漢方外来における診察,診療補助の実際(1)(小池理保)
連載
2009.05.25
漢方ナーシング
第2回
大学病院を中心に漢方外来の開設が進む今,漢方外来での診療補助や,外来・病棟における患者教育や療養支援で大切にしたい視点について,(株)麻生 飯塚病院漢方診療科のスタッフと学んでみませんか。
五感を駆使しながら患者さん全体をみるという点で,漢方と看護は親和性が高いようです。総合診療科ともいえる漢方診療の考え方は,日常業務の視点を変えるヒントになるかもしれません。 |
漢方外来における診察,診療補助の実際(1)
-初診患者へのオリエンテーション
小池理保(飯塚病院漢方診療科・外来主任)
(前回よりつづく)
漢方外来における看護の特殊性と問題点
飯塚病院漢方診療科の外来では,毎月のべ2200名の患者さんが外来受診し,新患も毎月70名ほどお迎えします。年齢は乳児から90代まで,疾患もコモンディジーズから難治性疾患までと,実にさまざまです。
漢方外来における看護の特殊性と問題点について,当院で検討した際,以下のような事項が挙げられました。
1.患者の愁訴や疾患は多種多彩で年齢層も幅広く,通院歴が長い患者が多い
⇒広い医学知識・看護力が必要 2.漢方独特の診察方法がある
3.漢方薬の試服
|
1.については,患者が抱える疾患は多岐にわたり(表1),検査値に表れない症状や西洋薬の副作用に悩んでいる方,民間薬や健康補助食品などさまざまな治療を経て来院される方など,受診動機,背景も多岐にわたります。漢方診療科は総合診療科とも言われており,心理的背景も含めてさまざまな疾患に対する知識が看護師にも求められています。
次に2.についてですが,ほとんどの方は本格的な漢方診療は初めてです。初めて診察を受ける患者さんには,医師の診察の前に看護師から,細かいオリエンテーションを行っています。漢方診療に対する理解を深め,安心して治療を続けていただくためにとても重要な時間です。当科では,3年以上通院される患者さんが6割以上を占めていますが,オリエンテーションが,長いお付き合いの入口になっているのです。
今回は,特に初診の患者さんへのオリエンテーションを中心に,漢方外来における看護の留意点についてお話しします(3.は連載第4回で詳しく解説予定)。
診察前のオリエンテーションの実際
1)導入:生活全般を振り返り,漢方薬に対する理解を深めてもらう
まず,現在受診している医療機関,民間薬も含めた服用薬の有無,嗜好品(たばこ,アルコール),健康食品の摂取について尋ねます。当科初診患者の75%が西洋薬や民間薬を服用しているという統計結果が得られています。また,ミネラルウォーターやお酢など漢方医学では体を冷やすと考えられている食品や,サプリメントなどの民間薬を摂取している患者さんも多いようです。
続いて,漢方薬は保険が適用されますが,適用外の薬もあること,当科では煎じ薬も含め,すべて院外処方であることも了解していただきます。ここで,エキス剤と煎じ薬の違いもお話ししています。エキス剤はコップ半分ぐらいのお湯に溶かして飲むと効果的です。すでに他院でエキス剤を処方されている患者さんも多いのですが,口に含み,水で飲むという間違った服用方法をされている方がほとんどです。そのような患者さんには「インスタントコーヒーを口にいれて水で流しこんでいるようなものですよ」と説明し,改善を促しています。
そして煎じ薬については,(1)その患者さんの体質や病態に合わせてブレンドした“オーダーメイド薬”であること,(2)生薬をグツグツと煮出すものであること,(3)一般にはエキス剤よりも効果があると言われているが,「煎じるのが大変」と言う方も多いので,ライフスタイルに合わせて医師とよく相談して選択すること,を説明しています。
また,食事や運動も含めたこれまでの生活習慣を見直すこと,前述のように漢方薬を効果的に服用するだけで,体調が改善するケースも多いことも,忘れずにお伝えしています。これだけでも初めての患者さんは興味津々で聞いてくださいます。しかしここはまだまだ導入。オリエンテーションの本番はここからです。
2)実際の診察に関する説明
次に,実際の診察について説明していきます。内科と比較した診察方法の特殊性を表2に示します。
表1 飯塚病院漢方診療科受診患者の特徴(2001年度,飯塚病院の調査結果より)(左)
表2 一般内科と比較した,漢方による診察方法の特殊性(右) |
当院の通院患者に「漢方の診察(舌診・腹診)について知っていましたか?」とアンケート調査したところ,約8割の患者さんが「知らなかった」と答えました。このように「漢方医学による診察は初めてで,どのようなことをするのか知らない」という方がほとんどなので,「漢方の診察を上手に受けていただくために」(図1)を参考にしながら丁寧に説明を行います。
図1 外来患者への教育ツール「漢方の診察を上手に受けていただくために」 |
図2 問診票にあたる初診用「健康調査表」の一部。質問項目は200以上に及ぶ。 |
このとき,漢方では全身のバランスを診ることを大切にするので,たとえ受診目的が皮膚疾患の改善であっても,すべての患者さんに対し,診察台に横になっていただき,顔色,脈診,腹診,舌診,足の冷えやむくみなど全身の細かい診察を行うことを伝えます。
「毎回お腹を診るのですか?」と聞かれることもしばしばですが,毎回全身の診察をして身体の状態を確認しながら,今の患者さんに合った漢方薬が処方されているのかを検討することが治療の基本であることを理解していただきます。また,特に若い女性には,腹診に抵抗がある方も少なくないので,十分な説明を行い,必要時には看護師が診察介助を行うことを必ず伝えています。
以上のような事柄を,限られた短い時間で説明していくので,前述の図1や『漢方ファン』(註)など,院内で作成した教育ツールを活用しています。
また,「医師が既往歴や家族歴を細かく問診するので,あらかじめこれまでの病歴を頭のなかで整理しておいてください」と説明しますが,年配の患者さんには難しいようで,この工夫には頭を悩ませています。
待合室のマネジメント
また,外来看護師には待合室のマネジメントという視点も求められます。漢方診療科は予約制ですが,急性の症状で臨時に受診される患者さんも多数います。どのように体調が悪いのか,待合室で座って待てる状態なのかを観察します。状態によっては検査や入院の必要性もあるので,医師と相談しながら,できるだけ早く診察できるように配慮しています。
以上,漢方外来での,特に初診の患者さんに対するオリエンテーションや留意点をお話してきました。私自身,漢方外来での看護経験は2年半になりましたが,まだまだ毎日いろいろなことが起こり,日々勉強です。漢方専門医は患者さんの全体像を五感を駆使して診ていますが,考え方が看護と共通する部分もあり,これまでの自分の看護観を振り返るよい機会になっています。
次回は当院の漢方専門医が,実際に行っている診察と診察場面での看護師の役割について,解説します。
(つづく)
註:漢方診療科外来が,患者さん向けに定期発行しているパンフレット。診察,薬,養生のアドバイスなどが看護師の視点で書かれている。
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