医学界新聞

2009.10.05

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


標準細胞生物学 第2版

石川 春律 監修 近藤 尚武,柴田 洋三郎,藤本 豊士,溝口 明 編

《評 者》牛木 辰男(新潟大大学院教授・顕微解剖学)

現代の生命科学を理解するための格好の入門書

 本書は,1999年に発行された『標準細胞生物学』(石川春律,近藤尚武,柴田洋三郎編集,医学書院)の改訂第2版である。初版は,細胞生物学のパイオニアとしても著名な解剖学者3氏が編集を手がけたもので,実物の電子顕微鏡写真を豊富に使用しながら細胞の構造面を中心に細胞生物学の知識をバランス良く整理した医学生の教科書として,多くの人たちに愛されてきた。

 さて,今回の改訂では,編集者にさらに新進気鋭の2氏を加え,初版の方針,すなわち「細胞の生命活動は構造の上に展開される」というスタンスを守りながらも,この10年間の研究の進歩を盛り込んで,内容を刷新させている。初版とこの版を比べてみると,章の構成が全面的に組み替えられており,意欲的な改訂が行われたことがうかがわれる。

 例えば初版では「細胞内の膜小器官」としてまとめられていた小胞体,ゴルジ装置,リソソーム,ミトコンドリア,ペルオキシソームなどは,「遺伝子と蛋白質合成」「代謝とエネルギー産生」「物質の分泌・吸収・消化」というような章に組み替えられて,構造とともにその機能的な側面をより重視した内容がさらに豊富に盛り込まれている。またどの項目においても,近年明らかになった分子生物学的な側面まで,初学者でも理解しやすいように,順序立ててうまくまとめてある。

 その他,「細胞の情報伝達」や「核-細胞間物質輸送」「アポトーシス」など,随所に初版とは内容を一新した項目が見うけられ,いずれも最新で最先端の内容が簡明に述べられているのがありがたい。

 さらに,本書全体の構成の新たな点は,ところどころに差し込まれた「Advanced Studies」「臨床との接点」「Side Memo」「技術解説」などのコラムで,これにより,必要な専門用語,関連する病気,研究技法などが,立体的に理解できるようになっている。また,巻末には「医師国家試験出題基準対照表」と「医学教育モデル・コア・カリキュラム対照表」が収録され,以前からの特色である各章の「本章を学ぶ意義」とともに,医学生が本書で自学自習する上でのさまざまな便宜も図られている。

 このように,第2版は初版を大幅に改訂しながら,さらに内容を掘り下げ,この分野の教科書のスタンダードをめざした一冊と言えそうである。

 最後になったが,本書の生みの親とも言える監修の石川春律博士(元群馬大学名誉教授)が,本書の完成を待たず,校正刷りの最中に不帰の人となられた。真に残念なことではあるが,日本の細胞生物学のパイオニアとしてご活躍された博士の精神は,本書の中にとどめられて,多くの初学者の足元を照らしてくれるものと思う。もちろん,初学者のみならず,臨床医をはじめとして,細胞生物学に興味をお持ちの方が最先端の研究の動向を知る上でも,格好の書ということができるのではないだろうか。

B5・頁376 定価5,670円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00393-3


義肢装具学 第4版

川村 次郎,陳 隆明,古川 宏,林 義孝 編

《評 者》清水 順市(金沢大教授・作業療法学)

今,PT・OTに求められる知識が詰まった1冊

 本書は,改訂しながら4版を重ねている。編者の「初版の序」に書かれているように,初版が出版された17年前は義肢と装具を詳細に記載した専門書は少なく,理学療法士・作業療法士に必携となるようにまとめられた本はなかったのではないか。当時はそのような中で,総合病院の整形外科外来やリハビリテーション外来において,医師,義肢装具士,理学療法士,作業療法士が参加して「義肢装具外来」や「義肢クリニック」などと称し,実践を繰り返しながら知識を積み重ねてきたようである。そのような中から生まれた本書は,臨床家に必須な内容が十分に含まれている。

