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医学界新聞

寄稿

2009.07.06

【特集】

迷える医学生のための
臨床研修プログラムの考え方,選び方


 いよいよ,2010年度のマッチングがはじまります。今回,大きく見直された臨床研修制度。見直しでは,必修診療科の変更や都道府県別募集定員など医学生に直接かかわる部分の変更がある一方で,その全体像についてはまだまだ情報不足の面があります。

 そこで今回は,各病院で研修指導にあたられている6人の先生に研修プログラムをご紹介いただき,さらに迷える医学生へのアドバイスをもらいました。研修先選びの第一歩として,先生方からのメッセージを受け取ってください。

こんなことを聞いてみました
(1)2010年度卒後臨床研修プログラムにおける変更点
(2)迷える医学生へのアドバイス
※各病院の研修プログラムの審査,募集定員の決定は7月以降のため,本稿は6月時点での“見込み”であり,今後の変更もありえます。

日下 隼人
山本 亮
前野 哲博
江村 正
西野 洋
藤沼 康樹

◆MEMO

 2010年度からの臨床研修制度の見直しは,(1)研修プログラムの弾力化,(2)募集定員や受け入れ病院のあり方の見直し,が柱。このうち,(1)の主な変更点は下記のとおり。

・必修の診療科は内科(6か月以上),救急(3か月以上)にとどめ,原則1年目に実施。
・それ以外の従来必修とされた科目(外科,麻酔科,小児科,産婦人科,精神科)は新たに「選択必修」と位置づけ,各研修医がこの中から2科目を選択。
・研修2年目には,地域医療研修(1か月以上)を必修。

 これにより,選択期間は最大12か月となる。なお,プログラムが弾力化される一方で,臨床研修の到達目標には変更がなく,到達目標で示された経験すべき検査や手技,疾患等については,どのプログラムを選んでも従来と同じように修得が求められる。

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身につけるべきは人と病気への謙虚さ

日下 隼人(武蔵野赤十字病院副院長小児科部長教育研修推進室長)


(1)当院は20年以上前から総合診療方式(いわゆるスーパーローテート)の研修を行ってきましたので,臨床研修必修化の前後でプログラムに大きな違いはなく,来年度も現在のプログラムを大きく変えることはありません。

 これまでの当院のプログラムでは,オリエンテーション3週間,内科8か月(1年次と2年次に4か月ずつ)・救命救急科4か月(1年次と2年次に2か月ずつ),麻酔科・小児科・外科各2か月,産婦人科・精神科・地域医療各1か月,選択科2か月の研修としてきました。今年度からは「内科を6-8か月とすること」と「脳神経外科か整形外科の1科を選んで1か月研修すること」の2点が変更になりました。来年度以降のプログラムは,今年の全体的な傾向を見て検討しますので,小修正はありえます。なお,今回の見直しとは関係なく昨年度から定員を12人から10人に減らしています。

(2)医師の一生は最初の2年間にかかっていると思います。この2年間に,その人なりの医師としての形ができてしまうからです。初期臨床研修は医師としての基本的姿勢を身につけるときだと私は思っています。言い方を変えれば,この時期は医師としての基礎工事の時期です。基礎工事は外から見て華やかさはありません。ついつい早くきれいな建物が建たないかと思ってしまいますが,ここで鉄筋を少なくしたり水分の多いコンクリートを使うような手抜きをしてしまうと,建物は地震のときに倒れてしまうかもしれません。

 身につけるべき姿勢は2つあります。1つは,患者さんの味方として,その心・人生を支える職業人としての確固とした姿勢であり,もう1つは疾患を科学的,多面的に徹底して分析する姿勢です。どちらにも共通するのは,人と病気への謙虚さです。この姿勢は,統合的な姿勢と分析的な姿勢,人文科学的な姿勢と自然科学的な姿勢,また母性的な姿勢と父性的な姿勢だともいえます。どれだけたくさんの技術や知識を身につけられるかを気にする人がいますが,技術も知識もこのような姿勢を通じて身についていくものです。知識や技術の有効期限は長くありませんが,姿勢=態度は一生もの。一般的に,医師は,知識や技術は自分より優れた人に学び,態度は自分より劣る人を真似しがちです。だからこそ,まず自分の足場をしっかりしたものにしていただきたいと思っています。キャリア形成はその先で考えるべきものです。

