医学界新聞

2009.06.15

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


作業療法がわかる
COPM・AMPSスターティングガイド

吉川 ひろみ 著

《評 者》宮崎 宏興(NPO法人いねいぶる理事長)

作業の力強さと魅力を感じられる一冊

 本書についての感想を一言でいえば,「クライアント中心の作業療法を学ぼうとする者にとって,(実践の内容を)感じとりやすく・読み手にやさしい一冊」である。

 COPMやAMPSを用いた作業療法の実践に関して,背景となる理論や評価概要の説明にとどまらず,その手順やQ&Aも含めてわかりやすく,またクライアントとのかかわりにおけるアイデアも具体的に例示されているため,実践の参考となる点も多い。加えて,読み手にわかりやすいように用語説明や文献紹介が配置されていたり,用いられている挿絵も楽しく,随所に読み手に学びやすいような工夫がなされている。まるで,学ぶ者が自らの力で“読む作業”が行えるように本書が作成されているようにさえ感じる一冊である。

 私は日ごろ,地域活動や就労に関する支援を行っているが,障害を持ちながら地域社会で暮らす人々にとって,クライアント自身が希望する作業に取り組むことの大切さを日々感じる。暮らしは,住環境,食,経済,医療などの自己維持的な基本的側面から,やりがい,楽しみ,恋愛,仲間,愛着など,人生を生きているという証しのような側面まで幅広い作業が連なりをもって営まれている。日々の生活を営むことへの希望や悩みを持つクライアント,現在や将来の生活に対して希望や悩みをもつクライアント,自分の生きる意味や人生観に対して希望や悩みをもつクライアントなど,今の暮らしのあり様や,回復の“深み”によって,“どんな作業ができるようになりたいか”もさまざまである。その作業を共に考え,探していくことがCOPMで,今までの暮らしやその経験を最大限に活かして“自分の行いかたのクセ”を確認し合い,自分にとって,より少ない努力で,効率的で,安全で,自立的で,なおかつフィットする上手な行いかたを見つけていくのがAMPSである。この2つの評価法は,作業療法がクライアントにどんな援助を行うのかを実に的確に示しており,クライアント自身の力で健康になろうとすることを保障し,力づけ,作業し続けることを促進するだろう。

 著者である吉川ひろみ氏が,クライアントと共に歩む作業療法を学び実践しようとする者の苦労やコツについて常に敏感で,またご自身の経験を重ねる中から多くの知見を得られていることが随所から伝わり,氏から読者への熱いエールのようにも感じとれる。

 クライアントのできるようになりたいことを知り,クライアントと共に考え,共にチャレンジできること。また,クライアントは自身の専門家として,作業療法士は作業の専門家として,共に力を出しあってクライアントが望む健康さに向かって歩んでいく……。またその実践は,クライアントが持つ社会や役割の広がりを育み,次第に多くの仲間を作りながら,有能なチームとして成熟されていく……。そんな作業の力強さと魅力をも感じられる一冊である。

B5・頁160 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00748-1


臨床神経生理学

柳澤 信夫/柴﨑 浩 著

《評 者》金澤 一郎(国立精神・神経センター名誉総長)

神経系の医学に携わる者の必読書

 2008年11月に『臨床神経生理学』という本が上梓されたが,これは19年前に出版された『神経生理を学ぶ人のために』という題の本が進化したものである。執筆者は,神経生理学の領域において現在わが国で考えられる最強のペアである柳澤信夫先生と柴﨑 浩先生である。しかも,19年前と同様にすべてこのお二人だけでお書きになっているため,内容の統一性は見事である。

