医学界新聞

2009.11.16

脳神経外科の分化と統合を俯瞰する

第68回日本脳神経外科学会開催


 第68回日本脳神経外科学会が10月14-16日,京王プラザホテル(東京都)にて寺本明会長(日医大)のもと行われた。「分化と統合――我国の脳神経外科のあり方」をテーマに掲げた今回は,救急対応から長期予後管理にまで及ぶ日本の脳神経外科医の守備範囲の広さが改めて示される一方で,細分化したサブスペシャリティ分野の著しい発展も明らかとなった。本紙では,BMI(Brain Machine Interface )に関するシンポジウムのもようを報告する。


実用化が進むBMI技術

シンポジウムのようす
 シンポジウム「BMIのリハビリへの応用」(座長=阪大・吉峰俊樹氏,自治医大・渡辺英 寿氏)では,患者の「動きたい」という意思を最新技術で読み取り,リハビリに役立てようとするさまざまな試みが提示された。

 まず山海嘉之氏(筑波大大学院)が,筋肉と末梢神経から発生する微弱な電波を読み取り,体の動きをサポートするロボットスーツ「HAL」を用いたリハビリを紹介。椎間板ヘルニア手術の後遺症による両下肢不全麻痺や,脳卒中による片麻痺の患者に使用し,立つ・座る動作や歩行が大幅に改善した例を動画で示した。このスーツは現在実用化され,医療機関での利用が始まっている。さらに氏は,筋電図でなく脳血流を利用した,よりコンパクトなスーツを開発中だと話した。

 続いて牛場潤一氏(慶大理工学部)は,2種類のBMIの臨床応用について解説した。まず機能代償型のBMIでは,左手・右手・両足の運動イメージ時,そして安静時の4状態の脳波を読み取り,インターネット上の3D仮想世界「セカンドライフ」内のキャラクターを筋ジストロフィーの患者に操作させることに成功。そして機能回復型のBMIとしては,麻痺側の手の伸展イメージにより発生する脳波を読み取り,麻痺手を機械の力で伸ばす装置を開発。訓練の前後で,脳波変化・筋電図の振幅ともに大きくなり,かつ安定したという。氏は頭皮脳波を用いたBMIの利点として,比較的簡便にさまざまな疾患に施行が可能で,どの疾患にどんなBMIが有用か俯瞰的に実証できること,リハビリを阻害するような脳活動の抑制にも利用できることを挙げた。

 原行弘氏(日医大)は,脳波と同調している筋電信号を導出,その患者に最適な電気刺激を与えてニューロリハビリをサポートするパワーアシストタイプの機能的電気刺激(FES)を紹介した。この原理はすでに商品化もされているという。氏は,麻痺筋肉の使用量が脳機能の再構築を決定づけること,ある程度高負荷の運動で新生脳血管が作られることを示した上で,ニューロリハビリには少し難しい運動課題が重要と主張。片麻痺の患者も,パワーアシストFESを用いたリハビリを数か月行うことで,以前には不可能であった動きも可能になり,近赤外線分光法(NIRS)で計測すると感覚運動野の血流増加が認められたという。体性感覚入力の増加と麻痺手の随意的運動促通の相乗効果で,脳の再構築の促進が期待される。

 齋藤洋一氏(阪大)は,一次運動野(M1)への反復的経頭蓋磁気刺激(rTMS)による運動機能回復促進の試みと疼痛緩和への応用について論じた。氏は脳卒中発症後疼痛を生じている50例を検討。全例の患側M1にrTMSで刺激を行ったところ,20例で30%以上の除痛効果が有意に得られたという。さらに氏は文献も交え,脳梗塞急性期においても経頭蓋磁気刺激は安全で運動機能の回復を図れること,M1の興奮性を上げれば痛みがとれるが,それは運動機能の回復と直接はつながらないこと,従来健側の低頻度刺激が患側の回復を促進するという報告が多かったが,患側の高頻度での刺激と有意な差はないことといった知見を述べた。

 最後に酒谷薫氏(日大)より,NIRSを脳機能計測に用いたリハビリ装置の開発報告があった。装置は,運動イメージ時の脳機能をNIRSにより計測,導出した信号に基づきFESで筋肉を電気刺激するという,被験者の脳活動が被験者自身で視覚的に認識できるClosed loop方式のもの。健常被験者を対象とした検証では,運動タスク・運動イメージタスクの実行で運動野に血流増加を認め,閾値を超えるとFESが作動,肘関節の屈曲運動が誘発された。氏は,運動イメージ時の脳活動をトリガーとして筋肉を電気的に収縮することが可能であるとし,今後は検出精度なども検討しながら,リハビリに応用していきたいと語った。

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