 このような姿勢を身につけることは,2年間の課題をしっかり見据えていれば,どこの病院でも可能です。どの病院にも,よき先達と反面教師がいます。与えられることを待つのではなく,よき先達のもとで自分からどんどん学ぶ人であれば,病院による差はわずかです。ただ,一人ひとりの性格は違います。たくさんのcommon diseaseの患者さんを診療することでこうした姿勢を身につけられる人もいるでしょうが,大学などで患者数がそう多くなく珍しい病気の患者さんを丁寧に診療するほうが身につきやすい人もいるでしょう。自分の性格を知り,研修したい病院がどのような機能の病院か,どのような指導をしている病院かなどをよく知った上で,研修病院を選ぶことが大切だと思います。「敵を知り,己を知れば,百戦危うからず」です。

 ところで,「common diseaseをたくさん診る」とよくいわれますが,その内実はあいまいです。学生の皆さんは「common diseaseとはどのような病気か」「common diseaseを何例診れば,どのような力がつくか」ということをきちんと考えたことがありますか? 当院の面接で,このような質問をすることはありませんが……。


自分がこうなりたいというロールモデルを見つけよう

前野 哲博(筑波大学教授附属病院総合臨床教育センター副部長)


(1)今回の研修制度見直しのキーワードは「柔軟化」だと思います。つまり,幅広い研修という基本方針は堅持しつつ,研修病院の特徴や研修医の希望に合わせて柔軟にコーディネートできる選択肢を与えられたものと考えます。筑波大学附属病院では,このコンセプトに基づきプログラムの見直しを行いました。主な変更点は以下の通りです。

*選択必修は2か月×3科,外科系と小児科は必修:必修化前から全員に対しスーパーローテーション研修を導入していた当院では,外科も小児科も経験できないことには“スーパー”ローテーションにならない,という理由でこのような形としました。その一方で,選択研修等で外科・小児科を経験している場合は,柔軟に他の診療科に振り替えられるように配慮しました。
*地域研修でブロック研修を導入:これまでの,診療所・保健所で週1回×6か月というスタイルを残しつつ,研修施設に新たに中小病院を加え,選択研修と合わせて3か月単位でブロック研修ができる選択肢を用意しました。
*選択研修の期間を9か月に延長:他の研修期間とうまく組み合わせることで,最大で合計11か月間同じ診療科で研修できるようにしました。

 このような見直しを行いましたが,強調しておきたいことは,今年とまったく同じ研修を来年受けることも十分可能ということです。今回の見直しは柔軟化であって路線変更ではないので,できるだけ幅広い領域を研修してほしいというコンセプトが変わったわけではありません。ただ,研修医のニーズは一人ひとり違いますので,それに合わせた多様なプログラムを提供できるようになりました。この多様性は,強力なコーディネート体制と豊富なネットワークを持つ大学病院の強みだと思っています。ちなみに当院では,各診療科から,上記の枠組みの中での「お勧めのローテーション例」をできるだけたくさん提示してもらい,ホームページ上で公開して,研修医の選択の参考にしてもらおうと考えています。

 もちろん,「大学病院・市中病院それぞれの特長を生かしたプログラム」というコンセプトも変えていません。これまでと同じように大学病院中心も,市中病院のほうが長いローテーションもできますので,きっと自分のニーズにあったプログラムを見つけてもらえると思います。なお,定員は83人で現在から3人増員しました。また,小児科,産科それぞれに2人ずつの特別コースを設置しています。

(2)今回の見直しは必ずしも納得できるものばかりではありませんが,これまで以上にたくさんの選択肢の中から研修プログラムを選べるようになったという点については,医学生にとってもメリットになるのではないでしょうか。見直しでは3年目以降の研修も視野に入れたキャリアデザインが提示されたわけで,そういうファクターもこれまで以上に大きくなります。一番確実なのは,自分がこうなりたいというロールモデルを見つけること。そして,その先生をじっくり観察して,じっくり話を聞くことが,キャリアデザインの一番の近道だと思います。


自分が本当にやりたいこと,自分にあったプログラムを見極めよう!!