 前書は,例えば筋電図,表面筋電図,末梢神経伝導速度,誘発筋電図,脳波,体性感覚誘発電位,事象関連電位,などという神経生理学的検査の一つひとつを取り上げて解説しているのに対して,本書は一部にそれを残しながらも,「運動神経伝導検査」という項目を設けてその中でMCV,インチング法,F波などを説明したり,「中枢性運動機能とその障害の検査」という項目を作ってその中で錐体路伝導検査,H反射,T波,表面筋電図,重心動揺計測,歩行検査などを解説したりしている。つまり,一つひとつの検査が何を知るための検査であるのかを明示することにより,その意義を理解しやすくする構成になっているのである。検査法をそれぞれ独立に説明するよりも,このほうがはるかに「検査の持つ意義と限界」は理解しやすい。そのほかには「神経筋伝達の検査」「体性感覚機能の生理学的検査」「視覚機能の生理学的検査」「聴覚機能の生理学的検査」「眼球運動検査」「自律神経系の検査」「随意運動に伴う脳電位」「不随意運動に伴う脳電位」などという項目がある。そうした中に,「高次脳機能の生理学的検査」という項目があり,これは前書にはほとんど痕跡もなかったほどの新しい部分である。注目されている機能画像も含めて本書の目玉の一つと言って良いだろう。そして,後半3分の1には,前書にはない疾患別あるいは病態別の解説があるのがうれしい。ここに例えば睡眠時無呼吸症候群やチャンネル病なども取り上げられている。

 臨床神経生理学の解説書で,これほどよく練り上げられた本を私はほかには知らない。前書が328ページで本書が448ページだから,内容はたかだか1.4倍程度に増えただけと思ったら実は大間違いである。1ページの字数がおよそ1.3倍になっているから,本書全体ではなんと内容が1.8倍以上に増えている。神経系の医学に携わる者にとって必携・必読の書である。

B5・頁448 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00709-2


向精神薬マニュアル 第3版

融 道男 著

《評 者》倉知 正佳(富山大医学薬学研究部教授・精神科早期治療開発講座)

精神科薬物療法のエキスパート養成本

 このたび,第2版から7年の歳月を経て,向精神薬マニュアル第3版が出版された。本書は,そのタイトルにふさわしく,個々の向精神薬の特徴,使い方,副作用が詳しく説明されているだけでなく,薬剤の作用機序,副作用の発生機序などが,精神薬理学に深い造詣を有する著者ならではの明快さで説明されている。薬物療法については,症例報告も丁寧に紹介されているので,臨場感をもって読むことができる。

 第1章「抗精神病薬」では,「A.抗精神病薬開発の歴史」に続いて,「B.統合失調症の神経伝達物質仮説」という新しい表題で脳画像研究が追加され,グルタミン酸仮説関係が前の版より詳しくなっている。「C.抗精神病薬の種類と特徴」では,特に非定型抗精神病薬について,その選び方やせん妄に対する治療を含めて詳しく記述され,ドパミンD2受容体パーシャルアゴニストの明確な定義も述べられている。「D.抗精神病薬の使い方」は,非常に実際的・具体的で,「E.抗精神病薬の副作用」では,副作用の“症候学”,その発生機序,そして,治療法が具体的に述べられている。

 第2章「抗うつ薬(抗躁薬を含む)」では,「A.抗うつ薬・抗躁薬開発の歴史」に続いて,「B.感情障害研究の歴史とその仮説」が新しく加えられた。開拓的役割を果たした研究者の紹介は感動的でさえあり,学問は人によってつくられることがよく示されている。最近の海馬仮説についても簡にして要を得た説明がされている。「C.抗うつ薬の薬理」では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)にもそれぞれ特徴があること,「D.抗うつ薬・抗躁薬の種類と特徴」では,抗うつ薬の作用機序,適応,副作用,薬物動態と薬物相互作用が明快に述べられ,抗躁薬として,炭酸リチウム,抗てんかん薬,非定型抗精神病薬による躁病の治療,そして急性交代型の治療が説明されている。「E.抗うつ薬・抗躁薬の使い方」に続いて,「F.抗うつ薬・抗躁薬の副作用」では,副作用の発生機序について詳述され,セロトニン症候群と悪性症候群(NMS)との鑑別として,セロトニン症候群は急速に発症する(1日以内が多い)が,NMSは最低約5日かかること,セロトニン症候群では不安・焦燥が高頻度で,NMSでは,セロトニン症候群のようなミオクローヌス,腱反射亢進はまれであることが述べられている。離脱症候群についても詳しい。SSRIの賦活症候群(神経過敏,不安,焦燥など)と自殺関連事象との関係が言及されている。

