田原克志氏に聞く
制度見直しを踏まえた医学生の対応とは
インタビュー
2009.07.06
【Interview】
田原克志氏(厚労省医政局医事課医師臨床研修推進室長)に聞く
制度見直しを踏まえた医学生の対応とは
――今回の制度改正の趣旨から教えてください。
田原克志氏 |
研修のゴールは変わらない
――「見直しによって,臨床研修制度の基本理念が達成できなくなるのでは」という声も聞かれます。
田原 今回の見直しは,臨床研修の基本理念――医師としての人格の涵養とプライマリ・ケアの基本的な診療能力の修得――を前提としたものです。また,その基本理念を具体化した臨床研修の到達目標についても堅持しています。今回の弾力化で多様なプログラムが出てくることが予想されますが,2年間で到達目標を達成するという点は変わりませんので,研修の質や研修医の能力は確保されると考えています。
――外科や精神科,産婦人科などが必修から外れましたが,外れたとはいえ,これらに関連する到達目標は,引き続き残るということですね。
田原 到達目標の中には必修項目があり,入院患者を受け持ち症例レポートを提出するA疾患と,外来患者などで経験するB疾患,そして外科症例については1例以上を受け持ち症例レポートを提出することが必修になっています。どの診療科で研修するにしても,これら必修項目については必ず達成できるようなプログラムを,病院に考えていただくことになります。
――ゴールは変わらない,でもその手段に関しては病院の裁量がこれまでより認められるようになったということですね。
田原 そうです。研修プログラムの多様化によって,大学病院や地域の研修病院のプログラムが,従来よりも魅力あるものに変化すると考えています。
――今回,年間入院患者数3000人以上という指定基準が設けられました。しかし,「プライマリ・ケア能力の修得は大病院より中小病院のほうが適している」という意見も多く聞かれます。
田原 小規模でも頑張っている病院があることは理解しています。ただ,基幹型病院としての能力と質を確保するという点では,ある程度の規模があったほうがいいというご指摘がありました。その規模については,病床数のような外形的な基準も考えられますが,それよりも,入院患者数という,その病院の取り組みによって変わり得る指標を基準にするほうが適切であると考えています。そのほかに,救急医療やCPC(臨床病理検討会)の開催も指定基準に加えております。基幹型病院としての質を確保するという点で,ある程度の線引きは今後の方向性としてあり得ると思います。
――年間入院患者数が基準に達しない病院の中には,ある程度の研修医を集めている病院もあります。そういう病院はどうなるのでしょうか。
田原 経過措置として当分の間は指定を継続するという取り扱いになります。研修医の受け入れ実績のない病院については,基幹型病院ではなく協力型病院として研修を実施してもらう方向です。
――今回新たに,都道府県別の募集定員に上限を設けました。
田原 これによって「研修先が制限される」という誤解を持っておられる医学生がいます。しかし,全国の研修プログラムから選ぶことができるという点では,これまでと変わりはありません。さらに,前年度のマッチ者数を勘案したうえで募集定員を決めるという激変緩和措置も設けましたので,都市部の募集定員についても,前年度並みにはなっています。
――そもそも,これまでの募集定員とマッチ数には隔たりがありました。
田原 募集定員全体が希望者の1.3倍以上ありました。しかしながら,都市部の研修医が多い一方で地方の病院の研修医が少ないという事実があり,その改善方法のひとつとして都道府県別の上限枠を設け,また病院の募集定員にもルールを設けました。
――医学生が病院を選ぶにあたってそれほど影響はないですね。
田原 特に,来年度から研修を始める現在の医学部6年生にとっては,ほとんど変わりません。むしろ,研修プログラムの弾力化で選択肢が多くなりますので,学生さんにとって有利になるのではないかと思います。
これまでと同様の対応を
――これからマッチングに臨む医学生には,何を伝えたいでしょうか。
田原 まず,「これまでと同様の対応をしてください」と強く伝えたいと思います。研修プログラムも多様化するなか,“自分の将来をしっかりと考え,その将来にふさわしいプログラムを選ぶことが,いちばん大切”なのではないでしょうか。
そして,そのときに考えてもらいたいのが,“自分が学生時代を過ごした大学病院,あるいは学生時代を過ごした地域の臨床研修病院,そういうところのプログラムも視野に入れて検討してほしい”ということです。
――今回の見直しでも,地域全体で医師を育てるということを明確化した部分がありますが,それは厚労省としてのお願いということですね。
田原 はい。そう理解してください。
――ありがとうございました。
(了)
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