西野 洋(亀田メディカルセンター総合診療・感染症科部長卒後研修センター長)


(1)亀田総合病院では,臨床研修必修化以前から,スーパーローテートによる2年間の初期研修を提供してきた。大学病院でのストレートの専門研修を受ける人が多数の時代であったが,卒前臨床教育の状況に鑑み,将来どの専門科に進むにしても,2年間程度は幅広く臨床医の基礎を築く必要があると考えたからである。

 2004年の臨床研修必修化は,当院の方針が追認されたものに思われ,研修プログラムを大きく変更する必要はなかったが,他施設のプログラムとの差別化を図り,当院の特徴を明確にするため,「Four T's」のコンセプトを提唱した。これは,将来の目標に沿って(Targeted),テーラーメードのローテーションを作成し(Tailored),初期研修が後期研修に有機的につながるようなカリキュラムであり(Translational),加えて,看護師,薬剤師,病院管理研修生などと横断的に学ぶ環境作りに腐心した(Transdisciplinary)。この結果,幸いにも多くの医学生から好評をいただき,以前にも増して,優秀な研修医が集まるようになった。

 さて,今回の臨床研修見直しは,十分な検証なしのあまりにも拙速な動きであり,個人的にはこれまでのプロセスに大きな疑問を抱いている。しかし,当院では,今後も厚労省の方針に準拠して,研修を提供する予定である。

 当院のプログラムとしては大きな変更は予定していない。なぜなら,卒前臨床教育の状況に大きな前進が見られないからである。ただし,これまでのFour T'sのコンセプトをバージョンアップし,「4T骨太プログラム」として提供する予定である。詳細は当院のHPをご覧いただきたい。スーパーローテート研修は当然維持した上で,幅広い臨床能力や人間力を有する骨太の医師を養成することを主眼としている。

 まず,臨床医の基礎として,救急に対処できるように,救急研修は3か月提供する。1年目は,1次と2次の救急を研修協力病院で集中的に行い,2年目は,3次救急を集中的に研修する。さらに,麻酔・集中治療科3か月を必須として,挿管や呼吸器管理ならびに集中治療を学ぶ。内科については,総合診療科3か月をコアとし,最低9か月の内科病棟研修を必須とし,基本臨床能力を修得させる。選択必修科のうち,外科2か月を必須とし,精神科,小児科も1か月は必須とする。産婦人科も1か月の研修を基本とするが,将来の目標に従って,自由選択に回すことも可能とする。地域医療研修は,家庭医サテライトクリニックと地域中規模病院の二者択一とする。継続的な外来研修(クリニック外来,救急外来)も引き続き実施し,病棟,救急,外来のすべてにバランスのとれたプログラムとなっている。募集人員については,従来どおり18人を予定している。

(2)今回の改定でプログラムの内容に全国で相当の違いが生まれるとみている。当然,研修修了時点における臨床能力にも,大きな違いが生まれるであろう。医学生の皆さんにおかれては,制度の改定に一喜一憂することなく,自分が本当にやりたいことは何か,自分に合ったプログラムはどれか,よく見極めて選ぶことをお勧めしたい。


アンテナを高く張って一見無駄なことにも積極的に

山本 亮(佐久総合病院総合診療科医長研修医教育委員長)


(1)当院の臨床研修プログラムは,「地域における第一線医療と予防医学の実践を最大の特徴とする本病院の特色を理解し,将来いずれの方向に進むにせよプライマリ・ケアを行うために必要な基本的知識,技術および態度の習得」を目的とし,新医師臨床研修制度が始まる前からずっとスーパーローテート方式を採用してきた。

 今回の見直しを受け,研修医教育委員会や医局会議等で来年度以降の研修制度をどうするかについて議論したが,「当院の研修目的は変わらないため,基本的なプログラムの変更を行う必要もなく,スーパーローテート方式を継続していくべきである」という意見が総意であった。そこで,当院では来年度以降もスーパーローテート方式を継続し,選択必修となった診療科もすべてこれまで通りローテートするプログラムとした。小児科や産婦人科希望のプログラムなど,将来の進路別コースの設定は行わず,研修医全員が同じプログラムで研修を行う。具体的には,1年次には内科(6か月),外科(2か月),麻酔科(2か月),小児科(1か月),健康管理部(2週間)をローテート。2年次は産婦人科(1か月),精神科(1か月),救命救急センター(2か月),小海分院・小海診療所(2か月),地域ケア科(2週間)をローテートし,残りの期間は自由選択とする。なお,2年間を通じて継続して行われる週に1日の総合外来研修も継続する。ここでは午前中に上級医の指導のもと内科系の初診患者を中心に外来診療を行い,午後は経験した症例を振り返るカンファレンスを行うことで研修医の外来研修を行っている。

