どのように考えるか?
ケース(3) 5年前よりIgA腎症による慢性腎不全にて血液維持透析中の45歳女性。1か月前から37℃台の微熱が出るという。詳細に話を聞くと,透析日,特に透析直後に微熱が出て,非透析日は平熱だという。そのため透析のダイアライザーを変更したところ発熱しなくなった。
→どのように考えるか?

腎不全・透析患者はなぜ感染症にかかりやすいか
 腎不全・透析患者ならではの感染防御(Host Defense)の特徴について考えます。まず尿毒症由来の免疫不全患者では,「罹患した場合重症化しやすい」「治癒するまで時間がかかる」ことの2点がポイントです。また,感染症として(1)皮膚・軟部組織感染,菌血症のリスク上昇,(2)原疾患への免疫抑制剤による日和見感染,(3)CAPD(持続的携行式腹膜透析)腹膜炎,④Biofilm形成による異物感染,の要素が絡み合うことを考慮します。

透析患者の発熱へのアプローチ
 透析患者の発熱・炎症反応高値の原因として以下のものがあります。

感染症
・透析アクセス感染:ブラッドアクセス,腹膜透析カテーテル関連
・全身臓器感染:呼吸器,尿路,皮膚軟部組織,消化器,中枢神経系,結核,真菌,ウイルス
非感染症
悪性腫瘍,膠原病・血管炎,薬剤,カラム・透析液に対するアレルギー,尿毒症
その他
MIA(Malnutrition-Inflammation-Atherosclerosis)症候群〔栄養障害,炎症,動脈硬化が相互にサイトカインと関連し悪循環を起こす状態〕

 感染症では,発熱以外の症状を基に感染臓器(特に呼吸器系,腹腔内,尿路,皮膚軟部組織)の特定を行い,また感染フォーカス不明の場合は,積極的に透析アクセス関連感染(CAPDカテーテル,ブラッドアクセス)の可能性を考えます。それ以外の感染症として,見逃されやすい偽膜性腸炎(抗菌薬暴露),結核(透析導入時),真菌感染症も考慮し,急激な肝機能障害がある場合はウイルス感染(特にB型肝炎),コントロールされていない慢性感染急性増悪(糖尿病性足病変,慢性骨髄炎など)をチェックします。

 非感染症では,悪性腫瘍(特に腎癌,肝癌),慢性腎不全の原因が膠原病(全身性エリテマトーデスやANCA関連血管炎)の場合,その活動性を確認。さらに,薬剤熱,透析機器使用と発熱の関係(透析液・ダイアライザーのアレルギー反応,血液透析装置・透析液の汚染)をチェックします。

 また,MIA症候群では長期的な栄養改善を行うことを考慮し,容量負荷・うっ血性心不全の場合,適切なDW(Dry Weight)の設定を行うことも感染予防には大切です。

慢性腎不全,透析患者の発熱の第一歩
 術後の発熱に対しては,まずFever work up 3点セット(連載第8回参照)から始めます。腎不全・透析患者は易感染性のため,特に血液培養のオーダーをためらわないほうがよいと考えます。

透析患者の敗血症
 透析患者の敗血症では,感染フォーカスは以下のようになります。

腹膜透析患者の敗血症の感染フォーカス
・腹膜カテーテル関連:CAPD腹膜炎,出口部感染
・肺炎
・尿路感染
・腹腔内敗血症(憩室炎,腹腔内膿瘍,胆道系感染)
・皮膚・軟部組織感染:褥瘡,足病変
血液透析患者の敗血症の感染フォーカス
・ブラッドアクセス関連
・肺炎
・腹膜内敗血症(憩室炎,胆道系感染,腸管虚血)
・皮膚・軟部組織感染:褥瘡,足病変
・尿路感染

呼吸器感染症のポイント
 透析患者では,体液バランスの変動により胸部X線での浸潤影の発見が遅れる可能性があること,またうっ血性心不全の治療的介入の遅れで肺炎併発のリスクが上昇することから,常に呼吸器感染症の可能性を考える必要があります。その一方で,市中肺炎の起因菌や選択すべき抗菌薬は非腎不全患者と変わりません。また,入退院を繰り返すケースでは,病院内肺炎で考慮する起因菌(緑膿菌,エンテロバクター,ESBL産生大腸菌・クレブシエラ,アシネトバクターなど)の可能性もあります。

 透析患者の結核頻度は非透析患者の10倍ともいわれ,特に透析導入6か月後に多いことが特徴です。そのため,「微熱やしつこい咳が続く」「肺炎治療に反応しない」場合には積極的に結核を疑い,喀痰や胸水から結核菌(培養,遺伝子)検出やツ反・Quantiferon陽性で診断を行います。また肺外結核も多いため,診断が困難な場合は生検が必要になったり,結核が疑われる場合,診断的治療を行うこともあります。

