医学界新聞

連載

2009.06.08

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第6回】 呼吸促迫のマネジメント(3)
上気道閉塞その2:重症度判定の特例

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

第2-5回で,重症度判定について学んできましたが,特例があります。それは,「診断がついたら,その時点で重度と考えられる」というものです。つまり,診断がついた,あるいは疑われただけでも,1時間以内にアクションを起こさないと死亡あるいは後遺症のリスクがあるという疾患です。今回説明する,上気道閉塞を来す疾患群がその代表的なものです。いつ遭遇するかわかりませんので,しっかり勉強しましょう。

Case1

 1歳男児。自宅で兄と遊んでいて,突然苦しみ始めた。泣きながら両手でのどを押さえている。SpO2:96%,吸気時喘鳴を認める。

Case2

 4歳女児。本日からの発熱。ぐったりしてきたため来院。上半身を前傾させて口からよだれを流している。SpO2:95%だが吸気時喘鳴が著明。

急性上気道閉塞の鑑別診断

 クループ症候群については,前回述べたように診断は難しくはありません。今回説明する疾患については,すぐに診断することができず,かつ患者の状態が急速に悪くなるという点が異なっています。言い換えれば,病態としては上気道閉塞だがクループ症候群とは違う,あるいはクループ症候群としては悪化が急速で,かつ状態が重篤なものが今回の対象になります。特に重要な5つについて,以下で説明します(表)。

 急性・重篤な上気道閉塞の原因

 急性喉頭蓋炎(Acute epiglottitis)は,インフルエンザ桿菌によって起こります。上気道の玄関である喉頭蓋が腫脹し,気道がほぼ完全閉塞します。頸部側面X線で喉頭蓋の腫脹(Thumb sign)をみとめます。泣くことによって悪化することがあるため,この疾患を疑った場合は診察・処置は最低限にとどめ,耳鼻科・麻酔科に連絡して手術室へ移送し,全身麻酔下に気管内挿管あるいは気管切開を行います。気道確保さえできれば,抗生剤の使用により数日間で軽快します。

 扁桃周囲膿瘍(Peritonsillar abscess)は,片側の扁桃に膿瘍が形成され,咽頭の診察時に口蓋垂が対側に偏位します。耳鼻科での穿刺排膿が必要になります。これに対して咽頭後壁膿瘍(Retropharyngeal abscess)は,位置的に膿が気管内に流入してしまう可能性があるため,手術室で気管内挿管をした上での切開排膿が必要になります。

 細菌性気管炎(Bacterial tracheitis)は,名前が似ていますが,「気管支炎」とは異なります。気管支炎は通常ウイルスによって起こりますが,気管炎は細菌によって起こり,多くは黄色ブドウ球菌が原因です。気管内に多量の喀痰が出て,上気道閉塞を起こします。診断については,疑ったら原則的には気管内挿管とし,多量の痰の排泄があること,もしくは内視鏡で直接気管の状態を確認することで確定します。この疾患の概念は比較的新しいもののようですが,近年発生率が増加しているといわれています。

 異物誤嚥(FBA: Foreign body aspiration)は,急に発生した上気道閉塞については必ず考慮しなければなりません。まずはABCを確認し,背部圧迫あるいはハイムリッヒ法で異物の除去を試みますが,それで無理なら喉頭鏡とマギール鉗子を用いた直視下での除去,あるいは異物が奥に進んでしまっている場合は手術室にて全身麻酔下に除去します。大きさによっては,喉頭部あるいは声門下で完全閉塞してしまうことがあるので非常に危険です。また,ピーナツの場合,アラキドン酸カスケードを惹起し,喘息のような状態になることもあります。多くは乳児ですが,3歳以上の幼児,場合によっては「こんな年齢で何でこんなものを飲んだの?」と思うような年齢の児もいます。精神発達遅滞がある場合は,特に注意が必要です。逆に年齢が小さすぎる場合も注意です。ものを自分で口に入れられないような年齢の場合は,兄弟などが入れてしまった,あるいは虐待も考慮に入れなければなりません。

疑ったらすぐにアクション!普段からシミュレーションを

 これらの疾患を疑ったら,あとは時間との勝負です。へき地などにおいて,一人で対処しなければいけない場合は,何をどこまでやるか,どこに搬送するかなど,非常に難しい判断をしなければならないことになります。読者の多くは学生あるいは研修医の方々だと思われますので,たいていは総合病院での研修中にこれらの疾患に遭遇することになるでしょう。その場合は,関連各科との連携が必要になります。教科書に,「気管切開を行う」「内視鏡にて摘出する」などと書かれていても,それを自分でできるわけではありません。指導医や関連各科への連絡方法とタイミング,手術室への移送の方法とそれまでにすべきこと,そしてもちろん患者さんの状態の安定化など,普段から頭の中で,あるいは実際に動いて確認しておく必要があります。

マネジメント――Case1

 異物誤嚥を疑いX線撮影を施行,コインが縦になった状態で気管内につまっている所見あり。麻酔科に連絡し,すぐに手術室にて内視鏡的に除去。

マネジメント――Case2

 喉頭蓋炎が疑われる。泣くと喉頭蓋の腫脹が悪化する可能性があるので,厳重なモニタリングの上で点滴も施行せずにすぐに耳鼻科医・麻酔科医に応援を要請。手術室へ移動し挿管あるいは気管切開にて気道を確保。

Check!! KLRモデル

Knowledge:致死的な上気道閉塞の鑑別診断を覚えよう
Logic:すぐにバイタルをチェック。病歴聴取と診察は最小限に
Reality:関連各科の緊急連絡方法,救急外来から手術室までの流れを確認しよう

Closing comment

 めったに診ない疾患ではありますが,いずれも致死的であるという点で,今回の疾患群については普段からそのマネジメントをしっかり確認しておく必要があります。実際に患者さんが来てから調べても間に合わないので,使用する薬剤の量・器具のサイズなどを暗記し,関連各科への連絡方法(特に夜間),救急外来での動き方など,頭の中でシミュレーションしておかなければなりません。「自分の当直のときに来ませんように……」と願うのもいいですが,いざ来てしまったら「よし! シミュレーション通りやろう!」と思えるくらい,普段から心の準備をしておくほうがよいでしょう。

■COLUMN 女性の小児科医

 女性研修医の皆さんが抱える問題の中で,「結婚・妊娠・出産」に関するものは大きなウエイトを占めるのではないでしょうか。小児科は女性医師の割合が高い科だと思うのですが,当直などの問題もあり,常勤として働き続けることには多くの困難があるのではないかと思います。しかしながら,自分の家庭での経験は,小児科医にとって非常にプラスになります。小児科医の「うちの子もそうだったから,心配ないですよ」の一言は,新米のお母さんたちにとっては大きな安心になるのです。

 実際,僕の妻も小児科研修医なのですが,3人の娘を育てながらパートタイマーとして仕事を続けています。女性の小児科医が無理なく働ける仕組みを作っていく必要がありますね。もちろん,男性が育休をとってもよいと思うのですが,僕にとっては3人の娘との格闘のほうが,ある意味「集中治療」です……。

つづく

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