 第3章「抗不安薬と睡眠薬」の「A.抗不安薬」では,ベンゾジアゼピンとGABAA受容体との関係が説明されている。「パロキセチンのみでは,投与初期では不安とパニックが悪化することがあるが,クロナゼパムを併用すると,これらの有害作用も抑えられる」ことが述べられている。「B.睡眠薬」では,睡眠薬の種類と特徴が詳しく述べられている。「エチゾラムは,脳内ノルアドレナリンの再取り込みを抑制し,3mgを3分服すれば,抗うつ作用を示す」。睡眠薬の副作用について,健忘とせん妄を中心に詳述されていて,睡眠薬の適正な使用量を守ることの重要性が指摘されている。

 本書は,精神薬理学の研究成果と臨床の実際が見事に総合された名著であり,精神科医の皆さまには,本書を座右の書として繰り返し熟読されることをお勧めしたい。処方を考えるときに大変参考になるし,処方した後でも,当該項目を読み返すならば,必ず得るところがあると思う。そうすることにより,精神科薬物療法のエキスパートになることができる。また,引用文献も豊富で,精神薬理学を学ぶ人々にとっても,非常に参考になると思う。

A5・頁496 定価5,460円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00599-9


DVD+BOOK
Beck&Beckの認知行動療法ライブセッション

古川 壽亮 日本語版監修・解説

《評 者》原田 誠一(原田メンタルクリニック東京認知行動療法研究所・院長)

かゆいところに手の届く認知行動療法のガイド

 2枚のDVDと解説書から成る本書は,認知療法を学ぶ最高の教材といえましょう。何しろDVDの内容がすごい。認知療法の創始者アーロン・ベックと,彼の娘で次世代の旗手であるジュディス・ベックの初回面接が合わせて3セッション収録されており,認知療法の進行をじかに見ることができるのです。

 またジュディス・ベックの面接の前後には,彼女と2人の精神療法家との対談が入っていて,DVDに収録されている面接に関するジュディス・ベック自身の解説も聞けるよう工夫されています。

 3セッションに登場するクライアントとその相談内容には,共通点があります。3人はいずれも子どものいる20-30代の主婦で,家庭内に強い葛藤(夫,母親,子ども)を抱えており,周囲とのコミュニケーションがうまくいかず悩んでいます。そうしたなか,「自分」「他者」「コミュニケーション」などに関する認知が偏ってしまい,強い不安・抑うつ状態に陥り絶望感にさいなまれている。こうしたクライアントに対して,ベック親子がどのように面接を構造化し各種技法を用いて介入するか,そしてクライアントがどのように変化していくかをつぶさに観ることができます。認知療法の実施に必要な面接の構造化や介入技法の実際の用い方を元祖・認知療法家のお二人が目の前で見せてくれるのですから,こんなぜいたくな学びの機会はないでしょう。

 このほかにも,ベック親子の面接から学び楽しめる余得がいろいろあります。お二人は,風貌も面接に臨むスタイルもそれほど似ていないように見受けられます。お父さんは(年をとってからの)俳優ジョージ・チャキリスと囲碁の石田芳夫九段を足して二で割ったような風貌で,クライアントに傾聴しつつゆったり物静かに語りかけるスタイルです。一方のジュディス・ベックは,女優ジェーン・フォンダと田中真紀子を足して二で割ったような感じで,頭の回転が速く語り口もまた速めです。二人の面接を通じて認知療法の共通基盤が明らかになるのと同時に,その多様性も示唆されているように感じられます。また,お二人の対応がクライアントとややかみ合っていない場面や,応対の仕方に疑問が残るところも散見されるようで,そうした部分もまた読者をさまざまな形で刺激してくれます。

