医学界新聞

連載

2009.11.09

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第11回】 肺炎の重症度判定

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

 そろそろ,この連載も終わりに近づいてきました。今回は,重症度判定に関しては最後となる,肺炎について勉強したいと思います。小児科のcommon diseaseとして代表的な肺炎ですが,診断はともかく,重症度判定についてはきちんと整理されていない人が多いようです。成人ではPORTスコアというものが有名ですが,小児ではまた違ったアプローチが必要になります。

Case 1

 8歳男児。3日前より咳を認め,本日より発熱。全身状態は良好で経口摂取もできているが,咳がひどく数回咳き込み嘔吐があった。右下肺野にラ音を聴取したため胸部X線撮影を施行したところ,右下葉にシルエットサイン陽性の浸潤影を認めた。

Case 2

 3歳女児。1週間前より感冒症状あり,昨日より発熱。ぐったりしており,水分もあまり摂取しない。SpO2は室内気で92%,鼻翼呼吸・陥没呼吸あり,左下肺野で呼吸音の減弱を認める。胸部X線にて,左下葉の浸潤影に加え,若干の胸水を認める。

肺炎の診断

 肺炎は,鼻汁・咳嗽・発熱・呼吸苦などの症状があり,診察で胸部にラ音(crackles, rhonchiなど)や区域的な呼吸音の低下を認めた場合に疑います。この時点で,胸部X線撮影を行い,浸潤影があれば肺炎,なければ気管支炎の診断になります。原因には,年齢別に表1のようなものがあります。

表1 肺炎の原因
新生児 母体からの垂直感染→ GELi(GBS,E. coli,Listeria;連載第8回参照)
1-3か月 上記に加え,RSウイルス,クラミジア・トラコマティス,百日咳
3か月-5歳 細菌性(肺炎球菌,インフルエンザ桿菌)>マイコプラズマ
5歳- マイコプラズマ>細菌性

 発熱の原因を調べるために,「とりあえずX線」というのは,本来は望ましいことではありません。ただ,免疫不全がある場合や,脳性麻痺などの基礎疾患がある場合は,発熱以外の症状が出ないこともあり,また急速に症状が悪化することがあるので,早めに検査を行います。

 胸部X線ですが,肺炎を強く疑った場合は,できれば正面・側面の2方向を撮りましょう。まずは正面像で浸潤影やシルエットサインなど,「見えるべきでないものが見えていないか」のチェックはもちろん,右上中葉間のminor fissureなど「見えるべきものがきちんと見えているか」にも注意しましょう。見えていない場合,側面像で浸潤影がはっきりすることがあります。

肺炎の重症度判定

 肺炎もほかの徴候・疾患同様,軽症は外来治療が可能,中等症は入院,重症は場合によってはICU管理,ということになります。「重症肺炎」というといろいろな使い方があるようですが,肺炎の重症度としての「重症」は,呼吸不全を伴っているもの,と考えてよいでしょう。中等症は,中等度の呼吸促迫(連載第4回参照)を伴っているか,もしくは表2の項目のいずれかに合致する場合を指します。

表2 肺炎の入院適応(重症度でいうと中等度に当たる)
年齢:3 か月未満
内服治療に反応しない/内服が不能
免疫不全がある
循環器・呼吸器の基礎疾患があり,重症化の可能性がある
身体所見:中等度以上の呼吸促迫
胸部X 線:多葉性の浸潤影,胸水
いずれかの項目に合致する場合,中等症として入院適応となる

 脱水や呼吸促迫の場合は,中等度でも救急外来での治療に反応すれば帰宅させる,というオプションがありましたが,肺炎の場合は治療を開始してもすぐには改善しないので,中等度と判断した時点で入院とします。

OPATとは

 内服が不能,あるいは内服治療に反応しない肺炎の場合でも,外来で静注抗菌薬を使用して治療することがあり,OPAT(Outpatient Parenteral Antibiotic Therapy)と呼んでいます。半減期の長いセフトリアキソン(1日1回の使用でOK)を外来で静注し,翌日再度外来を受診させます。ある程度の改善がみられるか,内服ができるようになるまで外来での抗菌薬静注を継続します。もちろん自宅で経過観察中に呼吸促迫が増悪するような場合は,すぐ入院治療に切り替えます。炎症反応がかなり高値でも,全身状態さえ良好であればOPATで治療できるケースもあります。ただ,病院ごとに方針が異なるので,きちんと上級医と相談しましょう。また,初回の抗菌薬投与前に,忘れずに血液培養を採取しましょう。

マネジメント――Case 1

 年齢・症状より,マイコプラズマ肺炎の可能性が考えられます。現時点では軽症と考えられ,経口摂取もできていることから,まずは内服の抗菌薬での治療を開始します。マイコプラズマ肺炎に使用するマクロライド系抗菌薬は味の良くないものが多いので,薬局などで飲ませ方を指導してもらうとよいでしょう。また,咳き込み嘔吐もあるようなので,内服がうまくできず状態も改善しないようであれば,入院加療も考慮しましょう。

マネジメント――Case 2

 年齢・全身状態より,細菌性肺炎の可能性が考えられます。中等度の呼吸促迫を認め,胸水も伴っていることから,入院適応と考えられます。SpO2の低下もあるため,酸素投与も開始します。入院後,呼吸促迫が悪化していかないか,厳重なフォローが必要です。

Check!! KLRモデル

Knowledge:肺炎の重症度判定を覚えよう
Logic:入院適応に当たる要素がないかチェックしよう
Reality:内服はきちんとできるか? できなければ軽症でも入院を考慮しよう

Closing comment

 入院後のフォロー:入院後は,表1のような原因に対しての治療を行いますが,そのほかに酸素投与・吸入・輸液療法などのマネージメント/ケア(連載第2回参照)を行います。肺炎に対する治療の評価は,熱型や全身状態などでも判断しますが,重要なのは肺炎に特異的なパラメータである,呼吸促迫の程度です。そのため,入院時にきちんと呼吸促迫の状態をカルテに記載しておくことが大切です。そのほか,ラ音などの肺音についてはあまり治療の指標にはなりません。また,X線写真上の浸潤影もすぐには改善しないので,状態が悪化しない限り,入院中に再検する必要はありません。ただ,退院1週間後くらいには,X線撮影で異常所見がなくなったことを確認しておいたほうがよいでしょう。小児は頻回に発熱するので,また同じ位置に浸潤影を認めた場合,ずっとあったのか,再度出たのかを判断できなくなってしまうためです。

■COLUMN 新型インフルエンザ

 私の住む札幌では,新型のインフルエンザが大流行しています。季節性と比較して,呼吸不全を起こすケースも多いようです。報道にもあるように,不十分な量しか確保できていないワクチンをどう分配するか,患者さんが医療機関に殺到した場合どうするかなど,医学知識だけでは対処できない問題がたくさんあります。このような問題についての対処法を考える上で,経済学など,他分野の知識が役に立つことがあります。臨床現場でリーダーシップをとることの多い医師がこれらの学問を勉強することで,これからの医療をよりよいものにできるかもしれませんね。

つづく

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