 本書には,川村次郎氏を中心に関西地域で活躍されている医師,理学療法士,作業療法士が編者として参画している。川村氏は毎年,義肢装具学会へ出席され,多くのセッションにおいて質問され,常に新しい情報を得ようとされている。その努力を続けておられる姿勢に,私自身も見習わなければならないといつも思い知らされている。

 われわれは,「義肢装具の歴史を知るため」「現在,使用されている義肢・装具の型を知るため」「一般的な知識を知るため」などの理由により専門書を必要とする。この3つの観点から本書を見ると,「現在,使用されている義肢・装具・補装具の情報を得るため」「一般的な知識を知るため」の目的に対して十分答えてくれる。その理由として,本書は改編を重ねて,今回は義肢・装具・補装具に携わっておられる41名の専門家がそれぞれの立場から詳細に記述されているからである。

 内容に触れてみると5部から構成されている。I部は「義肢装具の基礎知識」として,歩行のバイオメカニクスから義足歩行の考え方がわかりやすく述べられている。II部の「切断」では断端管理を含めたリハビリテーションの考え方が詳細に記述されている。III部の「義肢」は,義手と義足に分かれている。義手そのものの構造や部品自体はここ数十年間あまり進歩が見られないが,筋電義手においては駆動用モーターと電池が小型化および高出力化するなど大きな発展をしている。今回は筋電義手の項が新規に掲載されたのでとても参考になる。

 IV部の「装具」は臨床で遭遇する疾患,障害別に記述されて,さらに部位別など多面的である。同時に各項において臨床での装着例の写真が多岐にわたって掲載されているので大変わかりやすい。

 V部の「その他の補装具」はページの関係で詳細に掲載できなかったものと思われ,読者としてはもう少し内容を深めてほしいところである。次回の改訂に期待したい。

 最後に,多くの施設では理学療法士は義足と体幹・下肢装具,作業療法士は義手とスプリントと業務分担をして進めてきたところが多い。しかし,近年,施設内リハビリテーションから在宅・地域でのリハビリテーションへ比重が変容し,入院・入所期間が短縮化してきている。

 その上,理学療法士・作業療法士に求められる知識・技術の範囲は拡大し,「理学療法士だから義手・上肢装具はわからない,作業療法士だから義足・下肢装具は知らない」という領域分担の考えは通用しないことを思い知らされる。養成施設の教科書としてだけでなく,地域・在宅で活動している人たちの副読本として,本書を携帯することにより不足する知識を補強することが可能である。

B5・頁464 定価7,350円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00510-4


アナトミー・トレイン
徒手運動療法のための筋筋膜経線

トーマス・W・マイヤース(Thomas W. Myers) 著 松下 松雄 訳

《評 者》石井 慎一郎(神奈川県立保健福祉大准教授・理学療法学)

筋膜系の連結と全身的な運動機能との関連に迫る

 「アナトミー・トレイン」と聞いて,最初は何のことだかさっぱりわからず,解剖の語呂合わせを集めた学生向けのテキストだという認識しか持てなかった(ましてや著者がトーマス……「機関車トーマスじゃん!」)。

 たまたま,トーマス・マイヤース氏と話す機会があり,氏の解剖学的知見を知り,アナトミー・トレインの概念が理学療法士の臨床推論の幅を大きく広げてくれるものであると確信した。

 マイヤース氏は,アイダ・ロルフ博士に師事しロルフィング(Rolfing(R))と呼ばれる筋・筋膜系の徒手療法を専門的に行うロルファーとしての臨床経験を豊富に持ち,その中で経験した多くの臨床推論の理論的根拠を解剖学的手法によって解明しようとしている優れた臨床家であり,研究者である。このことが,筋膜系の連結構造に,生き生きとした躍動感のある機能的意味付けを発見できた理由だろうと筆者は考える。