 さらに本書の価値を大きく高めているのは,日本語版監修・解説を担当しておられる古川壽亮先生作成の秀抜な「解説書」です。この解説書は3部構成で,DVDに出てくる諸場面を引用しながら「認知行動療法の基本原理」を具体的にわかりやすく解説している第1部,3つの面接の原文・日本語訳に加えて,「当該の面接の箇所で何が行われているか」を説明する「注釈」がついている第2部,「認知療法尺度」と古川先生の手による「認知行動療法についてよくある質問」が読める付録,から成っています。かゆいところに手の届く懇切丁寧なガイドであり,古川先生の認知療法に関する該博な知識と豊かな経験,この仕事に傾けられた強い情熱,融通無碍の域に達しておられる語学力の3者が合体して初めて生まれた力作です。認知療法に興味を持つ人すべてに贈られた,古川先生からの最高のプレゼントといえましょう。最高の素材を最高のシェフが調理したこの一品を楽しまない手はありませんよ,と読者の皆さまを誘惑して筆をおかせていただきます。

四六変・頁204 定価9,975円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00650-7


脳脊髄のMRI 第2版

細矢 貴亮,宮坂 和男,佐々木 真理,百島 祐貴 編

《評 者》青木 茂樹(順大教授・放射線医学)

スタンダードな教科書として第一にお勧めしたい書

 脳と脊髄という中枢神経系を扱った磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)の教科書として定評のあった『脳脊髄のMRI』の改訂版がこのほど出版された。見開き2ページ(あるいは4ページ)の安易な“症例集”が多い中で,教科書としての体裁を保った非常にオーソドックスな作りが継承されている。初版も手元にあるが,ちょうど10年前の1999年3月に,山口昮一先生と宮坂和男先生の編集で,“北日本からの著者”を中心に執筆されている(初版序文参照)。その後は,北日本からのこの領域の出版も数多くなったことからか,今回は広く著者を求められており,編者にも山口先生の後任として編集代表に細矢貴亮先生,編者としては佐々木真理先生,百島祐貴先生が加わり,さらに強力な布陣となっている。

 扱う領域についてであるが,最近日本では,脳脊髄という組み合わせの教科書より,脳だけあるいは脳と頭頸部のものや,脊椎・脊髄を骨軟部に組み入れられているものを見るようになった。脳の知見が増え,脳と脊髄だとボリュームが多くなりすぎるためもあるかと思われる。確かに脳だけであれば,500ページの同程度の本もあるが,脳脊髄で本文780ページは大著である。この点でも,この教科書は欧米で確立した分野である神経放射線の領域を忠実に守っている。“神経放射線”の教科書と言えば,Anne G. Osbornの『Diagnostic Neuroradiology』(Mosby1994)が名著として名高い。本書も腫瘍の記載組み立てや脊髄を含む点など,Osbornの教科書を意識していると思われる。ところがOsbornはその後,多数の著者での症例集的な教科書に移行してしまい,さすがに1994年出版だと,画像,記載が古いところもあるため,スタンダードな教科書としてお勧めしにくくなっていた。

 本書の基本的枠組は初版を踏襲しており,Part I「脳:脳解剖,読影法,脳腫瘍,血管障害,外傷,感染症,脱髄・変性,新生児・小児,水頭症,てんかん,神経皮膚症候群」,Part II「脊髄」と連なる順序もほとんど変わらない。この10年での進歩を踏まえて,初版時点では新しい試みであったと思われる“無症候性の深部白質病変”と“MRIで注目されたその他の病態”の2つの章は血管障害などそれぞれ対応する章の中へと組み込まれ,より教科書らしい構成となっている。枠組みは変わらないが,この10年間の進歩は十分に取り入れられており,解剖はすべて3T MRIのものとなり,拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging: DTI)での白質解剖も示されている。脳腫瘍分類や白質病変の分類も最新のものが示されている。

 この大著を編集・執筆された先生方の努力に敬意を表するとともに,本書をこれから神経放射線をじっくり学ぼうとする方に,和書のオーソドックスな教科書としてまず第一にお勧めしたい。

B5・頁800 定価14,700円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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