医学界新聞

2009.08.10

ナノテクノロジーが拓く新世代のDDS

――第25回日本DDS学会の話題から


 第25回日本DDS学会が7月3-4日,松村保広会長(国立がんセンター東病院)のもと東京ドームホテル(東京都文京区)にて開催された。DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)とは,治療に必要な薬物を必要な時間に必要な部位で作用させる手法のこと。長時間薬効を発揮することで治療効率を高めた徐放製剤など,すでに医療現場で普及している薬剤もあるが,近年のナノテクノロジーの進歩により病変に選択性の高い分子が開発され,特に核酸医薬や抗体医薬領域での実用化が期待されている。

 年会長講演「臨床から学ぶDDSの新しい治療戦略」では,松村氏がDDSを利用した新しい抗がん剤について報告した。抗がん剤には,氏らが1986年に発表したEPR効果を応用することができる。これは腫瘍組織の血管透過性が正常組織より亢進していることから,正常血管では漏出しにくい高分子物質が血管外へ漏れる効果のことで,漏出した高分子物質は長く腫瘍組織にとどまることが知られている。氏らは,パクリタキセルやイリノテカンといった既に実績のある抗がん剤をベースに,腫瘍組織に蓄積されやすい大きさの高分子ミセルに抗がん剤を内包したDDS製剤を開発した。これまでにマウスやラットを用い腫瘍集積性や抗腫瘍活性を確認し,現在,臨床試験を行っていると報告。そのなかで,パクリタキセル内包ミセルNK105については,近日中に胃がんの第3相臨床試験を開始すると紹介した。

 がんの薬物治療においては分子標的薬が注目を浴びているが,患者の遺伝的背景や受容体の発現状況により薬効に差があるとともに,血栓や出血,間質性肺炎といった重篤な副作用も低頻度ながら発生している。また,現在の化学療法は全身的な投与が中心となることから,患者への負担も大きい。今回,氏らが開発したDDS製剤は,腫瘍組織のみの局所への薬剤投与を可能とし,より少量で抗腫瘍効果を発揮できることから,副作用の低減といったQOLの向上が期待されている。

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