 本書は身体の組織全体を結合し,機能を編成している筋膜系に焦点を当て,この筋膜系のマッピングと重力への姿勢適応に関する大きな意味を理解し,臨床応用への示唆を与えることを目的に書かれている。

 本書において注意深く書かれ,明快に図示されたアナトミー・トレインとは,頭から足まで,また中心部から末梢までを結合しながら人体を蛇行する,骨と筋膜の連結であり,また安定性と運動に必要な重力と筋力の構成を統合する連結のことである。全身に張り巡らされた筋膜系の連結については,以前から知られていた。しかし,その機能的な意味については,局所的な機能解剖の範疇にとどまるものであって,全身的な運動機能との関連について網羅されてはいなかった。この連結に関するマイヤース氏の見解は多くの点で大変興味深い。

 マイヤース氏は本書の中で,筋・筋膜の連結体をSuperficial Back Line,Superficial Front Line,Lateral Line,Spiral Line,Arm Line,Functional Line,Deep Front Lineという7つの経線で示している。さらに,これらの7つの経線は,張力帯を形成し,骨のスペーサーからなるテンセグリティーモデルという格子状の圧縮-張力複合モデルを身体内部に構築しているとし,筋膜の張力バランスの正常化が骨構造間のアライメントの正常化,ひいては重力適応のコンディションを整えることを説明している。筋膜系の連続の経線の理解は,これまで理解できなかった局所の病態の原因を全身の機能不全と関連付けて推論するときの手助けとなる知見といえる。それぞれの経線の持つ機能的意味合いと臨床的介入の事例が示されており,臨床で遭遇する症例に対する臨床推論の形成に,新しいアルゴリズムを与えてくれる。

 本書は理学療法士の臨床にとって,大変有益な一冊であると考える。

B5・頁296 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00749-8


心房細動の治療と管理Q&A 第2版

井上 博,新 博次,奥村 謙 著

《評 者》杉本 恒明(関東中央病院名誉院長)

心房細動にあらゆる角度からアプローチ

 心房細動はありふれた不整脈である。加齢に伴って現れる,避けられない種類の病態のように思える。60歳代で1%,80歳以上では5%にみられ,日本では70万人もがこれに悩まされているという。心房細動は生活の質(QOL)を損ない,心不全を悪化させる。ことに年間1-5%が脳梗塞を発症し,一方,脳梗塞症例の4分の1が心房細動に由来するといわれ,血栓の予知・予防が重要課題となっている。心房細動にはまず,薬物治療によって対処するが,これにはリズム・コントロールとレイト・コントロールとがあり,それぞれ一長一短がある。最近,これに日本でのデータが加わった。近年,カテーテル治療が良い成績を挙げるようになった。カテーテル・アブレーション治療の効果は発作性で70%以上,持続性で22-45%となっている。アブレーションは肺静脈を心房から隔離するものであり,この効果から,心房細動の病態理解のための手がかりが得られつつある。

 つまり,心房細動は日常的にみられるがゆえに,臨床医が普段の診療の対象として知っておかなければならない不整脈であり,かつ,特殊治療の選択肢があるがゆえに,少なくとも知識として病態と治療に関する最新の知見を知っておかなければならない病気なのである。

 本書は質問と回答,Q & Aという形で編集されている。9つの章について,57の質問と回答が口語体で記されている。回答にはExpert's Adviseが添えられてあり,まず,ここに結論を提示してから,解説がつく。解説もQ & Aを詳述する形になっていて,多くの図や表が添えられ,文献も適度にそろっている。本書は井上博,新博次,奥村謙3氏の,共同編集ではなくて共著である。このため,それぞれの個性がみられて,親しみやすく読みやすい。付録には,学会の治療ガイドライン,治療薬一覧,シシリアン・ギャンビットが紹介されている。