 救急医療は,2年間を通じて上級医とともに行う救急外来での1次から2次救急研修と,救命救急センターで行う3次救急研修とを組み合わせて行う。さらに,前述の総合外来研修,麻酔科研修も救急医療研修の一部を担う。

 地域医療研修も,現在行っている小海分院・小海診療所研修を継続するが,地域医療の実際に触れてもらう機会を増やすため,期間を7週間から8週間に延長する。訪問診療を実践し,地域医療を支えるためには医療だけでなく保健・福祉との連携が重要であるということを,身をもって体験できるプログラムとしている。

 募集定員も変更せず15人を継続。当院の研修目標を理解した上で研修を希望する人に来てもらいたい。

(2)今回の見直しは大きな変更のように見えるかもしれないが,初期臨床研修の到達目標が変わっていないことに注目すべきである。そもそも新医師臨床研修制度が目標としていることは,基本的診療能力の獲得であり,この制度が始まってから,若手医師の基本的診療能力が向上していることはさまざまな調査結果からも明らかである。これが今回の見直しで後退しなければよいのだがと危惧している。

 最後に,最近はすぐに役立つ知識や技術を求める研修医が多くなっているように感じている。今すぐに役立たないことは無駄というような風潮である。しかし,今は必要でなくても医師として,さらに地域住民として今後生きていくなかで役立ったり,直接は役に立たなくても,人生の肥やしとして役立ったりすることも多くある。特に研修医時代にはアンテナを高く張って,一見無駄に見えるようなことにも積極的に取り組んでいってもらいたい。そういった「無駄」こそが未来を豊かにしてくれるのではないかと思う。


よい研修病院や研修プログラムは自分たちで作っていくもの

江村 正(佐賀大学医学部附属病院准教授卒後臨床研修センター副センター長)


(1)臨床研修必修化により,研修医は幅広い分野にわたり,共通の「専門用語」を使用しながら,情報交換できるようになった。また,忙しい研修医時代に同じ釜の飯を食った仲間が,自分の専攻科以外にも数多くいるという人間関係を構築できるようになった。これらは,従来のストレート研修では考えられなかった大きな収穫である。

 ところが,短期細切れローテートにより,ある科では仕事のきつさだけを味わい,ある科では逆に,学生実習の延長のような研修になってしまい,「仕事のやりがい」を味わうチャンスが減ってしまった。研修医は,ロールモデルをうまく見つけることができず,指導する側も将来自分の診療科に来ない研修医に遠慮し,プロ根性を叩きこむことがなかなかできなくなってしまった。このように,「医療の社会性」や「プロフェッショナリズム」の教育が不十分になってしまったのが,短期細切れローテートの弊害である。

 2010年度のプログラムであるが,当院では,将来一人前の医師として医療に貢献できるための土台作りをしっかり行えるプログラムとすることに変わりはないが,研修制度の見直しを機に,短期細切れローテートの弊害は解消したいと考えた。

 基本的にはスーパーローテート方式を継続。選択必修5科のうち,外科は3か月を1年次の必修とし,2年次に,残り4科の中から2科を選び,各2か月以上選択することにした。外科を1年次の必修としたのは,全身管理の修得に不可欠と判断したからである。2科を各2か月以上としたのは,幅広い診療能力を養うためと,短期細切れローテートの弊害を避けるためである。到達目標は多岐にわたるが,患者が持つあらゆる問題点をきちんと解決していく習慣を身につけ,24時間,夜中でも各科の医師が最低1人はいるという大学病院の教育体制をフルに生かせば,ローテートしなくてもさまざまな分野の研修が可能と考えている。

 本院の救命救急センターは1次から3次救急まで扱っており,必修の救急は従来通りである。また,診療所中心の研修を行ってきた地域医療も従来通りである。

 小児科および産科特別プログラムは各2名設置する。これらは,選択必修を2科とし,1つは当該科,もう1つは2か月以上とする。また,大学2年プログラムにマッチした人の中で,将来外科を志望する人には,外科を重点的に行うコースを設ける。

 佐賀県は募集定員合計77人に対して,上限が92人である。過去3年間の受入実績と,地域への派遣実績から,募集定員は今までと同じ人数(56人)で申請する。

(2)今回の見直しによって,医師の使命も医師を志した理由も,何ら影響を受けるものではない。将来の方向性が決まっている人は,その方向で思う存分研修し,進路が決まっていない人は多くの科を一生懸命勉強してほしい。