皮膚軟部組織感染症のポイント
 透析患者で皮膚軟部組織感染症が多い理由として,(1)糖尿病による末梢神経障害,動脈硬化による末梢循環不全から蜂窩織炎,壊死性筋膜炎,骨髄炎の頻度上昇,(2)穿刺操作に伴う皮膚バリア障害からのブラッドアクセス感染,があります。(1)では血流不全のためグラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,嫌気性菌といった多菌種が,(2)ではMRSA,MRSEなどの耐性菌が起因菌になることが多いのが特徴です。

尿路感染症のポイント
 意外に思うかもしれませんが,透析患者では乏尿・無尿ゆえに尿路感染症が多く,特に無尿での膀胱炎では下腹部不快感・悪臭の尿道分泌物などが感染症状となり,尿路症状が全くない敗血症の発症に注意が必要です。

 診断には尿細菌培養が必須ですが,安易な尿道カテーテル挿入および膀胱洗浄は感染を誘発する可能性があるため,尿路感染が鑑別に入る乏尿患者のみに行うことが大切です。

 また尿路感染症が持続する場合,成人型多発性嚢胞腎(ADPKD),多嚢胞化萎縮腎(ARCD)の嚢胞感染,感染した尿路結石の存在,細菌性前立腺炎を鑑別する必要があります。嚢胞感染では,移行性の良好な抗菌薬を最低3週間投与することが必要です(ST合剤,ニューキノロンなど)。

 尿路感染症の特殊な病型として,機能していない膀胱内に多量の膿が貯留した膀胱膿症があり,特に無尿の透析患者で原因不明の発熱時には必ず疑う必要があります。症状には,下腹部痛,悪臭の尿道分泌物,肉眼的血尿,敗血症などがあり,診断は血液培養,膀胱に貯留した膿培養により行います。治療は,膀胱留置カテーテルによるドレナージ,膀胱洗浄,抗菌薬全身投与を行います。難治例や腹腔内・後腹膜穿孔の場合,外科的ドレナージ,単純膀胱摘出術が必要になることがあります。

腎障害時の抗菌薬投与の考えかた
 ポイントは,初回投与量は腎障害のあるなしにかかわらず通常量をまず用いることです。二回目以降は一般原則として,以下のように対応します。

 Ccr(eGFR)40-60mL/分:腎排泄型の抗菌薬の1回投与量を50%に減らすが,投与間隔は変更なし。

 Ccr(eGFR)10-40mL/分:腎排泄型の抗菌薬の1回投与量を50%に減らし,投与間隔も2倍に延長。

 また,透析患者では血液透析,腹膜透析で排出される抗菌薬かどうかを必ず確認することも重要になります。

 腎障害時は,腎排泄型よりも肝排泄型の抗菌薬をできるだけ使用することが無難です。以下に肝排泄,腎排泄の抗菌薬の一覧を示します。

肝排泄型の抗菌薬
セフォペラゾン,セフトリアキソン,クリンダマイシン,ドキシサイクリン,ミノサイクリン,エリスロマイシン,メトロニダゾール,リファンピシン,サルファメトキサゾール,モキシフロキサシン,リネゾリド
・肝排泄型では透析患者でも標準量を使用可能(腎機能ごとに悩むことなし!!)。
・下線は筆者が頻用する抗菌薬。
腎排泄型の抗菌薬
アミノ配糖体,ペニシリン系,セフェム系(セフトリアキソン,セフォペラゾン以外),アズトレオナム,カルバペネム系,ニューキノロン(モキシフロキサシン以外),トリメトプリム,バンコマイシン
・腎排泄型では,1回投与量,投与間隔を腎機能に合わせて変更する必要あり。

ケースをふりかえって
 ケース(1)では肺結核が示唆されます。キノロン系抗菌薬は結核をわからなくするため,結核リスクがある患者では処方する際に注意が必要です。

 ケース(2)は難治性糖尿病性足病変による多菌種の感染が考えられます。

 ケース(3)は血液透析時の発熱物質による発熱が考えられますが,ブラッドアクセス関連敗血症も鑑別に入るため,血液培養採取は必須となります。

Take Home Message

●慢性腎不全,透析患者の発熱のアプローチを確認する。
●血液培養のオーダーをためらわず,敗血症を起こしやすい臓器とその特徴を押さえる。
●腎機能低下時の抗菌薬の投与方法を理解する。

つづく

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