医学界新聞

連載

2009.05.11

研修病院見学ルポ
~いい病院のええとこ取りをめざして~

【第1回】沖縄県立中部病院

水野 篤(聖路加国際病院 内科)


初期研修必修化から5年が経過。他の病院で研修している人はどのように研修しているか?
素朴な疑問はさらに膨らみ,雰囲気でしかわからないところを何とか見てこようと考えました。
あくまで個人的な見学,総合診療科および救急の一部だけの見学になりますが,「いい病院のええとこ取り」をめざして興味深いところを少しでも紹介できたらと思います。


特色

・目標が明確:5年目での離島での勤務=中小病院300床レベルでの臨床をこなす内科医師の養成
・すべての科でGeneral Internal Medicineに触れる
・ 完全なヒエラルキーで1年目は担当医ではない(ただし,3年目での手技などは十分充実している)

Profile

病床数:550床(一般546床 感染4床)
・救急車受入れ台数:5922台/年(2007年度)
・救急外来受診総数:3万7828人/年(2007年度)

 時刻は午前4時半。眠い眼をこすりながら質問の資料を印刷し,車に乗り,研修病院としては人気絶頂である病院へと移動。夜も明けきらぬうちから見学を開始。見学の最初の病院であり,かなり気合いも入る。

 まずはER roundから見学させていただく。ER上級医に2年目研修医が簡単なプレゼンテーション(以下,プレゼン)。その後ベッドサイドをラウンド。プレゼンの練習でなく,確認目的といった感じである。救急室の特徴は,夜間の経過観察および入院が必要な患者をobservationする病床があること。中央にあるナースステーションからの見通しはよく,経過観察には最適である。ただし20床であるため,それ以上の患者では一般病棟への押し出しとなる。救急処置の流れを学ぶには治療をしながら経過観察できるので非常に良い。難点は各科専門医がすぐに診ない可能性があるということのみ。翌日の午前までの各科専門医による診療の必要性を判断するのは救急医に任される。数人のみのヒアリングだが,専門医の意見としても,ここの救急外来は診断もしっかりしており安心ということ。さすがのスタイルである。

 終了後,7時30分には総合診療科の医師と合流し,まず後期研修医の部屋を訪れる。決してきれいとは言い難いが,どこの病院も一緒である。机・ロッカーは各自与えられている。初期研修医には机・ロッカーはない。寮はあるが,なんと1年目が(隣接してはいるが)病院外,2年目が病院内の寮であり「普通逆じゃないか?」とかなり驚いた。この病院のヒエラルキーによれば,2年目が最も忙しくなるシステムだからであろう。

 内科チーフレジデント,総合チーフレジデントの医師にいろいろ質問した。チーフレジデントはやはりカンファを取り仕切る形となる。当院の内科チーフレジデントは入院管理はするが,完全にローテーションの枠の外になり,受け持ち患者も持たない。中部病院チーフレジデントの仕事内容はそこまでではなく,各科ローテーションと兼務することが可能であるようだ。

 総合診療科と救急の外来ブースをそれぞれ見学。外来はよくあるスタイルで,1症例ごとに指導専任の指導医がreview。救急ローテーションでの救急外来reviewは1日の終わりに必ず行うとのこと。

昼のレクチャーの風景:学生が多かったが,しっかり聴いていた。
 病院内を案内していただいていると,たまたま循環器の回診に遭遇。システムは全科とも病棟当番(部長含む)があり,その医師は病棟の当番として研修医と午前中かけて回診を行う。回診中は1年目の研修医はいろいろ話している内容などを必死にチャート記載していた。1年目:通称インターンの医師は基本的には患者の受け持ちにはならない,2年目:通称1stレジデントから患者を受け持つとのこと。かなりはっきりしたヒエラルキーである。

 なんだかんだしているうちに昼となりコアレクチャー。講師は救急4年目の研修医で,テーマは「上腕骨骨折」。学生がかなり多いため非常に人が多いが,研修医が全員参加しているわけではない。やはり参加に関してはどこの病院もかなり難しいという印象。同時に離島病院,診療所への配信もあり,内容は研修医向けで極めてわかりやすい。再度見学を続け,次は感染症回診。どの科も午前中に全科回診した後,午後も新規入院患者や,問題症例を取り扱うとのこと。先ほどのチャート以外に,入院症例のプレゼンはすべて1年目の仕事。午後回診は1年目の教育にかなり力が入っている。まずフルプレゼンを行い,プロフィール・現病歴でfeedbackとまとめ,既往歴・身体所見でfeedbackとまとめ,プロブレムとアセスメントでfeedbackとまとめという最も王道のスタイル。このときは上級医が会議のためベッドサイドでの身体所見などは一緒にはとっていなかった。具体的な身体所見の教育は見学できず,残念。

 再度後期研修医室に戻り,内科チーフに離島研修の実際を講義していただいた。ようやく頭の中も整理され,最後時間ぎりぎりまで呼吸器回診についた。先の感染症回診と同様で,さらに検査所見としてX線などがあり,当院でもよく注意するプレゼンテーションの順番やterminologyなどについて,しっかり講義されていたのは非常によかった。

 若干回診で盛り上がりすぎたため時間に遅刻しながらカンファ室に入り,同時に来ていた同僚が聖路加国際病院の紹介を行った。かなり質問攻めにあったが,いろいろ興味を持っていただいていたようである。後は内科のチーフレジデント当直への申し送りをしているところを見学し,終了。初日としては最高の見学であったと思う。

 まとめてみると,臨床研修制度見直しでも総合診療科があり,救急ありで,研修内容に大きな変化はないと考えられる。名の通ったといっては語弊があるかもしれないが,そのような病院では研修制度見直しでも根底は揺るがない。沖縄県立中部病院は,外来研修はあるし,病棟研修も充実,ローテーションする間に手技も内視鏡・CAGなどまで挑戦できる可能性があるというのはやはり魅力的である。上に述べた,病棟担当の上級医がかなり時間を割いて1年目の研修医の指導に当たるのは,なかなかまねのできるシステムではないと思われる。

 最後に,聖路加と沖縄県立中部病院との共通点で締めくくりたい。なんといっても,研修の目標像というものが具体的にある数少ない病院であることで,聖路加では4年目での病棟長であるのに対して,中部病院では5年目での離島勤務とのこと。具体的目標=ロールモデルをはっきりさせるということは重要だと思う。いやぁ,興味深いですね。

Point!
どの科も1年目がプレゼンテーションを行い,それに対して部長を含めた上級医が自ら指導する。普通のことができることが最もすばらしい!!

つづく


水野 篤
神戸市生まれ。京大医学部卒後,神戸市立医療センター中央市民病院にて初期研修を行う。聖路加国際病院の後期研修医として入職。内科チーフレジデントを経て,同院循環器内科医として日々忙しい生活を送っている。現在医師5年目。さまざまなことに興味があり,今後も熱い人生を送ることを目標としている。

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