 よい研修プログラムや研修病院は,誰かが与えてくれるものではなく自分たちが作っていくものである。医師の社会的役割を認識した,普通の研修医が一生懸命研修し,後進にそれを伝えていく。その文化がよい研修病院を作り維持していくのである。初心に戻って,迷わずに,研修してほしい。

佐賀大病院における2010年度卒後臨床研修プログラムの一例

大学2年標準コース
1年目 2年目
内科6月 救急3月 外科3月 地域医療 選択必修2月 選択必修2月 選択科目7月
1年目必修:内科6月,救急3月 1年目選択必修:外科3月
2年目必修:地域医療1月 2年目選択必修:麻酔,小児科,産婦人科,精神科(外科を除いた4科)より2科選択(各2月以上) 2年目選択:7月


2年後,5年後,10年後を考えながら,自分にあった研修施設を

藤沼 康樹(日本生活協同組合家庭医療学開発センター所長王子生協病院卒後研修プログラム責任者)


(1)王子生協病院は東京都北区,足立区,荒川区を中心に地域に根ざした,病床数158床(一般病床109床・療養病床49床)の下町にある中小病院です。臓器別内科ではない地域総合内科(=病院総合内科+家庭医療)で外来・入院・在宅とも診ており,高齢者を中心に多彩な健康問題を扱うことが多く,さらに経済的困難など背景に社会的な問題のあるケースにも多く遭遇します。初期研修プログラムは,このような地域の中で求められる医療を含め,医師の基本となる態度・技術を学ぶ内容となっています。臨床研修必修化が始まった2004年度からは当院では以下の4つの教育コンセプトを重視しており,当院にはない診療科は大学病院や中規模病院の協力のもとで研修を行っております。

*Education for capability(学習者中心の問題基盤型学習)
*Reflective learning(振り返りとポートフォリオ作成)
*Cooperative learning(同僚,他職種と共に学ぶ)
*Mentoring(メンタリング)

 そして2年間修了時には地域に必要な医師のコンピテンシーとしての「患者中心の医療を実践し,特定の臓器に偏らず,全身を診ることができる」「高齢者や社会的・経済的弱者について深い理解があり,地域の健康維持・増進に役立てる」の基盤を獲得することが可能です。

 さて,2010年度に関しては,当院の基本的な初期研修のコンセプトは変更しない方針です。それはこれまでの人材育成のコンセプトと実績に確信があるからです。当院ではこれまでと同様,内科9か月以上,救急2か月+当直,地域(診療所研修)2か月,そして外科・小児科は当院プログラムの必修とし,これを研修の土台として他科は個々の選択に応じるという形で上記の目標に添った研修を行っていく予定です。当院にマッチするレジデントは総合医・家庭医希望者が多く,当院が関与する家庭医療後期専門研修プログラムにもスムーズに移行できます。さらに専門科に進む場合でも,医師としての基本的な姿勢・技術,さらには先進的な教育システムなどを学べるメリットは,今までと変わりません。

 厚労省は年間延べ3000人以上の入院患者数を研修病院の一つの条件として挙げており,当院は150床規模,年間2500-2700人の入院患者数で,基準を満たすことができません。1982年から卒後臨床研修を始めているという歴史,さらにマッチング率の高さ,これまでの人材育成や教育理論に裏打ちされた研修実績などからも考慮すると当院の研修プログラムは今後の地域医療・家庭医療の担い手の育成に大きな社会的役割を持っていると実感しています。しかし,入院患者数年間3000人という施設基準が満たされない以上,2010年度は移行処置として初期研修は行えますが,今後の展望は不透明です。ハコの規模だけで,特色のある教育プログラムが存立し得なくなるような状況は好ましくないのではないでしょうか。

(2)すべての研修プログラムには強み・弱みがあります。実際私たちのところでは専門科研修が他施設となるため,その間は研修サポートが薄くなり,システムとして慣れるのにも時間がかかるなどのデメリットもあります。医学生の皆さんは自分の2年後,5年後,10年後を考えながら,自分にあった研修施設を選択してください。また,基本的な姿勢・態度などは観察学習による教育効果が高いといわれていますので,病院の雰囲気・指導医や研修医の状況なども参考になると思います。皆さんがハッピーな医師生活を送ることができるよう心から願っております。

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