 本書は第2版となっているので,初版と見比べてみた。体裁は似ているが,初版の6章が今回は9章となっている。構成がまったく違っていて,内容も異なる別の書物になっていた。大きな違いはカテーテル・アブレーションと外科治療の章が加わったことであろう。学会が示すガイドラインには診療水準を高める効用があるが,診療は個別の症例に即したテイラード・メディシンでありたいという。そこで,本書はガイドラインを基準としながら,これに専門医としての経験と知見を交えて著述されたのであるという。

 書評を書くために勉強させられて,得られた新しい知見が多くあった。自分自身の診療のあり方に反省させられたこともあった。重ねていうことであるが,心房細動は一般臨床医が扱い方を知っていなければならない疾患である。本書は心房細動について,あらゆる角度からの疑問を発し,そして,それに答えて,全容を明らかにしている。研修医はもちろん,第一線診療医家の必読の書として広く推薦したい。

B5・頁320 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00745-0


プロメテウス解剖学アトラス 頭部/神経解剖

坂井 建雄,河田 光博 監訳

《評 者》小林 靖(防衛医大教授・解剖学)

圧倒的にリアルで,写真より細密な図

 『プロメテウス解剖学アトラス』第3巻の日本語版がついに刊行された。第1巻を初めて目にしたときの驚きが,第2巻,第3巻と手に取って開くたびに新たによみがえる思いがする。

 『プロメテウス解剖学アトラス』の極めて強い第一印象がその肉眼解剖の精細な図版によるものであることは,多くの評者の指摘しているところである。コンピュータを駆使して作成されたと聞くが,決してこれまでに多く見られたような,単純化された模式的なものではない。実物を詳しく観察した者ならば誰もが納得する,緻密なテクスチャを再現した図は,従来の図譜になかったリアルさを感じさせる。リアルであるという点は写真のほうが有利だと思われがちであるが,焦点深度に限界のある写真と異なり,本書の図はすべてにピントが合っており,描かれている構造のすみずみまで行きわたった細密な描写に圧倒される。それにもかかわらず,正確な陰影の描き方によって,絵の図譜にありがちな平面的な表現とも無縁である。この奥行きの表現は,構造の立体的な理解を容易にする。これは解剖学のみならず臨床各科においても,実地に本書を利用する読者にとって大きな利点であろう。

 第3巻の頭部のセクションは,こうした『プロメテウス解剖学アトラス』の本領が遺憾なく発揮されており,複雑な三次元的配置をとる頭部の各構造を明快にとらえることができる。例えば側頭下窩における顎動脈・神経・筋の位置関係を示した図をご覧いただきたい。これらの図版の数々は,解剖実習室において剖出半ばで途方に暮れる学生にとって力強い援軍と言ってよい。

 本書の次に重要な特徴は,概念の理解を助ける的確な模式図である。これは神経系を扱う際にとりわけ有意義である。外観上似たり寄ったりの神経組織が,部位によってさまざまな異なる機能を担っていることは,適切な伝導路の概念図と解説がなければ初学者にとって極めて理解しづらい。本書はこの点で従来のアトラスとは大きく趣を異にしていて,神経系の機能を学ぶ際にも大いに役立つだろう。

 さらに挙げておきたいのは,末梢神経の記述の豊富さである。これまでの神経解剖学の教科書は,多くの場合中枢の記述に偏りすぎていて,中枢と末梢を通した伝導路の理解に適さないものも見受けられた。本書はアトラスと名乗ってはいるが,上記の伝導路の概念図や解説が末梢神経に関しても充実している。末梢器官の細密な表現と相まって,神経系が標的器官・末梢神経系・中枢神経系を通した伝導路からなるシステムであることを,おのずと理解することができるだろう。

 こうした優れた特徴を備えたアトラスが日本語で利用できることは,とりわけ初学者にとって大きな福音である。正確な翻訳を完成された訳者と監訳者の労に敬意を表したい。

A4変型・頁432 定価11,550円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00603-3

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook