医学界新聞

2009.05.18

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


精神科の薬がわかる本

姫井 昭男 著

《評 者》長嶺 敬彦(清和会吉南病院・内科部長)

素顔の向精神薬の美しさ

 このたび医学書院から姫井昭男先生が書かれた『精神科の薬がわかる本』が出版された。これは精神科で使われている全領域の薬の種類,使い方,作用,副作用,禁忌,患者さんへの説明の仕方がざっと理解できるお薦めの本である。解説されているのは「抗うつ薬」「睡眠薬」「抗精神病薬」「抗てんかん薬」「老年期に使う薬」「気分安定薬」「抗躁薬」「抗不安薬」「抗酒薬」「悪性症候群の治療薬」「発達障害をもつ人への薬物療法」と,11領域にわたる。コンパクトながら,精神科の薬が“ざっと”理解できる。このような本を望んでいた人は多いのではないだろうか。

 向精神薬に関する本は,一般的に言って非常に難解だ。脳のさまざまな受容体や神経回路が一通り頭に入っていることを前提に書かれているからである。

 もっと簡便で,それでいて臨床の場で使える向精神薬の薬理の本はないものかと思っていたところ,本書を見つけた。タイトル通り,向精神薬が「わかる」本である。

 向精神薬の薬理は複雑で,簡単な模式図で示すことが困難である。その上,抗うつ薬,睡眠薬,抗精神病薬,抗てんかん薬,認知症の薬,気分安定薬と,種類も多い。それらを網羅し,その作用と臨床的意義を簡便に記述することは不可能に近い。

 しかし,本書を一読すると難解な向精神薬の薬理が身近に感じられる。それは本書が,理論の押し売りをしていないこと,それから表面的で辞書的な記述を避け,現実的な記述を用いているためと思われる。ここに著者ならびに編集者の,「薬理は難しいからと毛嫌いするのではなく,臨床現場での向精神薬の振る舞いを知ってほしい」という真摯な願いが感じられる。

 大多数の精神薬理の本は,薬理学的理論を重視するあまり,向精神薬の一面をデフォルメしてしまう危険性がある。それは向精神薬を分厚く化粧し,見せかけの美人に仕立てるようなものである。だから読んでいても実感がわかない。私は,優れた向精神薬は過剰に化粧をしなくても美しいと思っている。だから向精神薬は,多くの患者さんに福音をもたらしているのである。著者もおそらく同じ意見ではなかろうか。

 向精神薬は決して「魔法の薬」ではない。言い換えれば,非のうちどころがない「絶世の美女」ではない。向精神薬の欠点を理解し,それでもなおかつ素顔の向精神薬は美しいと感じるからこそ,著者は難解な薬理がわかりやすく書けるのだと思う。

 本書を紹介するのに「臨床での向精神薬の振る舞いを,著者の膨大な薬理学的知識を背景に解説した本である」と簡単に記すこともできる。しかし,それでは本書の本当のよさは伝わらない。本書で著者ならびに編集者は,「素顔の向精神薬の美しさ」を表現しようとしたのではなかろうか。私にはそう思えるのである。

A5・頁208 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00763-4


統合失調症治療ガイドライン 第2版

精神医学講座担当者会議 監修
佐藤 光源,丹羽 真一,井上 新平 編

《評 者》鮫島 健(日本精神科病院協会会長/鮫島病院院長)

首尾一貫した明瞭な疾患概念
すべての精神科医療者に贈る良書

 「統合失調症治療ガイドライン」は,初版以来約4年ぶりに改訂第2版が出版された。精神医学の最新の進歩を広く取り入れながら,エビデンス・ベースドの治療ガイドラインをめざした本書は,発刊後多くの医師だけでなく多職種の精神科医療関係者に読まれ支持されてきた。

 本書は「治療ガイドライン」でありながら,第1章疾患の概念のなかで,統合失調症の概念,疫学,臨床症状,経過と転帰などが簡潔に要領よくまとめられていて,必要で最新の知見の概要を学ぶことができるように構成されている。また,第4章その他の重要な問題として,自殺,身体合併症,早期精神病などが取り上げられており,第5章「今後の改訂と研究成果への期待」では,脆弱性-ストレス-対処モデルの精密化など,統合失調症に関する今後の重要な課題のいくつかについてわかりやすく述べられている。

 ちなみに,本書は全体的に疾患概念として,脆弱性-ストレスモデルが採用されていて,この観点から臨床症状の理解や治療の選択が説明されている。専門家による分担執筆でありながら統一された解説となっているゆえんである。

 第2章は本書の中心部分となる治療について,治療計画の策定という視点で詳述されている。まず,精神医学的管理では,医師-患者関係を確立して維持しながら,患者を全人的に理解し包括的な計画を立てて治療を進めていくなど,基本的な事項と治療計画の立て方が述べられている。具体的には,急性期治療,回復期治療,安定期治療という病期に分けて,症状の評価,治療の場の選択,薬物・身体療法,心理社会的療法について詳しく書かれている。さらに,安定期においては,治療の中止や再発防止・再発への早期介入の記述もある。網羅的ではあるが,標準以上の内容を具体的でわかりやすく説明され,治療オプションの推奨度が明記されているなど,実際の治療の参考として有益である。

 第3章の治療法の解説では,薬物・身体療法,社会心理療法のそれぞれについて最新で十分な解説が書かれている。第2版は初版の全章を部分的に改訂しているが,特に第3章は大改訂されている。新規抗精神病薬に関して,最近発売された新薬の記載もあり,処方の際の留意点や重複と漸減の方法,交差-用量設定法,直接切り替え法など実際的な技法も書かれている。社会心理療法についても,社会生活技能訓練,心理教育的家族療法,職業リハビリテーションなどに,認知行動療法,ACT,ケアマネジメント,自助グループについての最新の知見と解説が今回書き加えられ,今日的な内容になっている。

 本書は,精神科病院管理者,精神科医師,研修医師,看護師をはじめコメディカル職種のスタッフ,学生など広い範囲の人々にそれぞれに読まれるべき良書である。今後,継続して改訂され,さらに充実していくことを期待する。

A5・頁352 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00646-0

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